68話 転生して得たもの
「即答するとか……あははは! キミ、いいね。思っていた以上の逸材だよ」
褒められているのだろうか?
いや、けなされているような気がする。
「まったまった!? 拳を握らないで!? 私、神!」
「相手がなんであれ、無礼を正すのは必要なことですから」
「すみませんでした! ……って、あれ? なんで私、謝っているの……?」
知りません。
「でも、そんな理由で元の世界に戻るのを拒むとか……私の知る限り、初めてかな?」
「そんな理由ではなくて、とても大事な理由、ですよ」
「ふむ?」
「私は……フィーを一人にするわけにはいきません」
だって、約束したのだ。
ずっと側にいると、そう言ったのだ。
姉として、それは守らなければならない。
絶対に。
「それに、アレックス達にもお礼を言えていません。お父さまとお母さまにも、育ててくれてありがとうと伝えていない」
あの時……まったく体が動かなかった。
声を出すことすら難しかった。
最後にできたことは、ただ、みんなの顔を見ることだけ。
それでは足りない。
ぜんぜん足りていない。
「なので、帰ります」
「君は死んだんだよ」
「わかっています。でも、ここでこうして話をしているということは、私の魂は残っている、ということでしょう? なら、どうにかして体に戻ってみせます」
「それができたとしても、また同じことになるかもしれないよ? なにせ、世界の強制力が働いているんだから。死ぬのが怖くないの?」
なんてバカなことを聞くのだろう。
死ぬのが怖くない?
怖いに決まっている。
あんな感覚を味わうのは二度とごめんだ。
でも……
「フィーを一人にすることの方が怖いです」
あの子は、一人でいることを恐れていた。
愛されることを知らず、ずっと居場所を求めていた。
だから、私がその居場所になるのだ。
「私はフィーの姉です。死んだからといって、それを辞めるつもりはありません」
「無茶を言うなあ」
「悪役令嬢ですので」
「便利な言葉として使ってない?」
使っているかもしれない。
でも、それで構わない。
「あなたなら……」
神様をまっすぐに見つめる。
「私を、あの世界へ戻すことはできるのでは? もう一度、転生させてくれるというのなら、転生をせず、元に戻すこともできるのでは?」
「まったく……」
神様は、困ったように笑った。
「本当に、キミは予定通りに動かないね」
「悪役令嬢ですから」
「それは関係ないと思うけど……まあ、いいか。できるよ。元に戻すことはできる」
「本当ですか!?」
思わず、神様に詰め寄った。
「近い近い」
「すみません。っていうか、照れているんですか? 意外と初心ですね」
「うるさいよ! それで、具体的な話をすると……」
神様曰く、ここは時間の流れが違うらしい。
たくさん喋っているのだけど、現実では数分も経っていないとか。
なので、私の体が埋葬されてしまった、なんてことはない。
腐る、なんてこともないので、元に戻しても問題はないらしい。
「ただし、ちょっとした手順を踏まないといけない」
「手順?」
「世界の強制力が働いているからね。ここで戻したとしても、キミはまた、いつか強制力に殺されるだろう。その度に送り返してもいいんだけど……たとえば、肉体がぐちゃ、っと潰れるような事態になったら終わりだよ。さすがに、肉体を元に戻す、っていうのは介入しすぎだからね」
「なるほど、それは確かに」
「あれ、落ち着いているんだね?」
「こういう話をするということは、その対処方法もあるのでしょう? そして、あなたはそれをすでに思いついている」
「やれやれ……本当に鋭い洞察力だ。このまま、私の助手として雇いたいくらいだよ」
「天寿を全うした後なら、考えてあげてもいいですよ」
「なんで上から目線なのかな……? 私、神なのに……」
「ふふん♪」
こういう交渉は、下手に出た方が負けだ。
ハッタリでも強がりでも、大きく出た方の勝ちである。
「まあいいや。キミの言う通り、一つだけ方法がある」
「それは?」
「……悪役令嬢としての役目を終えること」
意味がわからず、首を傾げる。
「私は、すでに死んでいますよね?」
「うん。一度、完全に死んだ」
「では、役目は終えたのでは?」
「その通り」
「???」
ますますわからなくなった。
神様は、そんな私の様子を楽しそうに眺めている。
きっと、わざと回りくどい言い方をしているのだろう。
「簡単に言ってください」
「風情がないなあ」
「フィーが泣いているかもしれないのです。一秒でも早く戻りたいので。早くしてくれないというのなら、誠心誠意説得するまでです」
「わかった! わかったから、拳を握らないでくれるかな!? それは誠心誠意とはかけ離れているんじゃないのかな!?」
「なら、早くしてください」
「まったく……キミは、悪役令嬢というよりは鉄拳令嬢だね」
愚痴るように言いつつも、神様は話を続ける。
「キミが元に戻っても、すぐに世界の強制力は働かないだろう。ぽんぽんと発動していいものじゃないからね。あくまでも舞台装置であって、私のような力はないから、チャージする必要がある。だから、しばらくの猶予があるはずだ」
「なるほど……その間に、なにかをしろ、と?」
「察しがいいね。再びの猶予が訪れるまでに……」
神様は、にっこりとして。
とても楽しそうな笑顔で言う。
「恋をすることだ」




