103話 ラナ
「で……なにがしたいんだよ、お前は?」
お風呂に入り、食事を終えて。
私の部屋に移動した後、ラナは、怪訝そうにそう尋ねてきた。
最初にあった攻撃的な感じは薄れている。
ただ、完全に消えたわけじゃない。
それに、警戒感はまだ強く残っていて……
心を許してくれた、という状態には程遠い。
そんなラナを見ていると、彼女が育ってきた環境がわかるような気がした。
周囲に気を許すことができない。
頼れる大人がいない。
まだ子供なのに、自分の力で生きていかないといけない。
……私が想像するよりも過酷なことなのだろう。
「返事に困ってしまうのですが……まあ、偽善ですね」
「は?」
「ついつい気になってしまい、あれこれさせてもらいました。とはいえ、ラナのような子は、探せばたくさんいるでしょうし、これも私が気になっていたから、という理由ですし……自己満足ですね」
「……変なヤツだな。それ、自分で言うか?」
「一応、自覚はしているので」
「だからって、普通は言わねーだろ。かわいそうとか放っておけなかったとか、まだそういう言葉の方が楽だぞ」
「それよりは、自分で認めてしまう方がかっこいいと思いません?」
「……ははっ、それもそうだな」
お?
初めて笑顔を見せてくれた。
苦笑に近いものだけど……
でも、確かに笑顔だ。
「ラナのことを聞かせてくれませんか?」
「……それを聞いてどうするんだよ?」
「どうしましょう?」
「あ? なにも考えてねーのか?」
「はい、なにも」
ここまで色々としたものの……
この後、ラナをどうするか?
まったく考えていない。
ここまでしたのは偽善というか……
単純に、気になっただけ、という理由だ。
それ以外の何者でもない。
でも、そんなものでいいと思う。
人間、自分の興味のあるものしか動かないものだ。
本能に忠実にいこう。
「……別に。あたしは、どこにでもいる、なんの力もないガキだよ」
「お家は?」
「そこらの路地裏だな」
「親は?」
「さあ? 生きてるのか死んでるのかもわからねーな」
「仕事は……盗みですか?」
「正解」
ふむ。
なんとなく、ラナが置かれている状況は理解した。
この国は比較的豊かだけど……
でも、どうしても影はある。
その影で生きているのがラナなのだろう。
うーん……どうしよう?
勢いで連れてきてしまったけど、正直、この先はなにも考えていない。
ラナのような子供はたくさんいる。
目に見えていないだけで、この国も、抱えている闇はあるはず。
当たり前のこと。
どうしようもないこと。
それなのに、一人一人に手を差し伸べていたらキリがない。
そこまで私は器用ではないし、聖人でもない。
とはいえ、ここで、はいさようなら、というのは後味が悪いし……
だけど、これ以上は、さすがにおせっかいがすぎるというか、偽善が突き抜けているというか……
……よし!
「ラナ」
「なんだよ?」
「よかったら、うちで働きませんか?」
細かいことを考えるのはやめ。
偽善とかおせっかいとか、そういうのは気にしても仕方ない。
私は、私のやりたいことをやる。
そして今、私のやりたいことは……
ラナの笑顔をもっと見てみたい、だ。
「あたしを雇いたいとか……お前、正気か?」
「失礼な。私は、とても真面目ですよ」
「……あ、そういうことか。なんか汚れ仕事をさせたいんだな?」
「うちは真面目な貴族ですよ。そもそも、子供にそんな仕事を任せる、色々な意味でダメな人はいるんですか?」
子供は使いやすいかもしれないけど……
基本、能力不足だろう。
それに、わりと簡単に口を割ると思う。
……と、いうことを話したら。
「……お前、本当にやってないだろうな? そういう発想が悪人そのものじゃねーか」
「やってませんよ。私がやるなら、もっとスマートにしますから」
「お、おぅ……」
なぜか引かれていた。
「で、どうですか? 働きませんか?」
「……なんであたしなんだよ?」
「んー……まあ、これも自己満足ですね」
「あっさり認めるんだな」
「嘘吐いても仕方ないですし。最初の話し合い……面接のようなものですからね。受ける側だけではなくて、質問する側も試されている……そのような状況で嘘を吐くのは、悪手でしかありませんから」
「ふーん」
ラナは、ちょっと見直した、というような感じで頷いた。
「いいぜ、あんたのところならうまくやれそうだ」
「契約成立、ですね」
私は、普通に笑い。
ラナは、不敵に笑い。
そして、握手を交わすのだった。




