84話 舞踏会、開催!
準備に専念していると、あっという間に時間が経ち……
舞踏会当日が訪れた。
日が沈み始めた頃……
学院の大広間は、普段とはまったく違う姿になっていた。
壁や柱には、学院を象徴する青と白の布が飾られている。
天井からは魔法の光を宿した、特別な照明が吊るされて、淡い光が星のようにきらきらと輝いていた。
広間の奥には、楽団が並んでいる。
聴く人の耳を幸せにして、心を踊らせてくれた。
料理や飲み物を用意した長机。
談笑するための小さな円卓。
そして、中央にはダンス用の広い空間……全てが完璧に飾り付けられていた。
「これは……すごいですね」
「はい、すごく綺麗です!」
私が感嘆の声を漏らすと、隣にいるフィーは目を輝かせた。
「そうですね。でも、フィーの方がもっと綺麗ですよ」
「そう……でしょうか?」
「そうですよ。嘘なんてつきません」
青いドレスを着たフィーは、いつもより少し大人びて見える。
でも、笑った顔は普段と同じ。
いつものような可愛らしさもあり、でも、綺麗で……
見ているだけで幸せになれる。
さすがメインヒロインだ。
……私は、そんなヒロインにならないといけない。
うーん……今更だが、うまくいくのだろうか?
今のところ、相手といえば……
「アリーシャ」
振り返ると、ちょうど思い浮かべていたうちの一人がやってきた。
礼服姿のアレックスだ。
「……」
「なんだよ?」
「アレックスですか?」
「他の誰に見えるんだ?」
「いつもと、ずいぶん違うので」
普段は、制服か動きやすい服なのだけど、今は、ピシリとした礼服だ。
明るい髪も、きちんと整えられている。
元々、顔立ちは整っているからか、礼服を着ると、それがいつもより際立って見えた。
「馬子にも衣装、ってか? まあ、こういうのが似合わないのは自分でもよく……」
「いえ、とても似合っていますよ?」
「……そうなのか?」
「はい、すごく格好いいと思います」
「っ……!?」
アレックスが、急に咳き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「へ、平気だ……!」
「でも、顔が赤いですよ?」
「人が多くて会場が暑いだけだ! それだけだ!」
「でも、まだそれほど人は……」
「暑いんだ!」
本人がそう言うのなら、そうなのだろう。
「アリーシャ、シルフィーナ」
今度はジークがやってきた。
アレックスとは対照的に、白を基調とした礼服だ。
胸元には、王家を示す飾りがついている。
本人の美貌もあり、会場にいる誰よりも目立っていた。
ただ歩いているだけなのに、周囲の生徒達が道を空けてしまう。
「二人共、とても綺麗だ。以前に一度、見ているのだけど……うん。こうして、改めて見ると素敵だね」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます……!」
私は普通に笑顔を返して、フィーは少し照れていた。
「ジーク様も素敵です」
「ありがとう」
「まるで、物語に出てくる王子様に見えます」
「一応、本物の王子なのだけど」
「……そうでした」
「まさか、忘れていたのかい?」
「マサカ」
気さくにしてくれていい。
そんな言葉に甘えているものだから、たまに忘れてしまうのは秘密だ。
ジークが苦笑する。
「あなたらしいね。でも、そういうところが……」
「そういうところ?」
「……いや、なんでもないよ。ところで、ネコは?」
ジークは、ごまかすように周囲を見た。
まあ、あえて追及するようなことでもないだろう。
「少し遅れると言っていました」
「衣装に時間がかかっているのかな?」
「おそらく」
基本、女性の方が衣装は大変だ。
一人で着られないものも多く、侍女などに手伝ってもらうことが多い。
ネコは……
たぶん、女装したままだろうから、ドレスを着てくるはず。
なんだかんだ、ちょっと楽しみだ。
彼女……というか、彼なのだけど。
普通に女の私が羨むくらい綺麗なので、ドレス姿もきっと似合うだろう。
それを喜ぶかどうか、それはわからないが。
「わっ、どんどん人が増えてきましたね」
フィーが驚いた様子で言う。
時間が迫り、会場に入る生徒も増えてきた。
皆、きらびやかな衣装に身を包んで、自分を精一杯に飾っている。
ちょっとわくわくしてきた。
悪役令嬢として転生してから、色々なことがあったけど……
こういうお祭り的なイベントは初めてだ。
しかも、今回はゲームのイベントは関係なく、素直に楽しむことができる。
「うん」
たくさん楽しもう。
……なんて考えているうちに舞踏会が開催されて、その宣言を先生が行う。
そのまま先生の挨拶が終わり。
そして、楽団が最初の曲をゆっくりと弾き始めた。
楽しく、優雅で。
自然と笑顔になるような曲……うん、とてもいい。
私は心が弾むのを感じながら、フィーに手を差し出した。
「フィー、踊ってくれますか?」
「はい、喜んで」
そうして、私達は広間の中央へ進んだ。




