83話 踊ってみませんか?
衣装合わせの後……
せっかくみんな集まったのだから、舞踏会に向けてダンスの練習をしよう、という話になった。
まずは、私とフィー。
学院でも基本的なダンスは習っているし、舞踏会に向けての授業も多い。
それらを思い返しつつ、ステップを刻んでいく。
「一、二、三……」
私が男性側の動きを担当して、フィーを導く。
フィーは、ちょっとあたふたしているものの、大きなミスはない。
少し遅れてしまう時はあるものの、それも挽回可能なものなので、問題なく踊れていた。
「フィー、上手ですね」
「そ、そうでしょうか? けっこう、いっぱいいっぱいで……わわっ」
「慌てないでください。ほら、私を見て? 足元ばかりに気をとられると、逆にやりづらくなってしまいますよ。相手を見ると、けっこう自然にいくものです」
「そうなんですね……がんばります!」
「はい、がんばってください。当日、フィーを踊るのを楽しみにしているので」
「私も、その……すごく楽しみにしています」
そんな話をしつつ踊りを重ねていくと、自然と息が合ってきた。
ぎこちなさは消えて、自然な流れで動けるようになる。
うん。
やはり、フィーが相手だと色々なことがやりやすい。
そのまま、 一度も足を踏むことなく、最後まで踊ることができた。
「ふぅ……これなら、当日も問題なさそうですね」
「ありがとうございました。アリーシャ姉様のおかげで、けっこう自信が持てたような気がします!」
フィーは、小さな拳をぎゅっとした。
可愛い。
「じゃあ、次は俺と練習をしようぜ」
アレックスが前に出た。
「それはいいのですが……また私が?」
「……ダメなのか?」
「いえ、大丈夫です」
一度、倒れてから、体力をつけるために、毎日欠かさず運動をしている。
それで世界の強制力に抗えるかどうか、そこはわからないけど……
健康な方がいいだろう。
なので、連続で踊っても……
というか、この場の全員を相手にしても問題はない。
「わかりました。では、お願いします」
「ああ」
部屋はそこまで広くないから、一度にみんなが踊ることはできない。
ジークと手を重ねる。
「そういえば、アレックスはどれくらいの自信が?」
「……ダンスだよな?」
「それ以外になにがあると?」
「……」
気まずそうな顔で沈黙。
つまり、それが答えなのだろう。
「ふぅ……とりあえず、踊りましょうか?」
「あ、ああ……」
ダンス、スタート。
本来、男性側がリードするのだけど……
それは無理そうなので、私がリードして進めていく。
「っと……お、おぉ?」
ふむ。
アレックスは動きはぎこちないけど、運動神経は高く、わりとなんとかなっていた。
流麗とまでは言えないものの、少なくとも私の足を踏むようなことはない。
……というか、意識して徹底的に避けている。
私への気遣いなのだろうが……
「アレックス、足元ばかり気にしてはいけません。相手の動きもしっかりと見てください」
「いや、しかしだな……」
「足元を気にすれば踏むことはありませんけど、今度は、相手にぶつかりますよ?」
「うっ……」
「大丈夫です。私がちゃんとリードしますから、アレックスはどーんと頼ってきてください」
「……なんか、俺よりも男らしいところが悔しいんだが」
「それ、褒めてます?」
「最大限にな」
「まったく……」
私が苦笑して。
アレックスも苦笑する。
ほどよく緊張がとれたらしく、その後の動きは劇的に改善された。
うん。
やっぱり、こういう距離感は嬉しい。
自然に接することができる。
「やっぱり……」
「うん?」
「楽しいですね」
「……ああ、そうだな」
互いに笑みを浮かべつつ、私達は、もうしばらくの間、踊った。
――――――――――
アリーシャ姉様とアレックスの練習を、少し離れたところから見る。
私は、誰にも気づかれないように二人の様子を観察していた。
アレックスは……
うーん、ダンスはあまり上手ではなさそうだ。
動きがぎこちない。
そこは減点。
アリーシャ姉様に甘えすぎているようにも見える。
そこも減点。
ただ……
アリーシャ姉様が痛い思いをしないように、自分の動きより足元を気にしていた。
アリーシャ姉様が笑うと、アレックスも嬉しそうだった。
アリーシャ姉様を自分の思い通りに動かそうとはしていない。
下手でも、アリーシャ姉様に恥をかかせないため、真剣に練習している。
「……少しだけ加点です」
「なにが?」
「ふぁっ!?」
ネコさんが、すぐ隣にいた。
「な、なんでもありません!」
「アレックスを見ながら、なにか言っていなかった?」
「気のせいです」
「そう?」
「そうです、気のせいです!」
強引に押し通す。
危ない……
密かにアリーシャ姉様にふさわしいか審査していました、なんて言えるわけがない。
「……ネコさんは」
「なに?」
「アリーシャ姉様のこと、どう思っているんですか?」
「直球だね」
ネコさんが小さく笑う。
「それを聞いて、どうするんだい?」
「それは……」
「ごめん、意地悪な質問だったかな」
「……」
「大丈夫」
ネコさんが優しい表情を見せた。
「この先、どうなるか……それはわからないけど、少なくとも、僕達は、アリーシャを悲しませるようなことは絶対にしないよ。それだけは約束できるし、誓うこともできる」
「……ネコさん……」
「こういう答えじゃダメかな?」
「……今は、それで大丈夫です」
「そっか、ありがとう」
「いえ……こちらこそ、ありがとうございます」
視線を戻すと、今度はジーク様が相手になっていた。
アリーシャ姉様と並ぶと、絵のように整っている。
それは、ちょっとだけもやもやして……
私は、じっと二人の練習を見つめるのだった。




