表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

46話 そこまでだ

「自分の立場を忘れ、情にほだされるか……やはりゴミはゴミだな。使い物にならん」

「ゴミは……」


 男の台詞に怒りが湧いてきた。


 怒りに任せて、私は肩に刺さるをナイフを引き抜いて……

 持ち主に向けて投げ返してやる。


「なっ!?」


 投げ返されるとは思ってなかったらしく、男は露骨に動揺した。


 慌てて身を捻り、回避。

 そして、こちらを睨みつけようとするのだけど……


「甘い!」

「ぐぁ!?」


 逃げるのではなくて、あえて体当たり。

 こちらも予想外だったらしく、男はバランスを崩した。


 惜しい。

 私の予定では、そのまま地面に押し倒すつもりだったのに。


 やっぱり、女の身で男性に力で勝つことは難しい。


「貴様ぁっ!!!」


 男が激高する。

 ギラギラとした目で私を睨みつけて、予備の短剣を抜いた。


 殺意なのだろうか?

 とても冷たく恐ろしいプレッシャーを感じる。


 正直、怖い。


 でも……

 もう終わりだ。


「私の友達に……」

「なっ!?」

「触るな!」


 そっと距離を詰めていたネコが、大きく拳を振りかぶり……

 勢いよく男を殴りつけた。


「がっ!?」


 嫌な感じの鈍い音がした。

 男は小さな悲鳴を上げて転がり……

 そのまま白目を剥いて気絶する。


 さすが、ネコ。

 見た目は可憐な美少女なのだけど、中身は男性。

 その話は本当らしく、一撃でのしてしまうくらいの力を持っているようだ。


「さすがですね、ネコ」

「……」

「ネコ?」


 よく見ると、ネコは顔を青くして震えていた。

 今しがた、男を殴り飛ばした己の手を見つめている。


「どうしたのですか?」

「……初めて、この人に逆らったんだ」

「……」

「いつも言うとおりにしていて、なにをされても黙っていて、逆らうことはなくて……だから、こんな風に殴るなんて初めてのことで、私は……なんてことを……」

「ありがとうございます、ネコ」


 震えるネコを抱きしめた。

 その胸にある不安、恐怖を取り除くように。


 いいえ。

 分かち合うように、ぎゅっと抱きしめた。


「私はネコの不安はわかりません。怯えの原因となる恐怖もわかりません」

「……」

「ですが、そんなことは関係ありません。どうでもいいです」

「アリーシャ……?」

「私が一緒にいますからね」

「あ……」


 ネコの唇から小さな声がこぼれた。


 それはどういう意味があるのか?

 わからない。

 わからないけど……

 私の言葉はネコの心に届いていると信じて、想いを紡ぎ続ける。


「怖い時。不安に震えている時。眠れない時。私が一緒にいます」

「……」

「こうして、抱きしめてあげます。頭を撫でてもいいですし、手を握ってもいいです。他にしてほしいことが遠慮なく言ってください。ネコが落ち着くまで、なんでもしてあげますよ」

「どうして……」

「だって」


 私はにっこりと笑う。


「ネコは友達じゃないですか」

「……あ……」


 ネコは目を丸くした。


「さっき、言ってくれましたよね? 私の友達に触るな、って」

「それは、無我夢中で……」

「嬉しかったです。やっぱり、ネコは私の友達なんだな……と」

「……」

「だから、こうすることは普通なのですよ。だって、友達なのですから」

「……アリーシャ……」


 そっと、ネコも私に手を伸ばした。


 抱き返すというよりは、子供が甘えるような感じだ。

 ちょっと力も弱い。


 でも、離してたまるかというように、深く手を伸ばしていて……

 うん。

 とても温かい。


 これがネコの想い。

 彼女の心の温度。


 これからも、ずっとずっと大事にしないといけない。


「あ……」


 ふと、周囲が騒がしいのに気がついた。

 どうやら騒ぎが露見したらしく、生徒や教師が慌てているのが見えた。

 助けを呼びに行く手間が省けたので良しとしよう。


「……ふう」

「アリーシャ!?」


 へたり込んでしまう私を見て、ネコが悲鳴に近い声をあげる。


「だ、大丈夫!? まさか怪我が……」

「いえ……怪我が痛いのは確かですが、でも、今すぐにどうこうということはないと思います。ただ……」

「ただ?」

「終わった、と思ったら腰が抜けてしまって」

「……腰が?」

「はい」

「……アリーシャなのに?」

「私でも腰を抜かすことくらいありますよ。これでも、年頃の乙女なのですよ?」


 短剣を向けられて平然としていられるわけがない。

 我慢していたものの、内心は恐怖でいっぱいだ。

 ほら。

 足が震えている。

 手も震えていた。


 でも、心は震えていない。


「……そっか」


 あはは、とネコは笑うのだった。

 その笑顔は綺麗に澄んでいて、彼女に取り付いていた暗い影は全て消えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆ お知らせ ◆
新作を書いてみました。
【家を追放された生贄ですが、最強の美少女悪魔が花嫁になりました】
こちらも読んでもらえたらうれしいです。


もう一つ、古い作品の続きを書いてみました。
【美少女転校生の恋人のフリをすることにしたら、彼女がやたら本気な件について】
現代ラブコメです。こちらも読んでもらえたらうれしいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