カウントダウン
神々無双からようやく本筋に戻ります。命が久しぶりに登場です!
「ただの人間の癖してやるじゃねぇか、ガキ」
「ふふふ……あと三〇分はイケるのじゃよ」
「何だか運動会みたいで楽しいね!」
「…………」
各神々がそれぞれの世界で無双している中、天界では無双同士の決闘が行われていた。決闘はもちろん最強武神である武尽と、インフェスタ最強を自称するソヨとの戦いで、それは当に苛烈を極めていた。
戦いの舞台は天界の戦闘場で、以前命が神々のトレーニング場所として造ってやったものだ。そこの中心で睨み合っているのは武尽とソヨ。そんな二人の戦闘を観戦しているのが命、弥永、デグネフ、リンファン、千歳、未乃だ。
武尽たちは彼此一時間以上死なない程度の殺し合いをしているのだが、まだ決定的な決着はついていない。とは言っても、やはり武尽とソヨでは歴然な力の差が存在していて、無傷で息さえ乱れていない武尽と違って、ソヨは所々に擦り傷や切り傷ができている上に苦しそうな呼吸をしている。
だがそもそも神相手に一時間以上も闘い続けているソヨは十分異常で脅威的だ。それだけでも後世に誇っていいぐらいの偉業なのだが、それでもソヨは圧倒的な力の差を前に歯を食いしばった。
ピリピリとした空気の中、唯一命一人が子供の運動会を見に来た親目線で二人の闘いを観察していて、そんな命に神々は苦笑いを向けている。
「二人ともすごいよぉ!頑張れぇー!」
「うるせぇんだよ!気が散る!」
「其方こそ十分うるさいのじゃ」
大勢の人がごった返す本当の運動会ならまだしも、大して喧騒に包まれていない戦闘場で大きな声援を送った命に武尽は毎度変わらない怒鳴り声でツッコんだ。
ツッコみにツッコみ返したソヨに神々は激しい同意が滲んだ頷きを見せた。面倒臭いのでわざわざ指摘していないだけで、神々はいつも内心同じことを思っていたのだ。
武尽のツッコみなど何万年もまともな耳に入っていない命は、いつの間にか創造主の力で豪勢過ぎる重箱のお弁当を創造し、それを広げていた。
本気で運動会?を満喫するらしい相変わらずの命に、神々は最早諦めの境地に至ったような視線を向けていた。
ソヨの宣言通り、二人の攻防はそれから三〇分続いた。要するにソヨは三〇分後に戦闘不能に陥ってしまったのだ。
だが武尽は完全無色を使わなかっただけで、手を抜いたわけではない。そんな武尽相手に一時間半もまともな戦闘を繰り広げられたことは、世辞抜きでありえない偉業だったのだ。
「おつかれ、わらわちゃん。すぐに怪我治すからね」
「久しぶりにそそる戦いだったぞ。人間の癖に吾輩を楽しませるとはなかなか見どころがある」
床に寝そべる形で倒れ込んだソヨを、命はすぐさま創造主の力で治癒した。疲れまで命が回復させたことで、ソヨは一瞬のうちに元気に起き上がった。
だが今まで負った傷や蓄積された疲労感がまるで幻だったように消えてなくなったせいで、ソヨはポカンとしたまま自分の身体をあちこち観察している。
武尽が他人を褒めるのはなかなか無いことなので、神々は一様に目を見開いていたが、そんなことを知らないソヨは単純に褒められたことによって嬉しそうにはにかんだ。
「お!何なのじゃそれは!和の香りがするのじゃ!」
「お弁当箱だよ。食べる?」
「もちのろんなのじゃ!」
先刻までの戦いが嘘のように命とソヨが平和的な会話を始めると、一人、また一人と下界に降りていた神々が帰還してきた。
「あ!みんなおかえり!」
愛しい神々が無事に帰還したのを確認した命は、一瞬のうちに顔を嬉々として輝かせた。先刻まで下界にいたことで経緯を見ていない神々は、レジャーシートの上で命とソヨが弁当を囲んでいるという異様な光景に首を傾げた。
だが神々が首を傾げる一方、そんな神々たちも各々随分と物騒な装いになっているので命たちの方も首を傾げるという異質な空間が広がっている。
それもそのはず。
