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79話 舞踏会

 復学して数日が経った。


 その間、私の体調に異変はない。


 朝になれば学院へ通い、授業を受けて。

 昼休みになれば、フィー達と一緒に食事をして。

 帰宅した後は、少し休んでから勉強をする。


 穏やかな毎日が戻っていた。


 ただ……


 以前と比べると、ちょっとみんなの様子が違うような?


 心配性になっているだけではなくて。

 なにか、こう……

 私を見る目が、今までと違うような気がした。


 ……なぜだろう?




――――――――――




 朝のホームルーム。


 先生は教壇に立つと、いつもより少し楽しそうな顔で私達を見回した。


「今日は、皆さんへ大事なお知らせがあります」


 試験の日程だろうか?

 それとも、学院行事?


「二週間後、創立記念行事として学院舞踏会が開催されます」


 歓声が上がった。


 なるほど、と納得した。


 年に一度、学院主催の舞踏会が行われる。

 前世でいう学園祭のようなものか?


 ただ、単純なお祭りだけというわけではなくて……


 メインは、最後に行われる舞踏会だ。

 単純に楽しむだけじゃない。

 いずれ来る本格的な社交界の予行演習のようなもの。

 舞踏会で学び、練習をして、その身に刻み込む。


 ……とはいえ、お祭り的な要素が強いことも確か。

 クラスメイト達は、すでに誰と踊るか、どのような衣装を用意するか、楽しそうに話し始めている。


「静かにしてください。説明はまだ終わっていませんよ」


 先生が手を叩いて、みんな、静かになった。


「舞踏会は、将来、社交界へ出る皆さんの訓練も兼ねています。そのため、特別な事情がない限り全員参加です」


 単なる娯楽ではなくて、授業の一環でもある。


「婚約者がいる者は、学院の生徒でなくても、その婚約者と参加しても構いません。他に、家族や友達を招待することも可能です。ただし、人数は限られますが」


 最初の一曲は、家族や特に親しい相手と踊る者が多い。

 なので、このような措置が取られているのだろう。


「最初の相手、どうしよう……?」

「うーん……思い切って、あの方を誘ってみようかしら」

「最初の一曲を申し込むなんて、告白と同じではありませんの?」

「マジで悩むな……」


 周囲の反応を見る限り、若い男女にとっては特別な意味を持つらしい。


 さて……

 私は、誰と踊ろうか?




――――――――――




 昼休み。


 今日は、学食でみんなで食事をとる。

 最近は、当たり前のように五人で集まるようになっていた。


「アリーシャは、誰と踊るの?」


 隣の席から、ネコが尋ねてきた。


「フィーです」

「即答だね」

「当然でしょう?」


 可愛い妹と踊る機会を逃すわけにはいかない。


「……最初の一曲も?」

「もちろんです」

「異性ではなくていいの?」

「先生は、家族でも構わないと言っていましたよ」

「それはそうなんだけど……」


 ネコは、少し困ったように笑う。


「アリーシャらしいね」

「ネコは、誰と踊るのですか?」


 ネコは男だけど、普段は女性を演じている。

 そんなネコの相手が少し気になった。


「うーん……誘いたい人はいるんだけど」

「まあまあ♪」

「でも、成功率は限りなく低そうかな?」

「あら」

「でも、諦めないつもりだよ。最初の一曲は無理でも、その後は……っていう感じかな」

「応援していますよ」

「ありがとう。それなら、絶対に成功するね」


 私の応援に、そこまでの力はないのだけど……

 でも、やる気をプラスできたのなら嬉しい。


「と、いうわけで……フィー。なんだか事後承諾のような形になってしまいましたが、私と踊ってくれますか?」

「はい、もちろんです!」


 花が咲くような笑顔を見せてくれた。

 私の妹、天使。


「私も、アリーシャ姉様を誘おうと思っていました」

「同じことを考えていたのですね」

「姉妹ですから」


 最初の一曲は、フィーに決定。

 これで舞踏会に参加する目的はほぼほぼ達成したようなものだ。


「ちょっといいか?」


 アレックスが、会話へ割り込んできた。


「最初の一曲はシルフィーナでいいとして……それ以外の曲なら俺とも踊れるよな?」

「アレックスと?」

「あ、ああ……どうだ? その、あー……俺と踊ってくれないか?」


 緊張しているのか、いつもより声が小さい。


 こういうことに慣れていないのだろう。

 とても顔が赤い。


 なんだか……

 そんなところが妙に印象に残る。


「はい、喜んで」

「ほ、本当か!?」

「もちろんです。アレックスは大切な友達ですから、断る理由なんてありません」

「……友達……」


 アレックスが、なぜか落ち込む。


「嫌になったのですか?」

「嫌じゃねえよ」

「では、踊りましょう」

「絶対だぞ?」

「約束します」


 アレックスの顔が、少し明るくなった。


「なら、僕とも踊ってもらえるかな?」


 ジークが言う。


「もちろんです」

「……わりと、あっさり承諾するんだね」

「断る理由がありませんし……それに、ジーク様ですから。これでも一応、相手は選んでいますよ?」


 私は、一応、公爵令嬢。

 擬似的な社交界も兼ねているとなると、誰彼構わず、というわけにはいかない。


 でも、ジークならなにも問題はない。

 身分もあるのだけど……

 やはり、友達だから、という理由の方が大きい。


「楽しみにしているよ」

「はい、私も楽しみです」


 先は学園祭と称したものの、よくよく考えてみると、社会化見学のようなものかもしれない。


 楽しい、というよりは学ぶ。

 将来にしっかりと備える。


 なのだけど……


「そういうことなら、私もアリーシャを誘おうかな?」

「あれ? ネコの誘いたい人って、私だったんですか?」

「うん。本当は一番がいいんだけど……まあ、こだわっていたら乗り遅れてしまいそうだからね。そこはもう、こだわらないことにしたよ」

「うーん? よくわかりませんが……でも、歓迎です。踊りましょう」

「よかった、断られなくて」

「友達を拒絶するなんてこと、しませんよ」

「……そうだね」


 友達、の部分に反応して、ネコがちょっと微妙な顔になった。

 どうしたのだろう?


 まあ、それはともかく。


 学ぶという意味合いが強い舞踏会ではあるのだけど、やはり、楽しくもあり……

 今からちょっとわくわくするのだった。

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