80話 気になる人は?
その日の夜。
私は自室で、フィーと一緒に舞踏会の案内を見ていた。
フィーは、先の一件があって以来、一緒に寝ることが多くなっていた。
心配が強くなっているのと……
甘えたがりになっていた。
依存しすぎなところが見られたため、ちょっと心配ではあるが……
可愛いから仕方ないと、ついつい受け入れてしまう。
姉として、もう少し厳しくした方がいいだろうか?
……よし。
明日から本気出す!
……たぶん。
「フィーは、どのような衣装にしますか?」
「お母様と相談するつもりですが……アリーシャ姉様は、どのようなものがいいと思いますか?」
「そうですね……白とか、スッキリした色をベースに、あまり派手でないものがいいのではないでしょうか? あ、もちろん、舞踏会のドレスなので、華やかさは必要ですが……うーん、バランスが難しそうですね」
「白で落ち着いたもの……なるほど。とても参考になりました!」
「私の意見なんて、あまり参考にしなくてもいいんですよ?」
「大丈夫です! それに、アリーシャ姉様に一番に見てもらいたいので」
「くっ……!」
フィーが可愛すぎて、気絶してしまうところだった。
「……アリーシャ姉さま」
ふと、フィーの雰囲気が変わる。
「一つ、聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「えっと、アリーシャ姉さまは……」
途中で言葉が止まる。
少し迷った後、意を決したようにこちらを見た。
「その……どのような男性が、好きなのですか?」
「……男性?」
「はい」
「好きな?」
「はい」
「えっと……どうして、急にそのようなことを?」
「その……舞踏会があるので、少し気になっただけです」
家族でも親しい友達でもいい。
ただ、基本は、舞踏会は異性と踊ることを前提とされている。
なら、フィーがこういう話をするのも不思議ではないかもしれない。
フィーも女の子。
恋愛に興味を持つ年頃なのだろう。
姉として、しっかり答えなければ。
「えっと……」
考える。
考える。
考える。
……まずい、なにも思い浮かばない。
「アリーシャ姉様?」
「ちょっと待ってください……」
前世を含めて、恋人がいたことはない。
男性と親しく話すことさえ、あまりなかった。
この世界で初めて、アレックス達という男友達ができた。
そんな私に、好きな男性の条件を聞かれても困るというのが、正直なところだ。
「優しい方、でしょうか?」
「アリーシャ姉様は、誰にでも優しいですよね?」
「私ではなく、男性の話ですよ?」
「アリーシャ姉様が優しいので、相手にも同じくらいの優しさが必要だと思います」
「なるほど……なるほど?」
なぜか私が審査されている?
「えっと……それから、誠実な方。そして、フィーを大切にしてくれる方」
「私を?」
「当然です」
私が誰かと結婚したとしても、フィーとの関係は続く。
フィーを邪魔者扱いするような人は論外だ。
「それと……」
さらに考える。
もうちょっと、姉の威厳を示せるような答えはないだろうか?
考えて……
ふと思いついて、するりと言葉が出る。
「……一緒にいて、安心できる方、でしょうか?」
「安心ですか?」
「はい。無理に自分を良く見せなくてもよくて。困った時に、頼ることができて……それと、私が間違えた時は、きちんと叱ってくれる方がいいかもしれません。私はどうやら、頼るのが苦手みたいですから」
「アリーシャ姉様、その条件は……」
「どうしました?」
「……いえ、なんでもありません」
なんとも複雑な表情を見せたけど、どうしたのだろう?
無理に踏み込む必要はなさそうなので、それはやめておく。
「フィーの好みも、教えてくれますか?」
「私は……」
フィーは、私の腕へ抱きつく。
「アリーシャ姉さまのような方がいいです」
「私のような男性?」
「性別は関係ありません」
「関係があるのでは?」
「ありません!」
強く断言されてしまう。
「それなら、私と結婚しますか?」
「はい!」
「では、二人で暮らしましょう」
「ずっと一緒ですよ?」
「はい、ずっと一緒にいましょうね」
フィーが幸せそうに笑う。
恋愛の参考にはならなかったかもしれないけど、フィーが喜んでいるので問題ないかな?
――――――――――
アリーシャ姉様が眠った後……
私はベッドの中で、アリーシャ姉様の寝顔を見つめていた。
「んー……」
先ほど聞いた、好きな男性の条件を思い返す。
一緒にいて安心できる。
困った時に頼ることができる。
間違えた時に叱ってくれる。
そして、私を大切にしてくれる。
「……三人とも、当てはまってしまいます」
アレックス。
ジークさま。
ネコさん。
三人とも、アリーシャ姉さまのことを好きだと思う。
それが本当に、姉さまを幸せにする気持ちなのか。
それとも、ただ自分のものにしたいだけなのか。
私には、まだわからない。
「舞踏会……」
その時、思いついた。
舞踏会では、普段よりも距離が近くなる。
手を取り、腰に触れ、二人で踊る。
そんな時、三人は、アリーシャ姉様にどのように接するのか?
アリーシャ姉様が嫌がることをしないか。
自分だけを見てほしいと、困らせたりしないか。
きちんと見れば、わかるかもしれない。
「これです」
舞踏会を利用して、三人を観察する。
「アリーシャ姉様に、ふさわしい方かどうか……私が見極めます」
本当は、誰も認めたくない。
姉さまは、ずっと私の姉さまでいてほしい。
誰かに取られるなんて、考えたくもない。
でも……
アリーシャ姉さまが、本当に誰かを好きになったら?
その人もアリーシャ姉様を心から大切にしてくれるのなら?
「その時は……」
祝福しなければいけない。
「……できるでしょうか?」
ちょっと自信がない。
うーん、と悩ましい時間が過ぎていくのだった。




