76話 復学しました
一週間後。
私は、学院へ復帰することになった。
体調は良好。
医師の診察でも、なにも問題は見つからず、体力も戻ったからだ。
とはいえ、無理は禁物。
念のため、ということで、しばらく馬車を使うことに。
公爵家の馬車が屋敷の前に止まる。
ただし、その後ろにもう一台。
さらに、王家の紋章がついた馬車も止まっている。
「三台?」
「侍女と護衛が乗るためだよ。護衛は、ジーク様が手配してくださった」
お父様が当たり前のように言う。
「えっと……大げさでは?」
「念のためだよ。ずっと、こうしているわけではないから、我慢しなさい」
「……わかりました」
お父様とお母様にも心配をたくさんかけてしまっただろうから、おとなしく従うことにした。
ジーク様の護衛も、一応、善意だろうし……
強く断るのも失礼な気がした。
フィーと一緒に馬車に乗り……
「えへへ♪」
そうすることが当たり前のように、フィーは私の隣に座る。
そのまま、ちょこんと寄りかかってきた。
「あら、今日は甘えん坊ですね」
「ダメですか……?」
「なにも問題ありません。というか、毎日、こうでもいいくらいです!」
「毎日は……ちょっと恥ずかしいかもしれません」
「残念です」
「でも、今日は……」
にっこりと、フィーが甘えてくる。
その笑顔はやばい。
破壊力がすさまじい。
さすがメインヒロイン。
笑顔一つで、全ての人の心を撃ち抜いてしまうような……いや。
フィーはメインヒロインだ。
ただ、私も、今はそこを目指さないといけない。
褒めるだけではなくて、憧れるだけではなくて。
同じ位置に立てるように、研鑽を積まなければ。
「アリーシャ姉様? どうかしたんですか?」
「いえ、なんでもないですよ。ただ……」
「ただ?」
「もっとがんばらなければ、と思っただけです♪」
――――――――――
しばらくして学院に到着した。
予想していた通りだけど、非常に目立った。
公爵家の馬車が二台。
王家の馬車が一台。
前後を護衛が固めているので、なにかの式典だと思われても不思議ではない。
みんなの視線が集まり、静かな登校とはいかない。
「見ろ、アリーシャ様だ」
「亡くなったと聞いていたけど……」
「生き返ったという噂は本当だったの?」
「もしかしたら幽霊では?」
「今、昼でしょう」
小声で噂がされている。
うーん……目立ってしまっている。
でも、死んだと噂されるほど体調が悪かったわけで、それも仕方ないような気がした。
よし。
私はなにも問題ないぞ、と笑顔でアピールしよう。
「おはようございます」
近くにいた生徒達へ、笑顔で挨拶をする。
「ひっ」
「えっと……私、なにかしましたか?」
「い、いえ……そのようなことは決して。ただ、その……」
「幽霊ではありませんよ?」
「心を読まれた!?」
女子生徒が悲鳴を上げた。
そのまま他の生徒の後ろへ隠れてしまう。
「アリーシャ姉様が学院を休んでいる間、いつの間にかそういう噂が……」
「フィーが気にすることではありませんよ。それに……」
「それに?」
「これはこれで、ちょっと楽しいですから」
中には、素直に喜んでくれる人もいる。
色々な反応があって、これはこれで新鮮だった。
「そのうち、元通りになるでしょう」
「はい、そうですね」
焦る必要はない。
私は生きている。
時間はたくさんあるのだから。
――――――――――
教室に入ると、クラスメイト達は驚いた後、とても喜んでくれた。
何人もの人に囲まれて、体調を心配される。
お見舞いに行きたかったけれど、公爵家に迷惑をかけると思い遠慮した。
そのようなことを言う人もいた。
私は改めて、自分が多くの人に心配をかけていたことを知った。
「皆さん、ご心配をおかけしました」
頭を下げる。
「ですが、もう大丈夫です。ほら、この通り、すっかり元気に。なので、またよろしくお願いします」
わー、という感じで拍手が起きた。
少し恥ずかしい。
でも、嬉しい。
「おはよう」
ネコがやってきた。
「おはようございます」
「ちょっと心配だったけど……無事、登校できたみたいだね」
「それは、さすがに心配しすぎでは……? ちゃんと馬車で送っていただきましたし、なによりも、フィーが一緒ですからね」
「シルフィーナちゃんが一緒だと、問題ないのかい?」
「当たり前でしょう? フィーですよ、フィー。世界一可愛い妹が一緒なら、ぐんぐん元気が湧いてきて、そして、どのような障害も打ち破る力も得られるんですよ」
「……妹って、伝説の聖剣みたいな扱いだっけ?」
ネコが苦笑する。
でも、その表情は優しい。
そして、柔らかい。
「改めて、おはよう」
「はい、おはようございます」
穏やかな朝……
私は、教室でネコと挨拶を交わすのだった。




