74話 散歩をしましょう
生き返ってから三日が経った。
体調は良好。
熱はないし、食欲も戻った。
眩暈などの不調もなくて、体重も元に戻っていた。
医師からも、部屋の中だけではなく、廊下も歩いてもいいと許可が出た。
ただ……
「私が右側を歩きます」
「なら、俺が左だ」
「前方は僕が確認しよう」
「後ろは任せて」
「……」
みんなが、ぴたりと私の周りを囲む。
まるで過剰な護衛だ。
散歩をしてもいい、という許可は出た。
ただ、まだ不安なところはあるから、誰かと一緒に……という条件付き。
当たり前のようにみんなが一緒なのだけど、なかなかどうして……
ひたすらに歩きづらい。
というか、散歩という気がしない。
「えっと……私、一人で歩けますけど?」
「ダメです。アリーシャ姉様、それは油断というものです」
「転んだりしたら危ないだろ」
「足元に異常があるかもしれないからね」
「背後から襲われる可能性もあるよ」
ここは公爵家の屋敷なのだけど、王宮よりも厳重な警備になっている気がする。
まあ、みんなが心配してくれているのだから、素直に受け入れよう。
「アリーシャ姉様、少し休みますか?」
フィーが心配そうに尋ねてきた。
「まだ部屋を出て、十歩も歩いていませんよ?」
「疲れてからでは遅いです」
「疲れていませんよ」
「本当に?」
「はい」
「無理をしていませんか?」
「していません」
「私に心配をかけないために、嘘をついていませんか?」
「ついていません」
「本当に本当ですか?」
「本当に本当です」
ここまで確認しないと信じてもらえないらしい。
お姉ちゃん、ちょっと悲しい。
「階段だ」
なぜか、アレックスが真剣な顔になる。
他のみんなも、衝撃を受けたような顔になる。
「ど、どうしましょう……?」
「どうするもなにも、普通に下りればいいのでは?」
「き、危険です! 足を踏み外して、落ちる可能性があります」
「手すりがありますよ?」
「手すりが壊れるかもしれない」
ジークが階段を調べる。
「壊れていないように見えるが、しかし、素人判断は危険だね。王宮の建築士を呼んで確認してもらうべきか……?」
「そういうことなら、私が先に下りて、異常がないか確認するよ」
「俺もやるよ」
ネコとアレックスが、軽やかに階段を降りた。
手すりだけではなくて、床板もしっかりと確認している様子。
うーん……私は今、なにを見せられているのだろう?
「オッケー、問題なさそうだね」
「下りてもいいぜ」
「じゃあ、私がアリーシャ姉様を支えますね」
「俺もだ」
「両側からやると、かえって危ないよ。僕が抱き上げよう」
「必要ありません!」
「ダメだ!」
アレックスとフィーが、同時に拒否した。
「なら、私が運ぼうか?」
「お前はもっとダメだ!」
「アレックスに決める権利はないと思うけど」
「う、それは……と、とにかくダメだ! 抱き上げるなんて、そういうことは、もっとこう慎重に……」
「いやいや、それは……」
「まって、つまり……」
うーん……待つのがめんどくさい。
私は、普通に階段を下りた。
「あっ、アリーシャ姉さま!」
「お前、勝手に!」
「待って、アリーシャ!」
「足元に気をつけて!」
大騒ぎだ。
しかし、なにも起きることなく、一階へ下りることができた。
「ほら。大丈夫でしたよ?」
「むぅ……」
「フィーもみなさんも心配しすぎですよ。そもそも、リハビリのための散歩なのですから、私が自分の足で歩かないと意味がありません」
「「「……」」」
私のもっともな正論に、しかし、みんなは納得できない様子だ。
反論こそないものの、すぐに受け入れられない様子。
うーん、心配性がすぎる。
これでは、のんびりと散歩をすることもできない。
「……ちょっと、みなさんはここで待っていてくださいね」
「どこに行くつもりだ?」
「……お手洗いです」
「お、おぉ……すまん」
さすがに男性陣は、そこまでついてこない。
「なら、私が……」
「フィーでも、さすがにお手洗いまで一緒というのは恥ずかしいのですが……」
「す、すみません」
なんとかフィーも納得してくれた。
よし。
私は、この場を離れた。
そのまま、まっすぐお手洗いへ……行くフリをして、侍女用の通路を使い、屋敷の裏側に出た。
長年暮らしている屋敷だ。
誰にも見つからず移動する方法くらい知っている。
「ふっふっふ……大成功ですね!」
私にかかれば、撒くなんて簡単なんですよ。
完璧!




