神々の無双 side静由
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誤字脱字報告もありがとうございます。気づくのが遅れてしまいましたが修正いたしました。
「武尽のばか……普段なら頼んでもないのに首ツッコんでくるのに」
現在存在する六つの世界の中で、最も歴史の浅い英静を訪れた静由はため息をつくと、そんな愚痴をこぼした。
英静には人間が存在しない。その代わりに様々な他種族が住まう魔法の世界だ。まだ歴史が浅いので商業はそこまで発展していないが、自然が豊かで英静の住人も生き生きとしているいい世界である。
だがそんな活気に満ちた空間は、いつもやる気なさげな静由にとっては毒ガスが充満しているようなものである。少しでもその空気に干渉しようものなら、刹那の間に呑まれてしまうような錯覚に静由は陥った。
面倒くさそうに欠伸を一つかました静由は、天界を出発する前の命の言葉を思い出していた。
「静由。武尽の代わりにありがとね!」
「命……眠くなったら帰ってきてもいい?」
静由に対する期待に満ち満ちた瞳を向けた命に、静由は本末転倒なことを言い始めてしまった。静由の面倒臭がりに命は少々頭を悩ませたが、いつもの何かいいことを思いついた(神々にとっては全くいいことではない)表情を浮かべると、何故かすぐにキリッとした顔つきになった。
「ダメだよ!静由。ちゃんとお仕事しなきゃ!じゃないと一日の睡眠時間を八時間に制限しちゃうからね!」
「健康優良児の睡眠時間だな」
「そっそんな……命、厳しい」
「いや甘々だろ」
とても罰とは思えない罰に武尽はすかさずツッコみを入れた。だがそんな武尽はガン無視で、静由はまるで絶望をまき散らされたような表情を見せた。
普段なら一日の三分の二を睡眠に費やしている静由からすれば、命の提示した睡眠時間は約半分なのでその反応もおかしくは無かったのだが、常識的に考えればやはり命は静由に甘かった。
「で、も!もしキチンと静由がお仕事できたら、後で命が特別に膝枕してあげるよ!」
「お前、飴と鞭って言葉の意味ちゃんと分かってるか?」
先刻から罰とは言い難い鞭と、どこに甘みがあるのか不明な飴で、何やら謎の行動をしている命に武尽は小馬鹿にしたような声でツッコんだ。
だが一方の静由は何故かいつになく瞳を輝かせていて、それに気づいた武尽は異形を見る目で静由をガン見した。
「命の膝枕…………分かった。俺、がんばる」
「なんでだよ」
「さっすが静由!いい子いい子」
何故か命の膝枕でやる気を出し始めた静由に、武尽は何とも言い難い形相を向けた。一方の命は静由がやる気を取り戻してくれたことに歓喜し、遥か上にある静由の頭を浮遊して撫でた。
「ふふん!どうよ、たけたけ」
「悪い、ムカつくからぶん殴っていいか?」
武尽に向かって謎の勝ち誇った笑みを浮かべ威張っている命に、武尽は青筋を浮かべると両手の関節をボキボキと鳴らした。マジでキレる五秒前である。
「もおー、折角親らしく飴と鞭を実践したのに。武尽は分かってないなぁ……」
そこで武尽の低い沸点に到達してしまったのか、武尽は常人ならまず避けられない速度で右ストレートを命に向けた。だが命はそれを華麗に避けた、というよりも瞬間移動で武尽の背後を取った。
そのまま武尽の背に勝手におぶさる形で寄り掛かった命は何事も無かったように話を続けた。
「命が目指しているのはお父さんとお母さんなんだよね」
「は!?てかさっさと降りろ」
「お父さんのように厳しく、でもお母さんのように包容力のある親になりたいんだよ!」
「あっそ」
命が神々にふさわしい親について熱弁している中、武尽は全く興味が無いようにスルーした。要するに命的には、睡眠時間を制限するという罰を課そうとした命が父親で、膝枕という報酬と提示した命が母親のつもりだったらしい。
そんな命と武尽の謎コントを見せつけられた静由は自然と影を薄めると、おずおずと下界へ降り立ったのだった。
「早く終わらせて命に膝枕してもらお」
今静由が睡魔と戦っている原動力は命の飴なのだ。何故それがエネルギーになるのかは不明だが、静由は自分の中に眠る僅かなやる気を起こしてインフェスタの異分子を探し始めた。
そうして英静の砂漠地帯にやってきた静由は、汗だくで歩き続けている異分子二人を見つけることに成功した。
