各々の森での出来事
またしても神々無双ルートに入らせていただきます。
「ヒューズドってなんやかんやでトラブルに巻き込まれやすい世界なんですかね?です」
「そうじゃのう……特にザグナシア王国はそれが顕著に見えるのじゃ。やはり才能ある者たちの宿命なのかのう」
才能ある者の宿命と言ってはみたものの、命に気に入られた時点でザグナシア王国はそうなる運命だったのかもしれないとソヨは思い直す。
ヒューズドを訪れたクランとソヨは目の前に広がる光景に顔を顰めていた。
ヒューズドで起こっていた自然現象は森林を中心とした火災。そしてその火災のせいでモンスターが跳梁跋扈するという地獄絵図が広がっていた。
ヒューズドは魔法の世界。なので野生のモンスターなどの対処も魔法で行っている。主にモンスターが大量発生している森に結界を張って、ヒューズドの者たちが住まう場所まで来ないよう対処しているのだ。
そうなってくるとそれを専門とした職についている者たちもいるのだが、大規模な火災のせいでそういった魔法使いたちへの被害も大きく、その結界が決壊してしまったのだ。
そのせいでヒューズドは火災とモンスターという、二つの脅威に襲われている。
「さて、どうしたものかのう。互いの得意分野から考えるとクランがモンスターの対応、わらわが火災の鎮圧化という分担じゃろうが……」
「それで大丈夫です!モンスターは私が皆殺しにするです!」
クランは己の身体能力のみで女神一の戦闘能力を誇る女神だ。なので魔法の力を必要とする火災の対処よりも、モンスターを倒す方が向いている。一方のソヨは魔法を大の得意としているので消火の方を担当する方が向いている。ソヨとクランは実にバランスの取れた二人というわけだ。
「其方はめんこい顔をしてなかなか物騒なこと言うのじゃ」
「はっ!ごめんなさいです。気を付けるです!」
クランは武尽の次に優れた武神だが、自身を可愛くしたいという女の子らしい願望を誰よりも持っている女神なので、ソヨの指摘に彼女は意識を引き締めた。
「それじゃあ早速、私はモンスターたちを……えっと……て、天国に連れて行くです!」
「ふふっ……其方は愛らしいのじゃ。しばしの別れじゃが、お互い励むのじゃ」
先刻の指摘から、どうにかして物騒な物言いにならないように懊悩したクラン。内容は全く変わっていないが、クランなりにオブラートに包んで発言したようだ。そんな健気なクランにソヨは破顔一笑した。
こうして一時的に別行動をすることになったソヨとクランは、目的の場所へと急いだ。
「うーーん、モンスターたち……いろんなところにいて大変です。一度にたくさん倒せたら楽なのですが、です」
次々とモンスターたちを倒すクランだったが、その効率の悪さに頭を抱えた。モンスターは同じ場所から湧いてくれるわけではないので、倒しては移動し、また倒しては移動の繰り返しである。
「うーーーん。苦手ですが、魔法を使いますです!私だって練習頑張ってるです!神の力に胡坐はかいていないのです!」
クランは考えに考えた結果、魔法でモンスターを集めることを思いついた。クランは魔法をあまり得意とはしていないのだが、女神として産まれてから魔法の修行を怠ったことは無かった。
そもそもクラン的〝魔法が不得意〟というのは神々と比べた場合の話で、普通の人間と比べてしまえば当然優れているのだ。
なのでヒューズドに蔓延るモンスターを特定の場所に転移させるのはそう難しいことではない。
クランは顔中に皺を寄せ、何とも残念な相好になると魔法を発動した。先刻ソヨに指摘されたばかりのことだが、魔法を行使するといった集中を伴う行為の際はこうなってしまうので仕方がないのだ。
森の中にいるクランの無詠唱魔法は見事成功し、クランの目の前に数万はくだらないモンスターたちが現れ、それらが一気に襲い掛かってきた。
種類やその数は様々だが、やはり低級モンスターの数が多く、大型で強いモンスターが少ないという感じだ。
「わぁ!です。魔法成功したです!嬉しいですっ!」
今にもモンスターに食い殺される勢いのクランはその脅威よりも、魔法が成功したことに気を取られているようだ。
だがそんなクランに油断があるということは無く、彼女は命から授かった大鎌型の武器を構えるとそれを勢いよく振り回した。
そのたった一振りで目の前に広がっていた有象無象の半分が息を引き取った。クランの攻撃は直接武器が触れなくとも影響を及ぼすので遥か遠くにいる相手でも死んでしまうのだ。
そしてクランの攻撃で被害を被ったのはモンスターだけではなく、周りの木々や山々も同様だ。周りの林はなぎ倒され、山の方はクランが武器を振り回した部分から上が丸々欠けてしまっている。
「おぉー!ドラゴンさんもいるです。何秒耐えられるか楽しみです!」
モンスターが半分いなくなったことで視界が倍クリアになり、クランは空で威圧感を放っているドラゴンを発見した。
クランが背伸びをして見上げている一〇〇メートル級のドラゴンは、かつて魔王ザグナン――つまり未乃が倒し封印したドラゴンだ。その封印には絶えず魔力を送る必要があり、ザグナンに代わって魔人がその役を務めていたのだ。恐らくその魔人が今回の自然崩壊が原因でそれどころではなくなってしまったのだろう。その魔人は良くて怪我、悪ければ死んでいると仮定した方がいい。
