101話 トラブルから始まるトラブル
その後……
私とジークは市を一通り、見て回り。
ほどよく満足したところで離れて、空腹を満たすために、近場で評判のいいお店に。
ジーク……王族が通うような洒落たところではない。
たくさんの人を迎えるような、素朴で賑やかなところ。
でも、それでいい。
味はよく、量もよし。
おまけに、財布に優しい値段。
食後のスイーツも本格的で……
ついつい、がんばって食べてしまうくらい素敵なところだった。
ここは、また今度、フィーと一緒に来よう。
それから、二人並んで食後の散歩をする。
「ふぅ、美味しかったです」
「本当だね。それに、店の雰囲気も良いと思う。よかったら、また今度、一緒に行かないかい?」
「はい、もちろん。あ、でもその時は、フィーも一緒でもいいですか?」
「……もちろん」
今の間はなんだろう?
ジークに限って、フィーを邪険に扱うことはないと思うのだけど……?
「っと」
「ご、ごめんなさい!」
どん、という軽い衝撃。
小さな女の子がぶつかってしまったみたいだ。
尻もちをついている。
「大丈夫ですか?」
「うん……ありがとう、お姉ちゃん。それと、ごめんなさい」
「気にしないでください」
「優しいね、お姉ちゃん。じゃあ私、急いでいるから……」
「待て」
立ち去ろうとする女の子に、ジークがいつもより強い様子で言う。
その表情は厳しく……
怒っている、のだろうか?
「アリーシャの財布を返してもらおうか」
「っ!?」
「え? 財布って……あっ」
言われて、初めて財布が消えていることに気がついた。
と、いうことは……
この子は、もしかしてスリ?
「くそっ!」
女の子は、ダッ! と駆け出そうとするのだけど、
「甘いよ」
それよりも先に、ジークが女の子の腕を掴んで止めた。
女の子は、ジークをキッと睨みつける。
「離せよ! くそっ、てめー!」
「離すわけないだろう? スリの現行犯だ。このまま、騎士のところに突き出させてもらうよ」
「ふざけんな! 離せ! あたしにこんなことをして、タダで済むと思うなよ!? 後で、ぜってー仕返ししてやるからな!」
「おぉ……」
ものすごい口。
さっきは、見事なまでに猫を被っていたみたいだ。
うーん……
でも、悪い子には見えない。
財布を盗られそうになったのは確かだけど、ただ、悪人の気配がしないというか……
子供がちょっとだけやんちゃをしている、という感じ。
本当の悪人っていうのは、近くにいるだけで自然と緊張して、気持ち悪さすら覚える、と思っている。
まあ、子供相手に、そこまでの脅威を感じることはないと思うけど……
相手が子供ということを抜きにしても、強い悪意は感じられない。
「ジーク、落ち着いてください。相手は、まだ子供じゃないですか」
「それは……いや、ダメだ。子供だとしても、犯罪は犯罪だ。しっかりと対処すべきだ」
「なにか事情があるとしたら?」
「え?」
「やむにやまれない理由……たとえば、財布を盗ってくるように、と脅されているとか。あるいは、そうしなければならないほど追い詰められているとか。そういう事情があるかもしれません」
「それは……」
「まずは、話を聞いてもいいのでは?」
「……はぁ」
ため息。
それは、降参、というような感じだ。
「キミという人は、本当に……」
「?」
「いや、なんでもないよ。被害に遭いそうになったのはアリーシャだから、どうするかは任せるけど……どうするつもりなんだい?」
「そうですね……」
考える。
この子は、なにかしら事情を抱えているかもしれない。
というか、小さな女の子がスリなんてする時点で、事情があるのは、ほぼ確定。
いくらかの情状酌量はあってもいいと思う。
とはいえ、悪いことは悪いこと。
その辺りは、きっちりしないといけない。
ただ、それよりもまずは……
「あなた、名前は?」
「……」
「私は、アリーシャです。あなたの名前を教えてくれませんか?」
しゃがんで、視線を合わせて、もう一度、お願いした。
じっと目を見る。
決して逸らさない。
なんだか、気分屋の野良猫を相手にしているような気分だ。
「……ラナだよ」
ふてくされたような感じだけど、でも、ちゃんと教えてくれた。
うん。
やっぱり、この子は悪い子じゃないと思う。
「じゃあ、ラナ。私の家に来ませんか?」
「……は?」




