崩壊の始まり
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「とりあえず世界が終わった理由は分かった。これで命が最初に掲げた目標は達成できたよ。いやぁ長かった。お兄さんのおかげだよ、ありがとう」
「あ、あぁ……」
命は創造主になったばかりの頃。創造主としての役割とは別に世界が終わった理由を探るという目標を立てていた。それが長い長い年月を超えて今達成できたことで、命は何とも言えない感慨に浸っていた。
一方秋人は突然視界が元の教室に戻ったことと、事の真相を知ったことによる衝撃で目を回している。リア時代の記憶を取り戻した秋人は、女神が創造主を裏切った理由にあんな背景があっただなんて想像もしていなかったのだ。
「もう一度言うけど、神様たちは何も悪くないからね」
「あぁ、分かっている」
どこか現実世界に戻ってこれていない様な秋人に命は再度言い含めた。世界が終わったこと、あの女神が追い込まれていたこと。それらの責任は神々には無い。前創造主だって自覚があってミスを犯したわけではない。完全な悪は一人も存在していなかったのだ。
「……やることなくなっちゃった。命帰るね」
「あぁ…………ってえ!?もうか?」
「うん。これ以上ここに留まる理由ないし」
バクスでの用件を済ませてしまったのは事実だが、行動力があり過ぎる命の即決力に秋人は目を見開いた。これでは別れの感傷もくそもない。
そもそも今日転入したばかりだというのに、今日の内に転校するなんて誰が想像するだろうか?
「お兄さん以外の人間の記憶から命のことは消去しておくから、心配しなくても大丈夫だよ」
「流石だな……」
秋人の心を読んだ命は彼の危惧していることを解消させた。下界の住人から創造主の記憶を消すというのは命の十八番芸なので、秋人は力が抜けたように呟いた。
「じゃあね、お兄さん。何かあったら命に呼び掛ければすぐに行くよ。命は天界から見てるから。お兄さんは命の恩人だから出来うる限りのことはするよ」
「恩人って……大袈裟だな」
天界に住まう者が下界の住人一人に固執することはあまり良しとはされていない。なので命が出来るのは本当に〝出来うる限りのこと〟である。
「そんなことないよ。命がずーっと知りたかったこと知れたのは、お兄さんのおかげなんだから」
苦笑いを浮かべる秋人とは対照的に、命は柔らかい満面の笑みを向けた。命の言うことは純然たる事実である故に秋人は照れくさそうな相好を見せた。
「じゃあ、何かあったら頼らせてもらうな」
「うん!」
秋人が素直に頼ってくれたことで命は嬉々とした声を上げた。こうして命の高校生活は呆気なく終わりを迎えた。
この時の命はまだ知らなかった。これから世界に起こってしまう最悪の事態を。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふんふーん」
「お前さては音痴だな」
「ばれちった」
世界が終わった真相を漸く知ることが出来、意気揚々と天界へ帰還した命はそれからというもの常に上機嫌である。
今も大好きなチーズドッグを創造主の力で大量生産しつつ妙な鼻歌を口ずさんでいる。
命自ら作曲した適当過ぎる鼻歌だったが、妙に音がズレていることに目敏く気づいた武尽。命は若干頬を膨らませつつ、湯気を立てているチーズドッグにかぶりついた。
「「命様!」」
「ん?」
命が呑気にチーズを伸ばしていると、血相を変えた神々が全員揃って広間に現れた。命は簡潔に尋ねたが、同時に世界を見渡せる液晶パネルに視線を移動した。
神々全員が同時に命の元を尋ねる理由は一つ。世界に何らかの事態が発生してしまったということだ。なので命は反射的に世界の様子を確認した。
「ほとんどの世界に自然崩壊が生じています!」
「うん……見れば分かる」
神々の代表として報告したデグネフは今までにないほど慌てていて、状況の深刻さを物語っていた。だがその報告は世界を観察すれば一目瞭然の事実だった。
命の目に映った各世界はデグネフの言ったように〝自然崩壊〟が起こっていたのだ。
地震、津波、森林火災、嵐、噴火、etc……。それは当に阿鼻叫喚。モンスターなどが住まう世界では、それらの生物が跳梁跋扈し混乱を招いている。
「命様、我々は何をすれば?どうかご命令を……」
「みんな、静かにして」
デグネフは早急な対応のために命に指示を仰いだが、命は何やら目を閉じて一点に集中しているようで、神々全員が口を噤んだ。
命が神々に静かにするよう指示したのは、今命にとって音という媒体が最も重要な情報になりうるからだ。
命は創造主になる前から所持していた特異的な能力を使ったのである。それは魂という存在の声を聞く唯一無二の力。魂に言葉を紡ぐ力はないので、命はほぼ叫びに近い魂の声から断片的な情報を掬い取るのだ。
「……くるしい。つらい。どうして?……たすけて」
「「……?」」
ポツリポツリと呟く命の言葉に神々は声を出さないように首を傾げた。命が呟いているのは断片的に読み取れた世界の魂の声だ。
自然現象というのは世界の魂が時たま起こすことのできる癇癪の様なものだ。それがほとんどの世界で同時多発的に起こるというのはまず普通ではありえないので、何らかの原因が潜んでいるのは明らかだ。
