105話 経過観察
ラナがうちに来て、数日が経った。
お父様とお母様と話をして、正式に許可をいただいて……
侍女見習いとして働いている。
驚くべきことに、ラナは、侍女長が驚くほど丁寧な仕事を見せていた。
まだまだ拙い。
指導するべきところはたくさんある。
ただ、一度教えたことは二度教える必要がないとか。
どんどん吸収して、またたく間に腕を上げているらしい。
可能性の塊だと、侍女長は嬉しそうに語っていた。
とはいえ、口の悪さは変わらず。
こちらも指導を受けているのだけど、担当者が嘆いていた。
まあ……
これはもうどうしようもないので、がんばってほしい。
それまでの環境が関わってくる問題だから……
さすがに、すぐにどうこうすることはできないだろう。
長い目で見るしかない。
とまあ……
ラナは、いくらか問題はありつつも、けっこううまく我が家に馴染んでいた。
それは、驚くべきことにフィーも同じで……
「あ、ラナさん」
「おっす」
ふと、廊下でフィーとラナが話をしているところに遭遇した。
仲良くしているだろうか?
そっと、物陰から様子を見る。
「この後、ちょっと時間あったりしませんか? お願いしたいことがあって……」
「ん? 別にいいけど……あー、掃除か? シルフィーナって、ちょっと片付け苦手だもんな。部屋とか、わりと散らかっているし」
「うぅ、恥ずかしい話です……」
「別にいいんじゃね、あれくらいなら。ってか、完璧に片付けられると、あたしらの仕事がなくなるからな」
「そういってもらえるとありがたいです……」
「ま、代わりになんかうまいもんでもくれ」
「はい、いいですよ。では、休憩時間になったら、私の部屋でお茶会をしましょう。ちょうどケーキがあったはずなので」
「お、いいな。楽しみにしてるぜ」
「がんばってください」
「おう!」
ラナは手を振り、フィーは笑顔で見送る。
「おぉ……思っていた以上に仲良くなっていますね」
ちょっと意外な結果だった。
性格で考えると、二人は水と油のようなもの。
反発しあうものと思っていたのだけど……
いざ蓋を開けてみたらこの通り。
かなり仲のいい感じだ。
ラナは、なんだかんだ根はいい子だ。
フィーのまっすぐなところに惹かれて、わりと早く心を許したらしい。
フィーも、今までにないタイプのラナに興味を持って。
遠慮なくスパッと物言うラナのことを、逆に良く思ったらしい。
「うーん……どうやって二人を引き合わせて、ケンカをさせないようにするか悩んでいた私が、なんだかバカみたいですね」
仲良くしてくれるのなら、それでいい。
ただ……
「むぅ」
妹をとられてしまったみたいで、ちょっと複雑な気分。
リナリアの時と似たような感じ。
「いけない、いけない」
いい加減、妹離れしなくては。
それに、私はメインヒロインにならないと、という目的がある。
そうしなければ、今度こそ死んでしまうらしいし……
しっかりとがんばらないと。
「とはいえ、どうしたものか……」
メインヒロインになる。
つまり、恋愛をする。
恋愛……恋愛……恋愛……
「……恋愛って、どうすれば……?」
愕然とした。
前世を含めて、恋愛とは程遠い人生を送ってきたのだけど……
まさか、どうすればいいかわからないくらい、恋愛経験値が低かったなんて。
男性に告白をして、了承してもらう。
ただ、それだけのこと。
でも私の場合、振られる未来しか見えてこない。
「うーん……自分で言うのもなんですけど、顔は悪くないと思うんですよね。悪役令嬢って、主人公の引き立て役だから、普通に綺麗なのかな……と。性格は……普通? 男性の目を惹きつけるような女性かと言われたら、そのような魅力は……ない。スタイルは……そこそこ? 家柄はよし」
あれ?
本当、自分で言うのもなんだけど、かなりの好物件では?
それなのに、なぜ恋人がいないのだろう?
悪役令嬢だから?
でも、そこはもう関係なさそうだし……
もしかして……恋愛経験値が低いせいで、すでに好意を向けられているけど、それにまったく気づいていないとか?
「……ぷっ」
笑ってしまう。
そんな都合のいい展開、あるわけがない。
うん。
現実逃避はやめておこう。
「とにかく、対策を考えないと。さて……これから、どうしましょうか?」




