91話 なんだかちょっと……あれ?
「ま、今日は俺達で食べようぜ」
アレックスが明るく言う。
もしかしたら、私のことを気遣ってくれたのかもしれない。
というか、それで確定だろう。
大雑把で適当なところはあるものの……
なんだかんだ、人の心の機微には聡いのだ、彼は。
生まれ育った環境の影響だろう。
「ところで……アリーシャは、今日はお弁当はどうしたんだい?」
「え? ……あっ。そういえば、フィーとリナリアさんの分を作ることに一生懸命で、自分の分を忘れてしまいました……」
「アリーシャらしいね。そういうことなら、僕の分をいくらか分けるよ」
「いえ、そういうわけには……」
「気にしないでほしい。今日はちょっと、お腹はそこまで空いていないからね。午後も、体を動かす授業はないから大丈夫だよ」
ジークはそう言うものの、すぐに嘘だとわかる。
育ち盛りの男性なのだ。
食べすぎることはなくても、減らしていい、なんてことはないだろう。
これも、ジークの優しさなのだろう。
うーん……
殿下ということは関係なく、本当に優しいんだよな、彼は。
「なら私は、飲み物をどうぞ」
ネコが微笑みながら、学食で売られているカップのドリンクを差し出してきた。
「それはネコのでしょう? さすがに、それを受け取るわけには……」
「大丈夫。こんなこともあろうと、一つ、余分に買ってきたから」
そう言うネコのもう片方の手には、同じくカップのドリンクがあった。
準備がいい。
さすがネコ……ん?
「……つまり、私がなにかしらミスをすると予想していた?」
「そうだね♪」
「ものすごくいい笑顔で肯定された!?」
うーん……
私は、そこまでぽんこつに見られていたのだろうか?
自分で言うのもなんだけど、公爵令嬢として、しっかりやっていたと思うのだけど。
「いやいやいや、それはねえだろ」
「ないかな」
「ないなー」
三人揃って否定されてしまった。
なぜ……?
「アリーシャは、シルフィーナが絡むと、途端にダメになるからな。さすがに、それは自覚あるだろ?」
「いいえ、まったく?」
「こいつ、マジか……」
アレックスは、なにをおかしなことを言っているのだろう。
フィーの前では、私は完璧な姉を演じている。
いや。
演じるのではなくて、自然と完璧になってしまうのだ。
天使のように可愛らしいフィーにふさわしくなろうと、自然とそうなるのだ。
故に、ありえない。
「普段は、本当になにも問題はないのだけどね。シルフィーナが絡むと……なぜだろうね? 僕は、いつも本当に不思議に思うよ」
「目に入れても痛くないくらいかわいがっているから、周りも見えなくなる……とか? まあ、そういう、ちょっと抜けたところがあった方が、私は愛嬌もあって親しみやすさもあって、いいと思うけどね」
「おい、さらっとアリーシャを口説いてないか?」
「まさか。口説くなら、もっと本気でやるよ?」
「ふふ、どうかな?」
バチバチ、と睨み合い、火花を散らす三人。
はて?
なぜ争っているのだろうか。
まあ、本気のケンカというわけじゃなさそうなので、気にしない。
猫がじゃれあっているようなものだろう。
「とりあえず、食べましょうか」
「そうだな、腹も減ったしな」
「いただきます」
「「「いただきます」」」
四人でごはんを食べる。
フィーがいないのは、ちょっと……いや。
かなり寂しいけど……
でも、妹離れしないといけない。
それに……
「どうかな、アリーシャ。僕のお弁当は、なかなか美味しいと思わないかい?」
「それは当然じゃないかな? だって、宮廷料理人が作っているわけだし」
「それを自分の手柄みたいに言うなよ」
「細かいことを気にしたらいけないよ」
「だから、お前が言うなって……」
「聞いた話だと、そういう国の誰かに頼る、っていうのはしないって聞いていたけど……」
「以前はそう思っていたし、今も変わらないよ。ただ……」
ちらりと、ジークがこちらを見た。
「権力を使うにしても、それで誰かが喜ぶのなら、それはアリなのかな……と。そう思うようになったのさ」
「まったく……開き直りかよ」
「いいんじゃないかな? 私は、そういう方が好きだよ?」
「ありがとう」
「あ、好きっていうのは、あくまでも友達の範囲だからね」
「それも、ありがとう」
うーん……
この三人、いつの間にか仲良くなっていたんだよな。
以前は、普通の友達、っていう感じだった。
でも今は『親友』という感じだ。
なにか、そうなるきっかけがあったと思うのだけど……
それは、なんだろう?
この三人の共通点なんて、あまりないはずなのに。
「……まあ」
難しいことは考えないことにした。
それよりも、今はお昼。
お腹が減った。
公爵令嬢であろうと、悪役令嬢であろうと、食べないとお腹は空いてしまうのだ。
「美味しいですね♪」
ジークのお弁当は確かに美味しい。
でも、すごい料理人が作ったというだけじゃなくて……
三人と一緒に食べているからだな、なんてことを思うのだった。




