36話 ジークの憂鬱
「はぁ……」
自室でジークはため息をこぼした。
どこかの誰かと同じように、とても大きなため息だ。
考えるのはアリーシャのこと。
第一印象は、おかしな公爵令嬢。
今の印象は、やはりおかしな公爵令嬢。
時々、よくわからない発言をして。
妙なところで行動力があり、猪のごとく我が道を突き進んでいく。
そのようなことをすれば、普通、周囲から浮いてしまうか嫌われてしまうのだけど……
不思議と、彼女に限りそれは当てはまらない。
アリーシャを慕う者は多い。
恋愛なのか、親しみなのか。
そこまでは詳しく判別できていないが、男女共に多い。
「やはり、それは彼女の優しさなのだろうね」
突拍子のないところは多いものの。
ただ、それらの行動全ての元に『優しさ』がある。
誰かのためを想い。
誰かのために祈り。
そんなことができる人なのだ。
だからこそ、多くの人に慕われている。
直接、好意を見せてくる者はあまり多くないが……
ただ、裏ではすごい。
密かにファンクラブが作られているほど。
それも、本人に気づかれないように巧妙に。
……一時、ジークも加入しようか本気で考えたことがあるのは、誰にも打ち明けていない秘密の話だ。
「皆、彼女の魅力に気づき始めている……それは、僕も」
おかしな令嬢という印象は変わっていないのだけど……
ただ、それだけで終わらない『なにか』がある。
ジークもそれに惹かれていた。
が。
「まだ……断言することはできない。できたとしても、僕は……」
親しみか、恋か。
それはまだわからない。
そうなってしまっているのは、ジークの立場のせいだ。
気軽にこの人を伴侶にする、と言うことはできない。
立場故、色々な思惑が絡まり……
反対されることはかなりの確率であるだろうし、そもそも、自分で相手を選べるような立場でもない。
上に立つ者だからこそ、個人の自由は消えていく。
……だからこそ、公爵令嬢でありながら自由奔放にふるまうアリーシャのことが気になるのかもしれないが。
「ただ……そう。これは仮の話。あくまでも仮の話だけど、もしもアリーシャが相手になるとしたら……? 公爵令嬢だから、身分についてはなにも問題ない。礼儀作法も、勉学も問題はない。人柄も、もちろん。容姿も。人の上に立つ器は……あれだけ慕われているのだから、なにも問題はないだろう。ん? ……わりと問題はないというか、むしろ、最有力候補なのでは?」
そこまで考えて、
「……っ!!!」
アリーシャと並び立つ将来の自分を妄想してしまい、ジークは赤くなり、悶えた。
「僕はいったい、なにを考えているんだ……!」
そのようなことが確定したわけではない。
そもそも、自分の気持ちも定まっていない。
それなのに、このような妄想をしてしまうなんて!
……と、ジークは悶えるが。
そもそも、このような妄想をする時点で決定である。
そのことを自覚できない、気付けないあたり、ジークもなかなかだ。
とはいえ、彼の立場を考えると仕方ないところはある。
個人の気持ちで選んでいいものではなくて、色々な思惑が絡みついてくるものであり……
個人ではなくて全体が決めるもの、と思いこんでいるのだから。
そこに自身の意思が介入できる隙間なんてないと、そう思っているのだから。
「……いつか」
ジークは自身の手を見た。
「この手で、好きなものを掴み取ることが……僕には、それができるのだろうか?」




