99話 ジークのお願い
あれから少し。
ジークが思っていた以上にしっかりと動いてくれて、リナリアの問題は完全に解決した。
リナリアはジークと親交がある、という認知が広まり……
さらに、ジークは友達をとても大事にする人で、もしも害されるようなことがあれば一切合切容赦しない、という噂がどこからともなく流れた。
断っておくけれど、私の仕業じゃない。
噂は、たぶん、ジークが流したものだろう。
完璧にリナリアを守るために、あえてそうしたはず。
あれこれとさせてしまい、ちょっと申しわけない。
なので……
今日。
ジークのお願いを聞く日なのだけど、できる限り、彼の期待や要望に応えることにしよう。
「よし」
そんな決意をしつつ……
私は、街の広場の一角で、ぐっと拳を握る。
「アリーシャ、おまたせ」
「いえ、特にそのようなことは……」
振り返り……
ちょっと驚いた。
今日は休日。
ジークが私服で来ることは予想していたのだけど……
とてもラフな格好だった。
シンプルな白のシャツをメインに、全体を素朴な感じでまとめていた。
派手な衣服ではないし、目を引くようなものではなくて、本当にシンプルなもの。
装飾品なども一切ない。
どこにでもいる普通の人のようだ。
……いや。
ジークのような美男子、どこにでもいるわけがないか。
装いはとてもシンプルだけど、だからこそ、中身が際立つ。
ジークの整った顔に、バランスのとれた体。
そして、ふんわりと漂う気品。
まるで、物語の中からヒーローがこっそりと抜け出てきたかのよう。
まあ、ジークは王子なので、似たようなものかもしれないが。
「今日のアリーシャは、とても素敵な格好をしているね」
「ありがとうございます。休日におでかけということなので、それなりに張り切ってみたのですが……ジークさまはシンプルですね」
「嫌だったかな? あまり目立つのもどうかと思い、こうしてみたんだけど……」
「いえ、とても素敵だと思います。それに、普段は見ることのできないジーク様を見ることができて、なんだか得をしたような気分です」
「そうかい? なら、よかったよ」
互いに小さく笑う。
イメージと違ったことで最初は驚いたけれど、でも、ジークはジーク。
装いは変わっても、中身が変わることはない。
それがなんだか、ちょっと楽しく感じた。
「えっと……それで、今日はどうなさるのでしょう? 一緒にお出かけ、ということは聞いているのですが……」
「いや、違うよ」
「あれ? 私、なにか間違っていましたか?」
「お出かけじゃなくて……デートだよ」
――――――――――
ジークと並んで街の通りを歩く。
天気は快晴。
青い空の中を、白い雲がゆったりと泳いでいる。
そんな空の下で、活気あふれる市が開かれていた。
お腹をいっぱいにしそうな屋台から、女子の心を惹きつけてやまないスイーツ。
食べ物だけじゃなくて、服やアクセサリー。
ちょっと変わったところで行くと、幸運のラッキーアイテムなんてものも売られていた。
そんな市を、ジークと一緒に見て回る。
「へぇ……市をちゃんと見たことはなかったから、なかなか新鮮だな」
「そうなのですか? ちょっと意外です。ジーク様なら、こういうところもしっかりと視察しているかと思っていたので」
「……そうやって無自覚に褒めてくるところは、なんとかならないのかな?」
「???」
「まあいいさ。一応、僕も、何度か市を視察したことはあるよ。ただ、その時は王子という立場を全面的に押し出していたからね。市の管理者の方もかしこまっていて、ありのままを見る、というのはなかなか難しくて」
「なるほど。時に、立場が困ったものになってしまうのですね」
「そういうことだね」
ジークは困ったように言う。
ただ、本気で困っているわけではなさそうで……
どのように対処をすればいいか?
という感じで、頭を悩ませているみたいだ。
ただ、困っている、で済ませることはない。
自分がすべきこととしっかりと向き合い、その対策を考える……
ジークだからこそできることだろう。
王子は伊達じゃない。
「ということは、今日は、お忍びの視察ということでしょうか?」
「いや、違うよ」
「あれ?」
てっきり、そういうことだと思っていたのだけど……
違うのなら、どういうことなのだろう?
ジークは、くすりと笑う。
それから、そっと私の髪に触れた。
「……っ……」
なんだか……こそばゆい。
髪の先をちょこっと、指先で触れられているだけ。
それなのに、くすぐったいというか……
恥ずかしい、のだろうか?
「今日は……デートだよ」
「なるほど、デートでしたか。デートなら……はい?」