ザグナンでも苦戦した伝説級のドラゴンだが、クランにとっては敵に成り得る存在ではない。なのでこのドラゴンが一体何秒もつだろうかと、クランは期待とは呼び難い予想を立てている。
ドラゴンはクラン目がけて森を消失させてしまう程の業火を放ったが、その攻撃はクランが己の武器を一振りしただけでドラゴンに撥ね返ってしまう。だがドラゴンには炎に対する耐性があるので、自分の攻撃で傷を負うことは無い。
とは言っても、クランが炎を撥ね返した際に繰り出した斬撃がダメージになり、ドラゴンの身体には生々しい傷がつく。
それでも致命傷にはならず、クランはドラゴンの頭部まで思いきり跳躍した。その素早い動きにドラゴンはついていくことが出来ず、クランをその視界に捉えることが出来ていない。
「よーいっしょっと!」
大鎌を大きく振り上げたクランは、ドラゴンの頭部目がけてそれを振り下ろした。頭から胸、胸から胴体、胴体から尾。つまり頭の先から尻尾まで通った刃には、ドラゴンを真っ二つにした証拠でもある鮮血が色づいている。
「ふぅ、七秒ってところでしょうか?です」
ドラゴンが攻撃を開始してから、クランが倒すまでの時間はおよそ七秒。たかだかドラゴンにしては頑張った方だろう。
真っ二つにされたドラゴンは綺麗に左右に分かれ、地上へと落ちていった。そんなドラゴンの遺体に押し潰されたせいで絶命したモンスターも多い。その証拠にドラゴンが落ちた地面からはけたたましい轟音が鳴り響いた。
「あとは雑魚さんだけですねです。こっちの方がちまちましてて難しいです」
辛うじて生き残った僅かなモンスターの処理にクランは顔を顰める。クランにとってはドラゴンを倒すことよりも、弱いモンスターをちまちまと倒すことの方が苦痛なのだ。例えるのならミリ単位の紙を破るよりも、大きな紙を破り捨てる方が楽という感じだ。
とは言え、ヒューズドの脅威となるモンスターの大半は片づけたのでクランの役割はここでほぼ終了である。
クランがドラゴンを真っ二つにしている頃、ソヨは同時多発的に起こっている火災の原因となっている森を訪れていた。
森林火災はこの世界における温暖化などが原因だろうが、今このタイミングで発生したのには他の原因がある。その原因を今命が探っているということはソヨにも分かっているので、彼女は余計なことは思考せず、己に課せられた任務だけに集中する。
「ふむ。大火災じゃな。これはちと骨が折れるのじゃ」
火災を一つ一つ潰したところで大元である森林火災をどうにかしないことには被害は広がるばかり。なのでソヨは先に一番被害の大きいこの森を訪れたのだが、飛び火した方の被害も相当なもので、二次火災、三次火災……といった具合に広がりは終わりを見せない。
それらを全て消火するとなると時間がかかり被害もどんどん増してしまう。なのでソヨは頭を悩ませた。
「そうじゃ!いいことを思いついたのじゃ!」
だがすぐに何かをひらめいたソヨはポンと手を叩くと、早速そのひらめきに基づいて魔法を発動しようとする。
ソヨは両手を空に向かって掲げると、魔法のイメージを固める。そのイメージは実にシンプルで大雨だ。ソヨはヒューズドの上空に雨雲を作り出し、そこから集中豪雨レベルの大雨を降らせたのだ。
それも集中豪雨とは違い短期的なものではなく、燃え盛る炎が消え去るまで止まない雨だ。
こうすれば同時に各地の火災に対処することが出来るのでソヨは丁度いいと考えたのだ。ソヨが魔法で火災の起きている場所を確認すると、順調に火は消え始めていた。
だが根本である森の方はいくら雨を降らせてもあまり変化が見えない。それ程までの凄まじい業火なのだ。
「うーむ。仕方ないのじゃ。ここはわらわが頑張るのじゃ」
雨だけでは森林火災を鎮めることが出来ないと判断したソヨは更に魔法を行使することにした。ソヨは火災の中心に向かって手を向けイメージを固める。するとソヨの手元から巨大な水の塊が出現し、丸みを帯びたそれはどんどん大きくなっていく。
ソヨの背丈など当に超え、ちょうどクランが倒したドラゴンと同じぐらいの大きさになった水の塊。ソヨはその水の塊を森に向かって振り下ろした。
ソヨの魔法で作り出された自然的な消火器は見事に燃え盛っていた火を消し去った。一気に消え去ったのでかなりの音と煙が森中に広がる。
「ゴホッゴホッ……けむいのじゃ。これも消すのじゃ。じゃがどうやって消すかのう…………まぁブラックホール的な何かを作れば良いかのう」
煙は環境的に良いものではないので、ソヨはついでにそれも消し去ることにした。だがその方法を所持していないソヨは適当なイメージで魔法を作ることにした。
その〝ブラックホール的な何か〟を魔法であっさりと作り出したソヨ。ブラックホールはみるみるうちに森に蔓延する煙を飲み込み、ソヨの吸い込む空気を清潔なものへと変えた。
しばらくすると豪雨で対応していた火災も消え去り、ヒューズドの自然崩壊は収束へと向かった。
「うむ。一件落着なのじゃ。クランと合流するかのう」
水浸しになった森の中、仕事を終えたソヨは満足げに破顔するとクランの所在を探るのだった。
今までの分を含め、クランの武器について修正を入れています。
次は明日更新予定です。
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