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37話 事件

「……思い出しました」


 ネコと過ごす前夜。

 自室で明日の予定を考えていると、ふと、乙女ゲームの内容を思い出した。


 メインヒロインと親友のイベント。

 二人は仲良く街を歩くのだけど……

 途中、ネコの悲しい寂しい過去が明らかになる。


 メインヒロインはそれを受け止めて、彼女と本当の意味で親友になる。


「でも、明日は私と一緒。フィーはいない。だとしたら……明日、ネコの悲しい過去が明らかになり、しかし、受け止める人がいなくて……そのまま進んだらバッドエンドになるのでは……?」


 よくよく考えてみると、破滅の未来があるのは私だけじゃない。

 メインヒロインにも、バッドエンドという形で破滅が訪れる可能性がある。


 ヒーローと結ばれず孤独に……というだけなら、まだマシだ。

 悪役令嬢と同じように追放されたり、無実の罪で投獄されたり。

 最悪、死を迎えることもある。


 フィーがバッドエンドを迎える?

 冗談じゃない。

 そんなことは断じて許せない。


 ならば、フィーとネコの親友イベントは大事だ。

 今からでもフィーと交代するべきだ。

 そしてイベントを発生させて、二人の仲を進展させるべきだ。


 ……させるべきなのだけど。


「今更、予定の変更は……」


 とても難しい。

 かといって、約束をなしにするわけにもいかない。


 なら、やるべきことは一つ。


「私が、どうにかしてネコの過去を受け止めるしかありませんね!」


 そして、後でフィーにバトンタッチ。

 それが一番だろう。




――――――――――




 運命の日が訪れた。


 これからのことを考えると、緊張せざるをえないのだけど……

 そんなことは関係ないとばかりに、空では太陽が輝いている。

 憎らしいほどの快晴だ。


「絶対に、メインヒロインの代役をやり遂げてみせます!」


 私は決意を新たにした。


 そして、待つこと少し……

 ネコが姿を見せた。


「ごめん、待った?」


 走ってきたらしく、少し息が切れている。


 そんなネコはパンツスタイルだ。

 明るく元気な彼女にはよく似合う。


 対する私は大きめのスカート。

 シンプルな格好なのだけど、フィーからはよく似合うと言われていた。


「いいえ、大して待っていませんよ」

「ごめんね。ちょっと服に迷っちゃって」

「服に迷ったのですか?」


 デートをするわけじゃないのに、どうして?


「アリーシャに恥をかかせるわけにはいかないからね」

「え?」

「アリーシャ、すごく綺麗でしょ? その隣を歩いている子がダメダメな格好をしていたら、恥をかかせちゃうじゃない。だから、私なりにオシャレをしてきたの」

「そんなことを考えていたのですか……」


 私は、彼女が言うほど綺麗ではないし……

 恥をかかせるとか、そんなつまらないことを気にする必要はない。


 でも、そこまで考えてくれていたことは素直に嬉しい。


 うん。

 ネコを助けないと、という気持ちがますます強くなってきた。


 フィーのバッドエンド回避のためでもあるけど……

 でも、ネコのためにもがんばりたいと思う。


 絶対にやり遂げてみせます!


「でも、ちょっとラフすぎたかな? 学生だし、なにかの行事でもないから、こんな格好にしてみたんだけど……うーん、おしゃれではないかも?」

「いいえ。とてもよく似合っていると思いますよ。ネコにぴったりです」

「そ、そうかな?」

「はい。可愛いとかっこいいが良い感じに同居していて、男性の視線を奪ってしまうのではないかと。スタイルもいいので、そういうスポーティな格好はとてもいいのでは? それに、ちょっとしたところで目を引いて……」

「も、もう。アリーシャってば、言い過ぎだよ」


 照れていた。

 素直に可愛い。


 親友ポジションって不遇の扱いされがちではあるが……

 私のやっていた乙女ゲームでは、かなり優遇されていた。

 ファンディスクが出れば、たぶん、メインに昇格していたと思う。


「それじゃあ、さっそく街へ……と言いたいところでえすが、その前に、今日はなにかリクエストはありますか? 一応、私の方でコースは考えてきましたが」

「アリーシャにお任せしてもいいかな?」

「大丈夫ですが、見たいところはないのですか?」

「アリーシャにお任せした方が、きっと楽しくなると思うんだ。まあ、全部任せちゃうのは悪いと思うんだけど……結局、よくわからないし」

「いえ。そのようなこと、気にしないでください」


 つまり、私のセンスなどを信頼してくれているということ。


 私達は出会って間もないのだけど……

 どうして、そこまで私のことを信じられるのだろう?


 不思議に思うのだけど、それを尋ねることはしない。


 変な答えが返ってきても困るし……

 そこまで気にするほどのことじゃないだろう。

 気にとどめておく程度でいい。


「では……」


 行きましょうか。

 そう言おうとしたところで、ふと視線を感じて振り返る。


「アリーシャ?」

「……いえ、なんでもありません」


 誰もいない。

 たぶん、気のせいなのだろう。

 それに悪意は感じられない。


 そう判断して、私はネコと一緒に歩き始めた。

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