命はその嫌な予感とも呼べる原因に心当たりがあった。その原因であるバクスの世界の魂の声。それが命が発した言葉なのだ。
「みんな……」
「なんだ?」
「世界のことは、任せてもいいかな?命、やらなきゃいけないことがある」
ポツリと零れ落ちた様に神々に呼び掛けた命。そんな命の瞳はどこか虚ろで、それだけ命が動揺していることが見てとれた。
武尽の問いに対する答えを口にした命に、神々は気を引き締めたような相好になる。
「自然が相手か……くくっ、そそるな」
「武尽ってこういう時は頼りになるよね」
「まるでいつもの吾輩は無能だとでも言いたげだな」
戦闘狂の武尽は自然という脅威的な敵を目の前に精悍な笑みを浮かべた。そんな武尽に誉め言葉を送ったつもりの命だったが、本人はお気に召さなかったようだ。
「命様。わっちの能力は誘惑でありんすから、自然相手では足手纏いも同然でありんす」
「それでしたら私も戦闘には不向きですから……」
ルミカの神力はサキュバスとしての誘惑。千歳の神力は治癒だ。どちらも自然を相手にするには不利な力。なので二人は心配そうな相好で命に指示を仰いだ。
「なら吾輩の完全無色を貸してやる。今所有者を一時的にお前たちに変えた。これで完全無色はお前たちの意思に沿った働きをするぞ」
武尽は命から授かった愛武器である完全無色をルミカと千歳に手渡した。
完全無色は何も望んでいない状態だと無色透明なので、受け取ったルミカたちは突如腕に圧し掛かった重みに目を見開いた。
完全無色は武尽の希望通りに働く、武尽のために産まれた武器だ。なので武尽が望むだけでその所有者も変えることが出来る。
神々と世界の数を考えると、一つの世界に二人の神が対処に向かうことになる。つまりルミカと千歳が完全無色を武器に世界の対処に向かえば丁度いいというわけである。
「武尽坊ちゃん、よいのですか?」
「あぁ。吾輩はそれが無くとも、吾輩自身の力で事足りるからな」
神として産まれてからずっと武尽が大切にしてきたのがこの完全無色だ。千歳はそんな愛武器を自分たちが使ってもいいのだろうかと心配した。
だが武尽という男神一人をとってもそもそもチートなのだ。そんな神からチート武器を取り上げたところで何の問題もない。
「では、俺はハクヲ殿と組めばいいということだな」
「よろしく頼みます」
元々ルミカとペアになり、世界炎乱を管理していたのは未乃だ。そして千歳と組んで世界ラインを管理していたのはハクヲ。それぞれの相棒が一時的にいなくなってしまうこの二人が組むのは自然な流れである。
あまりこれまで絡みが無かったハクヲと未乃なので、お互い軽い会釈をした。
「ではわっちたちは炎乱、主さんたちはラインということでお願いしなんす」
「承知した」
ルミカがテキパキと役割分担を決め未乃はそれを享受した。ここまで決めてしまえば後の神々はいつも通り自身たちが管理する世界の対応に向かうだけである。
「カルマ、カルナ。バクスは命が創造主の力で予防していたから大丈夫だけど、一応様子だけ見に行ってくれるかな?デグネフもついていってあげて」
「「分かりました」」
命の言う様に、ほとんどの世界が自然崩壊を起こしている中、バクスだけが平常と変わらない様子を見せていた。それは命がつい先日秋人の予知した崩壊現象を創造主の力で食い止めたからである。
逆に言ってしまえば現在は、秋人の予知能力で見えた崩壊現象がバクス以外の世界で起きているような状況なのである。
「じゃあみんな、よろしくね。怪我には気をつけて」
「「かしこまりました」」
眉を下げて困ったように破顔した命は、ゆっくりとそんな言葉を紡いだ。前例のない自然崩壊を相手にするというのは、神々でも油断は許されない。世界の住人ではまず間違いなく対抗できないのが自然だ。そんな自然を相手に神々が勝利できる確証などどこにもないのだ。
命は大事な大事な子供たちを戦場に送り出すという苦渋の決断を下した。可愛い子には旅をさせよとは言うものの、命はそれを実行したことが無いので不安なのだ。
神々はすぐさま世界へと転移し、天界からその姿を消した。神々がいなくなったことで不自然なほど冷たい空気が漂う天界は命にとって長時間耐えられるものではない。
「ふぅ……さてと。女神ちゃんの魂と、お話しできるかな?」
命は天界とは別の異空間を創造主の力で創造すると、ポツリと独り言をつぶやいた。その異空間を造り出した場所はバクスだ。バクスといっても異空間はバクスの根源に造り出したものなので、世界の住人などに影響はない。
異空間は産まれたばかりの頃の天界とほぼ同じで、違うのは大きさぐらいだった。ポツンと取り残されたような命は、この異空間にバクスの魂を映し出した。
そこに現れたのは美しい水色の髪、銀色に輝く瞳を持つ美しい女性。背中には眩いほどの天使の羽を生やしていて一瞬にして目を奪われてしまう。
命でさえも見たことの無い、完全な実体を持つ魂だった。
最終回までの執筆が終了いたしましたので、次回からは二日に一回ではなく、毎日一話ずつ投稿したいと思います。ですので次は明日更新予定です。
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