73話 続々と、続々と
「アリーシャ、体調はどうだい?」
ややあって、今度はジークがやってきた。
同じく学院を休んだのだろう。
なんかもう慣れてきたので、そこはつっこまないことにした。
そんなジークだけど、後ろに医師らしき人を二人、連れていた。
「おはようございます、ジークさま。今日は、ずいぶん大人数ですね」
「おせっかいかもしれないけど、念のため、宮廷の治癒術師と呪術に詳しい医師を連れてきた」
「呪術?」
「もしかしたら、ただの病気ではないという可能性も、と考えてね」
「えっと……」
世界の強制力の結果なのだけど、そんな話をしたら、まだ熱が!? とか思われてしまいそうだ。
黙っておこう。
「もう治りましたよ」
「念のためだよ」
ジークは穏やかに言っているけど、引くつもりはなさそうだ。
「それと、君の部屋の前に護衛を配置させてもらった」
「……なぜ?」
「なにかあった時、すぐに人を呼べるように」
「屋敷の中ですよ?」
「屋敷の中で倒れただろう?」
「……それもそうですね」
むぅ、反論できない。
「それと、今後、外出する時は王宮から護衛を……」
「必要ありません」
「いや、しかし……」
「私、一応、公爵令嬢ですよ? 元々、護衛はいます」
「それでは足りない」
「どうしてですか?」
「僕が安心できないからだ」
ジークは、きっぱりと言った。
そうか、ジークはそこまで……
心配させてしまったのか。
なんて良い人なんだろう。
「まあ……あくまでも予定で、あった方がいい、と思っただけだよ。強行するつもりはない。君の体調が落ち着いてから、改めて相談しよう」
「わかりました。それくらいなら」
頷きはしないけど。
護衛は必要だろうけど、必要以上の数はいらない。
なぜか?
フィーと一緒に過ごす時間に集中できなくなりそうだから!
……と。
「おはよう、アリーシャ」
今度はネコがやってきた。
女装姿なのだけど……
「なぜ、侍女の格好を?」
今日は、ネコメイドになっていた。
「私も看病を、と思っていたんだけど……できるだけ長くいたくて」
「……侍女なら、ずっといられると?」
「ナイスアイディアだと思わない?」
ちょっと納得してしまった。
今度、私も侍女の格好をして、フィーの部屋に押しかけようか?
「と、いうわけで、私が付き添いをするよ」
「ダメです、それは私の役目です」
フィーが、即座に拒否する。
「ちょっとくらい譲ってくれてもいいんじゃないかな?」
「こればかりは、妹特権です」
「なら、私は友達特権で」
「むううう……」
フィーは、私に抱きつきつつ、唸る。
でも、子猫が威嚇しているような感じで、可愛い。
なにをしても可愛いなんて……
フィーは、天才だろうか?
「ところで、朝食は?」
アレックスが尋ねてきた。
「先ほどいただきましたよ」
「なら、『俺が』持ってきた果物でも食べるか? こう見えて、皮を剥くのは得意だぜ」
なぜか自分を強調する。
いや、本当になぜだ?
「せっかくなんですけど、今は遠慮しておきますね。そこまでの食欲はないので」
「食欲がない……? まさか、具合が悪いのか!?」
「お前達、すぐにアリーシャの診察を!」
「私は、こういう時のために使う特製の薬を持っているよ!」
「アリーシャ姉様、しっかりしてください!」
「ま、待ってください! ストップストップ!!!」
大騒ぎになった。
「今は本当に大丈夫です! ただ、体力とか戻っていないので、急にたくさん食べられないだけですから」
「……本当か?」
「本当ですよ」
「気分が悪いとか、痛いところは? 目眩とか吐き気は?」
「ありません!」
質問攻めだ。
私は、犯罪者になった気分で一つ一つ答えていく。
医師にも確認してもらい、ようやく異常がないと認めてもらえた。
みんな、心配しすぎだ。
でも、まあ……
それだけ大事に想ってくれている、ということなので、怒るわけにもいかない。
「でも、体力をつけるためにも、ちょっとは無理しても食べないとです」
フィーが、りんごを手に取る。
「少しだけ食べませんか?」
「はい、いただきましょう」
「……キミは、妹には本当に甘いね」
ジークが呆れたように言って。
他の二人が、うんうんと頷いた。
甘い?
当たり前でしょう!
だって、可愛いんだもの。
「はい、あーん」
フィーは手際よくりんごをカットすると、私の口元に差し出してきた。
「えっと……フィー? 自分で食べられますよ?」
「病人は無理をしてはいけません」
「いえ、でも、さすがにりんごくらい……」
「食べてください」
「はい」
圧に負けた。
でも……待てよ?
可愛い妹に「あーん」をしてもらえる……これ、素晴らしいことなのでは?
過保護も悪いことばかりではなさそうだ。
「待て」
口を開こうとしたところで、アレックスが止めてきた。
「ちょっと大きくないか? 小さくするか、あるいは、病人なんだからすりおろしてもいいかもしれない」
「それは……」
痛いところをつかれた、という感じで、フィーが言葉に詰まる。
そして、アレックスは、勝ったというような顔。
あなた達、なにを競っているの?
「俺がやるよ。シルフィーナ、りんごを」
アレックスはりんごを受け取ると、ささっとすりおろした。
小さな子の面倒も見ているらしいから、こういうのは得意なのかな?
「そ、それじゃあ……ほら」
アレックスは、スプーンを私の口元に差し出してきた。
ただ、顔が真っ赤だ。
なんだかんだ、かなり純情なんだよね。
ちょっと微笑ましい気持ちになる。
「では……」
「ちょっと待って」
今度はネコに止められた。
「毒味は?」
「おい、俺が毒を仕込んだと言いたいのか?」
「まさか。ただ、途中で気づかないうちに仕込まれているかもしれないし、そもそも、最初からアレックスが手に取る果物が狙われていたのかもしれない」
「どれだけだよ……」
「というわけで、私が毒見をしよう」
ぱくり、とネコが横から食べた。
「うん、問題なさそうだ」
「お前が食べたら、アリーシャに食わせられないだろ!」
「おっと、しまった。じゃあ、責任をとって私が新しいものを用意して、私が食べさせてあげるよ」
「お前、最初からそのつもりで……」
「なんのことかな?」
なぜか、目と目がぶつかり、バチバチと火花が散っていた。
「栄養面も考えた方がいいんじゃないか?」
ジークが会話に加わる。
「果物も悪くないが、体力を戻すため、薬湯をプラスしてもいいかもしれない」
「アリーシャ姉さまは、苦いものが苦手です」
「苦くないように調整させるよ」
「でも、薬は毒になる可能性もあるかな?」
「ネコ。宮廷医師が調合したものだよ?」
「王宮にも敵はいるでしょう?」
「否定はできないけれど……」
話が大きくなってきた。
私は、普通にりんごを食べることができれば、それでいいのだけど。
「皆さん」
呼びかけても聞いていない。
それぞれがそれぞれの主張をして、ぶつかりあう。
ケンカというわけではないのだけど……
みんな、意地になっている感じだ。
うーん……りんごを差し出されていたせいか、ちょっとお腹が減ってきた。
でも、なかなか食べることができない。
これは新しい拷問だろうか?
でも……
「……ふふ♪」
これはこれで、みんな『らしい』って思えた。
そんな当たり前の光景。
でも、私が失いかけたもの。
それを再び手に入れることができて、とても嬉しくて、ついつい笑ってしまうのだった。
全ての問題が解決したわけではないけど……
でも、今くらいは、この小さな幸せに浸ろう。




