89話 シルフィーナの友達
舞踏会も無事に終わり……
ちょっと寂しいけれど、賑やかで楽しい時間は終わり。
いつもの日常が戻ってきた。
そんなある日の昼休み。
いつもの中庭。
みんなでごはんを食べるため、私とアレックス、ジーク、ネコの四人でフィーを待っていた。
ただ……
「……遅いですね」
いつもなら授業が終わるとすぐに来る。
でも今日は、まだフィーの姿が見えない。
「まだ、鐘が鳴ってから五分だよ」
「五分もです」
「たった五分だろ」
「フィーの五分は長いです」
「時間の長さは、誰でも同じじゃないかな?」
「フィーの場合は体感時間が違います」
フィーを待つ五分。
フィーと過ごす五分。
その二つは明らかに違うのだ。
この世の真理である。
「なにかあったのでしょうか……? アレックスは、同じ学年ですよね?」
「ああ」
「今日のフィーに、変わった様子は?」
「いや、特にはないぞ」
「誰かに呼び出されたり?」
「見てない」
「いじめられていたり?」
「俺がいるのに、そんなことさせるかよ」
力強い言葉。
頼もしい。
「……そういえば、最近は同じクラスの女とよく話していたな」
「クラスの女性と?」
「えっと、確か……そうそう。ベルン男爵家の娘、だったかな?」
「お名前は?」
「リナリアだったか」
「年齢は?」
「同じ学年だから、シルフィーナと同じくらいだろ」
「性格は?」
「そこまでは知らねえよ!」
「アレックス……調査不足ですね。怠慢では?」
「なんで俺が調査しないといけないんだ!?」
フィーと親しくしている可能性のある人物だ。
もう少し詳しく確認してほしい。
ジーク様が苦笑しながら言う。
「シルフィーナにも自分の交友関係があるのだから、気にしすぎない方がいいんじゃないかな?」
「むぅ……それはそうなのですが」
「必要なら、私が調べようか?」
ネコが、こそっと伝えてくる。
「いえ、大丈夫です」
「そう?」
「ジーク様の言う通り、ちょっと気にしすぎだったかもしれません」
フィーには、フィーの交友関係がある。
そんなところにまで口を出したら、さすがに姉としてアウトだ。
「シルフィーナ姉様、みなさん、おまたせしてすみません」
少ししてフィーがやってきた。
怪我はないし元気そうなので、事件などに巻き込まれたわけじゃなさそうだ。
よかった。
ただ……
一人じゃない。
見覚えのない女の子が隣にいる。
淡い茶色の髪は、肩の辺りで切りそろえられている。
穏やかな目。
優しい表情。
小動物のように小柄で、そのせいか、おとなしそうな印象を受ける。
学院では、制服のリボンで学年を区別しているのだけど……
フィーと同じ色のリボンをつけていた。
「遅くなってしまって、ごめんなさい」
「大丈夫ですよ」
「それと……突然ですみません。今日は、紹介したい人がいて……」
「そちらの子ですか?」
「はい、えっと……」
フィーが、隣の女の子を見る。
ぺこり、と丁寧なお辞儀をされた。
「えっと……は、はじめまして。リナリア・ベルンといいます、よろしくお願いします。あっ……ベルン男爵家の長女の、リナリアと申します」
言い直して、男爵家を付け足していた。
学院には貴族も多い。
相手がどれくらいの位置にいるか、知るのはけっこう大事なことだ。
学院では身分の差は関係ないと言われているものの、でも、完全に無視することはできず……
そのためにも、身分を知っておくことは必要だ。
「はじめまして。フィー……シルフィーナの姉の、アリーシャ・クラウゼンです」
私が挨拶を返して……
アレックス達も、続けて挨拶をした。
ジークがいることに緊張した様子だけど、ただ、そこまで平常心を失っているわけではない。
普通の人なら、あわあわと慌てるのだけど……
うーん、わりと図太い人だ。
「えっと、リナリアとは最近、よく話すようになって……それで、できれば彼女も一緒にごはんを、と思いまして……」
フィーが事情を説明してくれた。
「リナリアさんは、フィーと……?」
「はい。すコリ前に、授業でわからないところを教えてもらって、それをきっかけに、色々とお話をするようになって」
「なるほど……どのような話を? どれくらいの人数で? 何分ほど?」
「あの……アリーシャ姉様、尋問みたいになっています」
「あら、すみません。大事な妹が連れてきた友達なので、どのような方なのか、ついつい気になってしまい……」
これは反省しないと。
姉がうざいから友達になるのやめよ。
なんてことになったら、フィーに合わせる顔がない。
「フィーと友達になっていただき、ありがとうございます。まるで欠点がなく、天使のように愛らしい子ですが、これからもどうぞ……」
「あ、アリーシャ姉様、恥ずかしいです!」
「? なにかおかしなことを言ったでしょうか。事実を述べたまでですが……」
「事実じゃありません!」
「いいえ、事実ですよ。フィーは欠点なんて、どこを探してもありません。粗探しをしようとしても、欠片も見つからないほど。そして、その愛らしさは、まさに天使。その微笑みと女神のような器に、人々は癒され、歓喜して敬うように……」
「そういうところです! もうっ……アリーシャ姉様、きらい!」
「!?!?!?!?!?!?!?!?」
がくり、と膝をついた。
フィーが嫌い、嫌い、嫌い……
私の全てが否定されてしまったかのようで、私は、これからなにを頼りに生きていけば……?
「ふふっ」
ふと、リナリアが笑う。
無邪気で。
純粋で。
そして、楽しそうな笑顔だった。
「シルフィーナもクラウゼン様も、とても楽しそうですね」
「そう……見えますか?」
「はい」
「そうですか……」
うん。
なにも心配はいらないみたいだ。
リナリアは、とても『良い人』だと思う。
「これからも、フィーのいい友達でいてくださいね」
「がんばります!」
ぐっと、リナリアは手を握って見せるのだった。