インフェスタの二人は髭面の男と異様に肌の白い男で、どちらも三〇代ぐらいの外見に見えた。
「たくっ……何なんだよこの暑さ、いつになったらまともな地面になるんだよ」
「暑いって言うな。余計暑くなる」
体温を自動的に調整できる静由とは違い、ただの人である男二人にとっては確かに焼ける程の日差しだった。
「なんだ?アイツのあの格好。見たことねぇ服だし、見てるだけで暑苦しい」
髭面の男は静由の存在に気づくと、静由の異様な服装に首を傾げた。静由は真っ黒なジャージに白衣という天界でも理解されていない格好なので、下界の人間が当惑するのは当然だったのだが。
二人が当惑していると、静由は顎をつまんで何やら思考始めた。
「えーっと、何聞けばいいんだっけ?……あ、インフェスタの人間がどうして英静にいるの?……でいいんだっけ?」
「なんだてめぇ?何で俺らのこと知ってるんだ?」
静由がグダグダな尋問を始めると、髭面の男は静由に怪訝そうな視線を向けた。インフェスタの名前を何故か知っている存在に、色白の男も警戒の滲んだ目で観察している。
「その質問に答えれば、俺の質問にも答えるの?」
「あ?……あぁ」
質問に質問で返した髭面の男に、更に静由は質問で返した。だんだん混乱し始めてきた髭面の男は特に何も考えずに首肯した。
「俺は神だよ」
「「……は?」」
何の裏もなく素直に答えた静由にとっては不名誉な返事がハモって返って来た。どう考えて信じていない二人に静由は不満気な表情と共に、証明のために神としてのオーラを解放した。
「「なっ……」」
「俺、一応ちゃんと神なんだけど」
静由の神としてのオーラの目の当たりにしたことで、インフェスタの二人は苦悶の表情を浮かべるとその場に膝から崩れ落ちた。そしてそのまま暑さによって滝のように流れていた汗が冷や汗に変わり、暑かったはずなのにどんどん二人の身体は小刻みに震えていった。
一方の静由はしゃがみ込んで頬杖をつくと、拗ねた子供のような相好のまま二人を見下ろした。
「まさかっ……こんなひょろい奴が神だなんて……」
「反則だろっ!」
漸く静由が神である事を自覚した二人は苦し紛れに負け惜しみを口にした。一方の静由は興味なさそうに欠伸をし、それが二人の苛立ちを沸かせた。
「で?」
「くっ……インフェスタのために、お前ら神は滅ぶべきなんだ!」
「それ質問の答えになってない。俺早く帰りたいからさっさと答えてくんない?そういうのホントにいいから」
静由にとっては心底どうでもいい主張を始めた髭面の男に、静由は若干苛ついた様子で回答を促した。静由にとって大事なのは命と睡眠だけで、今回の仕事は早く命の膝枕で熟睡するための条件にすぎないのだ。
「圧倒的な実力差のある神を倒すには、全ての世界が協力しなければならない……」
なおも反抗しようとする髭面の男を制止して、色白の男が代わりに目的を話した。色白の男には多少の理性が残っていたのか、素直に答えないと一瞬で静由に葬られることを理解していたのだ。
「無理だよ。もし万が一、億が一俺らを倒せたとしても、すぐに命が生き返らせて、お前たちを皆殺しにするから」
「みこと……?」
「お前が呼び捨てにするな」
残酷であり、同時に純然たる事実を静由は二人に告げた。
世界の住人が輪になって神々に刃を向けたところでそう簡単に勝てるわけがない。そんな神々が一二人もいるのだから、下界の住人が勝てる可能性はゼロに等しい。
例え勝てたとしても、創造主である命の存在がそれを無に帰してしまうので、インフェスタの人々のあがきは全て無駄になるのだ。
色白の男が尋ねるのと同時に命の名前を呼ぶと、それが静由の怒りの琴線に触れてしまったらしい。静由は若干力を入れた手刀で、インフェスタの二人の頭を叩くと、一瞬で二人は意識を失ってしまった。
「……あれ?死んだ?」
二人は頭に受けた衝撃のせいで既に絶命しており、殺すつもりなど毛頭なかった静由は若干当惑した。だが二人の顔はどんどん青ざめていって当に死人のものになっていた。
一応二人の首に触れて脈を確認すると、やはり生命活動を停止させていて、静由は二人の貧弱さに思わずため息をついた。
「はぁ……しょうがない。連れて帰ろう」
面倒くさそうに頭を掻いた静由は二人を抱えると、命の膝枕目がけて天界へと帰還したのだった。
次は明後日更新予定です。
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