85話 しゃるうぃーだんす
音楽が流れる。
一、二、三……
合わせて、練習した通りにゆっくりと足を動かしていく。
フィーの手は少しだけ震えていた。
「緊張していますか?」
「……少し」
「実は、私もです」
「え、アリーシャ姉様も?」
「私だって、緊張しますよ。相手がフィーなら、なおさらです」
「えへへ……♪」
フィーの表情が、少し柔らかくなった。
周囲には、家族や友人、婚約者と踊る生徒達。
男女だけではなくて、姉妹や兄弟、同性の友達同士もいる。
学院の舞踏会……
身分や将来の関係だけではなく、今一緒に踊りたい相手を選ぶことができる。
華やかで、とても楽しい場所と思うことができた。
「楽しいですね」
「はい、楽しいです!」
フィーの緊張はとれたようだけど、だからといって、劇的にダンスが上達するわけではない。
多少のぎこちなさは残ったまま。
ただ、輝くような笑顔はそのままだ。
うん。
これでよし。
完璧に踊るよりも、楽しい時間を過ごした方が何倍もいい。
……きっと、楽しい思い出になる。
そんなことを考えている間に一曲が終わり、周囲から拍手が起きた。
私とフィーは手を繋いだまま、それに応えるかのように礼をした。
「アリーシャ姉様」
「なんですか?」
「最初の一曲に、私を選んでくれてありがとうございます」
「当然です。フィー以上に大切な相手はいませんから」
「……はい」
フィーが、幸せそうに微笑む。
でも、その後ろ……
アレックスとジークを見て、ちょっとだけ表情を引き締めた。
「フィー?」
「……いえ、なんでもありません」
なんだろう?
問いかけるよりも先に、アレックスがやってきた。
「おつかれ。アリーシャもシルフィーナも、すごかったな。疲れていないか?」
「まだ一曲、踊っただけですよ」
「大丈夫です」
「そっか。なら、あー……」
アレックスが手を差し出してきた。
練習の時よりも、少しだけ緊張した顔をする。
「……俺と踊ってくれないか?」
「はい、喜んで」
手を重ねて、再び中央の広間に戻る。
アレックスは……
ちょっと動きがぎこちない。
「緊張していますか?」
「してねえ」
「手足が硬いですよ?」
「元々だ」
「……では、そういうことにしておきましょう」
「くっ……すぐにぎゃふんって言わせてやるからな」
「どうぞ、楽しみにしています」
くすりと笑い……
そして、二曲目が始まる。
私達はステップを刻んで……
「おぉ……」
アレックスの動きは、練習した時よりも良くなっていた。
最初のぎこちなさはどこへやら。
曲が始まると、けっこう綺麗なステップを刻んでいた。
「上手になりましたね」
「昨日も練習したからな」
「え、一人でですか?」
「そうだよ……悪いか?」
「いえ、嬉しいです」
「嬉しい? どうして?」
「だって、私と踊るために、練習してくれたのでしょう?」
「……それは、まあ」
照れていた。
ちょっと可愛い。
……ん?
可愛い?
フィーならともかく、ヒーローであるアレックスのことが可愛いなんて……
どうしたのだろう、私は?
そんなことを考えている間に、二曲目が終わる。
ただ、アレックスは、すぐには手を離さなかった。
「アレックス?」
「……もう少し、このままでもいいか?」
「でも、次の曲が始まってしまいますよ?」
「それは……ああ、いや。そうだな、悪い」
名残惜しそうにしつつ、アレックスは手を離した。
ダンスが思っていたよりも楽しかった、のだろうか?
「次は、僕の番だね」
今度は、ジークがやってきた。
丁寧に礼をして。
甘い微笑みを浮かべつつ、私の手を優しく取る。
うん、どれも完璧だ。
これは……負けていられない!
「アリーシャ。次の一曲を、僕に預けてもらえるかな?」
「……そういう誘い文句なのですね」
「ちょっと格好つけすぎたかな?」
「いえ。ジーク様なら似合っているので、なにも問題はないかと」
小さく笑いつつ、ジークの手を取る。
そして、三曲目が始まる。
ジークがリードする形で動いて……
おぉ。
すごく踊りやすい。
とても洗練されたステップで、優しくリードしてくれている。
「さすが、ジーク様。とても上手ですね。私は、なにも考えなくても踊ることができます」
「王子としての面目は果たせたかな? そのまま、僕に任せてくれるかい」
「はい」
言われた通り力を抜く。
ジークは、私が少し遅れても待ってくれていた。
足を間違えそうになれば、自然に正しい位置へ導いてくれる。
すごい、の一言に尽きる。
「ジークさまの傍にいると、安心します」
「……」
「どうしました?」
「いや……その言葉を、ずっと聞きたかったような気がしていたから、嬉しくて」
「そうなんですか?」
「うん。もっと頼りにしてほしいな、って」
「もちろん、頼りにしていますよ。そう、皆さんと約束していますから」
「皆のうちの一人……か」
ちょっとだけ寂しそうな声。
「……いつか。あなたにとって、僕が一番頼りになる相手になれたらいいと思っている」
「一番? それは……」
どういう意味?
詳細を尋ねるよりも先に、曲が終わってしまう。
「残念、ここまでみたいだ」
「そう……ですね」
「また後で」
「あ、はい……」
ジークは、結局、なにを言いたかったのだろう?
一番とは、どういう意味なのだろう?
そのことが、なぜか気になる私だった。




