71話 本当に大丈夫?
「アリーシャ!」
フィーが落ち着いたところで、今度はアレックスが前に出た。
「本当にお前なのか!?」
「他に誰に見えますか?」
「そういうことじゃなくて……!」
アレックスは私の肩をつかもうとして、途中で止まった。
触れたら壊れてしまうと思ったのだろうか?
宙に浮いた手が、行き場を失う。
「アレックス……心配をかけてしまいました、ごめんなさい」
「心配なんて……」
いつもの彼なら、そう言って強がったかもしれないけど……
「……したに決まってるだろ」
今のアレックスは、否定しなかった。
顔を歪めて、泣きそうな目で私を見ている。
「目の前で……お前が、息をしなくなって……もう、話せないと思った。二度と笑わないと思った。だから、俺は……」
「フィーにも言いましたが、もう大丈夫ですから」
「そうか……なら、俺とも約束してくれ」
「え?」
「もう勝手に死ぬなよ」
「私も、別に望んでいたわけじゃないんですけど……一応、善処します」
「おう」
アレックスは顔を背けて、小さく答えた。
「……おかえり」
「はい、ただいま戻りました」
よかった。
いつもの調子になったようだ。
「アレックス、今は一人でアリーシャを独占するな」
「そうそう、私達にも話をさせてちょうだい?」
今度は、ジークとネコが前に出た。
ジークはいつも通り、落ち着いている。
ただ、その顔はひどく青ざめていた。
ネコも涙の跡が残っている。
「アリーシャ……ちょっと失礼するよ」
ジークが私の手首に指を当てる。
王子である彼が診察をできるとは思えないけれど、脈を確かめているようだ。
指先が、わずかに震えていた。
「動いている……」
「生きていますので」
「そう、だね……」
ジークは目を閉じて、大きく息を吐いた。
次に目を開いた時には、王子らしい穏やかな笑みを浮かべていた。
「本当に……キミは、人を驚かせるのが好きだね」
「そのような趣味はありませんよ?」
「驚かせてばかりだよ、本当に」
む?
そんなことをした覚えはないのだが……
「でも、本当によかったよ」
ネコが言う。
「もう、キミに会えないと思っていたから……まだ、言っていないことがたくさんあるのに」
「言っていないこと?」
なんだろう、それは?
「言いたいことがあるなら、今、聞きますよ?」
「今は無理だよ」
「どうしてですか?」
「こういうことは、ちゃんと準備をしないといけないから」
「大事な話なのですね」
「ものすごく大事」
「なら、いつでも聞きます」
「……本当に、そういうところなんだよね」
「ああ、そうだな」
ネコは、複雑そうに笑った。
ジークも笑う。
二人共、妙なシンパシーを感じているようだ。
うーん、なんだろう?
男の友情……的な?
でも、フィーも、うんうんと頷いていた。
同じくジークも。
いや、本当になんだろう……???
「……アリーシャ……」
「あぁ、本当によかった……」
お父様とお母様が涙を流しつつ、喜んでいた。
こんなところ、あまり見たことがない。
「申しわけありません、ご心配をおかけしました」
「いいさ……まだ、お前と話をすることができた。それだけで十分だ」
「ええ、ええ……とても喜ばしいことだわ」
「おかえり、アリーシャ」
お父さまの大きな手が、私の頭を撫でた。
子供扱いされているようで、少しだけ恥ずかしい。
でも、悪い気はしない。
というか……普通に嬉しい。
えへへ、と笑う。
「みなさん」
医師が前に出る。
「嬉しいのはわかりますが、まだ、お嬢様は病人ということをお忘れなきように。おそらくは、もう大丈夫だとは思いますが……そもそもが原因不明なので、どうなるか。とにかく、今は休んでいただくことが大事かと」
「そ、そうですね……アリーシャ姉様、ゆっくり休んでください」
「ありがとう、フィー」
「念のため、しばらくは絶対安静です」
さらに医師が言う。
「体に異常が見当たらないとはいえ、亡くなっていた方が突然蘇生したのです。なにが起きるかわかりません」
「わかりました」
「学院も休んでください。少なくとも数日は、ベッドから離れないように」
「はい」
少しくらいは動けると思うけれど、心配をかけた直後だ。
ここは素直に従うべきだろう。
「みんな。言われた通り、アリーシャを休ませないと、だな」
「そうだね。せっかく目が覚めたのに、僕達のせいで疲れさせたら意味がない」
「またね、アリーシャ」
アレックス達と、お父様とお母様が部屋を出て。
医師も部屋を出て。
「アリーシャ姉様……おやすみなさい」
最後に、フィーも部屋を出ていった。
一人になり……
小さな吐息をこぼしつつ、枕に頭を預ける。
そのまま、ぼーっと天井を見上げた。
「……私、戻ってこれたんですね」
今頃になって、ようやく実感が湧いてきて……
「……よかった……」
ちょっとだけ。
本当にちょっとだけ、私は静かに泣いた。




