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72話 部屋から出られない

 目が覚めたら、翌朝になっていた。

 どうやら、あのままぐっすりと寝てしまったらしい。

 神様が言っていたように、色々と疲労などが溜まっていたようだ。


「さて、と」


 喉が渇いた。

 それと、顔を洗いたい。


 ベッドから降りようとして……


「アリーシャ姉様!」

「フィー?」


 妙なタイミングでフィーが部屋に入ってきた。


「おはようございます、フィー」

「おはようございます、アリーシャ姉様。そして、なにをしようとしていたんですか?」

「え? 顔を洗おうと……」

「私が用意します!」


 フィーは部屋を飛び出して、水を入れた洗面器を持ってきた。


「どうぞ!」

「えっと……自分でできますよ?」

「ダメです。お医者さまが絶対安静と言ていました」


 そこまで言っていただろうか……?


「さあ、アリーシャ姉様。顔をこちらへ」

「え? フィーに洗ってもらうんですか?」

「もちろんです」

「さすがに、顔を洗うくらい自分で……」

「ダメです」

「では、水を飲むのは?」

「私が持ちます」

「服を着替えるのは?」

「侍女を呼びます」

「窓を開けるのは?」

「私が開けます」


 うーん、すっかりフィーが過保護になってしまった。


 妹に世話される姉……

 可愛いから、これはこれでアリ!


 とはいえ、姉の矜持がなくなってしまいそうなので、それは困る。


「フィー、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ? 私は、もう元気です」

「……昨日も、そう言っていました」

「昨日?」

「病気になる前です。少し疲れているだけだから、心配はいらない……って」


 フィーは、私のことを疑っているわけではない。

 私の「大丈夫」が、信用できなくなっているのだ。


「……すみません」

「いえ、その……私も、意地悪なことを言ってごめんなさい」

「意地悪ではありませんよ」


 むしろ、当然のことだ。

 一度失った信頼は、簡単には戻らない。


「これから、本当に大丈夫だというところを見せます。だから、フィーに安心してもらえるように、がんばりますね」

「……はい。がんばってください」


 互いにくすりと笑う。

 ちょっとだけ落ち着かせることができた、かな?




――――――――――




「アリーシャ、起きてるか?」


 フィーとのんびりおしゃべりをして過ごしていたら、扉の外からアレックスの声がした。


「起きていますよ」


 答えると、すぐに扉が開いた。

 荷物を抱えたアレックスが入ってきた。


「おはようございます」

「おはよう、アレックス」


 フィーと一緒に挨拶をする。


 アレックスが、ちらりとフィーを見て……

 ちょっと残念そうな顔をする。


 なんだ、どういう意味だ?


「ずいぶん早いですね」

「別に……たまたま早く起きただけだ」

「学院は?」

「休んだ」

「……なぜ?」

「お前の様子を見るために決まってるだろ」


 決まっているらしい。

 普通なら学院を優先するべきだと思うのだけど。


「勉強に遅れてしまいますよ?」

「お前に言われたくない」

「私は、取り戻せるという自信がありますから」

「ぐっ……本当にできそうだからなにも言えないな」

「アリーシャ姉様はとても優秀ですから!」


 なぜかフィーが自慢そうに言う。


 姉のことは自分のこと。

 そんな感じ?

 可愛い妹め、抱きしめてやろうか。


「まあ、一日くらいいいだろ。看病くらいさせてくれ」

「看病するのは私です」


 フィーが冷たい声で割り込む。


「アレックスは学院へ行ってください」

「もう休む、って連絡したからな」

「今からでも間に合います」

「嫌だね」

「どうしてですか?」

「こいつが、またなにかやらかさないか見張るためだ」

「私が見ています」

「お前一人じゃ止められないだろ」

「止められます」

「昨日、抱きついて殺しかけてたじゃねえか」

「こ、殺しかけてなんかいません!」


 朝から元気だ。


 そういえば、フィーも学院を休んでいたのか。

 一緒にいられることが嬉しくて、そこまで考えていなかった。


 ……看病なら仕方ないよね!


「これ……やるよ」


 アレックスが、籠を差し出してきた。

 中には、鮮やかな色の果物が入っている。


「病人には果物がいい、って聞いたから」

「そうですか……ありがとうございます。嬉しいです」

「アレックスが選んだのですか?」

「……おう」


 アレックスが顔を背ける。

 耳が赤いけど、朝から走ってきたのだろうか?


「アレックス、熱がありますか?」

「ない!」

「耳が赤いですよ?」

「近づくな!」


 額に触れようとすると、全力で後ずさりされた。

 そこまで嫌がらなくてもいいと思う。

 傷つくぞ?


「むぅ……」


 そんな私とアレックスのやりとりを見て、フィーは、なぜか不満そうにしていた。

 なぜだろう?


 嫉妬?

 でも、アレックスに嫉妬する意味がわからない。


 まあ、なんにしても……

 むくれるフィーも可愛いから、それはそれでよし!


「アリーシャ姉様、なにか変なことを考えてませんか?」

「いいえ、まったく」


 フィーのことは変なことではないので、私は、欠片も嘘を吐いていないのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

ここから3部スタート、という感じです。

ちょっと長い前フリだったかもですが、ここからアリーシャがメインヒロインに昇格して、

ヒーロー達と恋を育む……かもしれま、せん……?

どんな結末になるのか、お付き合いいただけると嬉しいです。

ブックマークや☆評価で応援していただけると、もっと嬉しいです。

よろしくお願いします。

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