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98話 虎の威を借りまくる

 とある日の昼。

 学院の食堂では、たくさんの生徒が食事をとっていた。


 多くの貴族が通うけれど、学院では、基本、身分の差はない。

 誰もが等しく、そして、仲良く。

 楽しそうに、穏やかな時間を過ごすことができている。


 ただ、今日は、食堂はそれなりのざわめきに包まれていた。


「今日は、リナリアはなにを食べるんだい?」

「え、えっと……さ、魚とキノコのクリームパスタ、を!」

「へぇ、美味しそうだね。それなら、僕も同じものにしようかな?」

「で、殿下もですか!?」

「その呼び方はやめない?」

「で、ですが……」

「学院では、身分の差を気にする必要はないのだよ。公の場では困るが……ふむ。でも、リナリアなら別にいいかな? 友達だからね」

「きょ、恐縮です……!」

「だから、そんなにかしこまらなくてもいいのだけど……まあ、そのうち慣れるかな?」

「が、がんばります!」

「じゃあ、行こうか」

「はい!」


 ジークは優しく微笑みつつ、緊張でガチガチになっているリナリアをエスコートする。


 ただの学食なので、エスコートをする必要はないのだけど……

 それはそれで必要なことだった。


 そのまま、二人は同じ席についた。

 一緒に食事をとる。


 リナリアは、やはり緊張したまま。


 以前、顔を合わせた時は比較的落ち着いていたものの……

 その時は、フィーがいた。

 私達もいて、ジークの意識がリナリア一人に向いていた、なんてことはないので、ある程度、落ち着くことができたのだろう。


 でも、今は二人きり。

 相手は王子。

 さすがに色々と意識して考えてしまい、緊張がマックスのようだ。


 まあ……


 これはもう仕方ないので、がんばって慣れてほしい。

 しばらく続くのだから。




――――――――――




「……と、いうことになっていましたね」


 中庭に移動した私は、食堂で見たことをアレックスとネコ。

 そして、フィーに話した。


「リナリア、大丈夫でしょうか……?」

「あまり大丈夫ではなさそうでしたけど、ここはもう、がんばってもらいましょう」

「うーん……」

「不安ですか、フィー?」

「それは……はい」

「大丈夫です。私を信じてください。きっと、うまくいきますから」


 私が考えた策は、虎の威を借る狐……だ。


 あえてジークに動いてもらい、リナリアと親しくしてもらう。


 別に、恋人のように、とまでは求めていない。

 そこまでしたら、それはそれでやりすぎて、新しい問題を招く可能性がある。


 親しい友達、くらいでちょうどいい。

 そして、ジークにはそれを実行してもらい……

 リナリアも、それに付き合ってもらった。


 リナリアは、王子であるジークと親交がある。


 そんな噂、認知が広まればいい。

 ただ、それだけで今回の問題を、ほぼほぼ解決できるだろう。


 フィーは公爵令嬢ではあるが、出自が少し特殊なため、腹立たしいことに……とても腹立たしいことではあるのだけど、軽く見られてしまうことがある。

 故に、フィーの友達だとしても、害をなそうとする者が現れる。


 しかし、王子であるジークなら?


 普通に考えて、害をなそうなんて考えるわけがない。

 なにしろ、相手は王子なのだ。

 その友達に手を出そうものなら、王家に反逆の意思あり、と取られてもおかしくはない。


 まあ、ジークはそこまでしないだろうが……

 この際、本人の意思は関係ない。

 王家を敵に回したらまずい、と思わせることができればいい。


 なので、リナリアとジークは親しいぞ、友達なんだぞ、と示したわけだ。


 今日だけではなくて、これから一週間くらいは共に行動をしてもらう。

 そうすれば、親交があると認知されて、バカなことを考える人もいなくなるだろう。


「……ずいぶんと悪知恵が働くんだな」


 アレックスが、なぜか呆れた様子で言う。


「悪知恵とはなんですか、悪知恵とは。策略家と言ってほしいですね」

「うーん……私も、今回はアレックスの意見に賛成かな?」

「ネコ!?」

「えっと……わ、私はノーコメントで」

「フィーまで!?」


 おかしい。

 完璧なプランを立てたはずなのに、称賛ではなくて呆れられてしまうなんて。

 いったい、どういうこと?


 いや、まあ。

 別に称賛されたかったわけではないから、どうでもいいのだけど。


「しばらくの間、リナリアさんとあまり一緒にいられないかもしれませんが……そこは我慢してください。うまくいけば、一気に問題が解決すると思うので」

「はい、ありがとうございます。やっぱり、アリーシャ姉様はすごいです!」

「そんなことありませんよ。この場合、すごいと称賛すべきはジーク様ですし」


 王家の権威を盾にする。

 わりと無茶なお願いだったのだけど、ジークは快く引き受けてくれた。

 その器量こそが、彼のすごいところだろう。


 とはいえ……


『今回の件、引き受けるのはまったく問題ないのだけど……わがままを言うのなら、僕にもメリットがほしいな。解決したら、一つ、なんでも言うことを聞いてほしいのだけど、どうだろう? ああ、もちろん、無茶なことは言わないよ。あくまでも、常識の範囲内だから』


 ……なんてことを言われて、特に深く考えず了承したのだけど。


 ジークは、いったい、なにをお願いするつもりなのだろう?

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