クランは頭と胴体がさよならしている男と、身体が頭の上からつま先まで真っ二つになっている男の遺体をその怪力で抱え。ハクヲは所々ひどい怪我をしている二人を背中に乗せ。カルマとカルナは小さなキューブ状の結界の中に押し潰された状態で封じられている人間を、それぞれが一つずつ手にし。ルミカは誘惑したことで正気を失った二人を後ろに従わせるように連れている。
この酸鼻と異常を極める光景が広がる中、首を傾げるだけの命も命だ。そんな命が静由は一体どんな状態の哀れな異分子を連れているのかと探りを入れようとすると、刹那、静由が猛スピードで命の膝に飛びかかった。
「……静由…………寝てるし」
突然膝の上に静由の重みを感じた命は、僅か数秒で眠りについてしまった静由に苦笑いを向けた。静由が向かってきた方向に視線を向けると、目立った外傷がないにも拘らず絶命している異分子二人が転がっていた。
確かに仕事を遂行した褒美として自分の膝枕を提示したのは命だが、本当にそれだけのためにあの二人をここまで連れてきたのかと思うと、命は何とも言えない感情に襲われたのだ。
自分を慕ってくれていることに対するどうしようもない喜びと、静由の底が知れないマイペースさに対する困惑で、命は眉を下げるほかなかった。
「みんなお疲れさま。話は後で聞くから、とりあえず異分子は生き返らせるか治療して、牢屋にぶち込もうか。こんな状況じゃお弁当がまずくなっちゃうし」
今天界の戦闘場は血の臭いが充満していて、そんな鉄臭い空間で食事をするのはソヨも嫌だったのか、命の意見に激しく同意を示すように頷いた。
そもそもそう簡単に神々が下界の人間を殺めるのはあまり良いことではない。以前魔人の根絶を目論む組織の幹部たちを皆殺しにした際は、それが世界の均衡を保つために必要だったので実行しただけだ。今回の場合はまた特殊なケースなので、とりあえずは生き返らせようという決断を命は下したのだ。
「「了解しました」」
命の提案に神々は一礼することで了解し、命はそれを確認すると早速蘇生と治癒、牢屋の創造に取り掛かった。
命は神々が捕らえた異分子一〇人が入る程度の簡易牢屋を創造し、そこに異分子たちを放り込んで閉じ込めると、すぐに蘇生、治癒を開始した。
だが意識を取り戻して喚かれても五月蠅くて困るので、命は異分子たちがしばらくの間目を覚まさないように創造主の力を行使した。
「それで?みんなどうだったの?」
命が神々に成果を尋ねると、一人ずつ各々の報告を始めた。とは言っても、大体全員が同じ結果に行きついていたので、命は混乱することなく状況を把握することができた。
「ふーん、アホだね」
「全く……我々に楯突くというのは命様に楯突くのと同義。首謀者は相当な愚か者ですね」
命のドライな意見に神々は激しく同意を示すように頷いた。神々からの話を聞いたデグネフもインフェスタの人々の安易な考えにため息を漏らすことしかできないようだ。
「でも話を聞く限り、あの異分子たちも首謀者に騙されてるっぽいよね」
「やはりあの男が元凶なのじゃな……」
ソヨはそもそもの原因である蛇顔の男をやはり何とかしないことには何も始まらないことを再認識させられ、苦々しい表情を見せた。あの男が現在牢の中にいる者たちに〝神は悪である〟という認識を植え付けたのなら、異分子たちも被害者の一人なのだ。
「そうだろうね。……みんなの話を整理すると、首謀者は神々を滅ぼすのが目的なんだよね。どうして神々が邪魔なんだろう?」
「これはあくまでわらわの仮説じゃが、彼奴は全世界を己の手中に収めようとしているのだと思うのじゃ」
「……あーはいはい。〇世界の神になる的なあれか、めんどくさ」
そもそも首謀者が何故ここまで大掛かりなことをしてまで神々を滅ぼそうとするのか、命にはその動機が分からず首を傾げた。
この中で最も首謀者の人柄を知るソヨが仮説を話すと、命は首謀者に対する呆れと煩わしさでため息をついた。
「本当にすまないのじゃ…………それにしても、彼奴の対処はどうするのじゃ?命」
「ん?首謀者の目的が神々なら、こっちから行かなくても勝手に向こうからきてくれるんじゃない?」
「じゃが、彼奴には天界に転移できる程の魔力も才能も無いのじゃぞ」
命の能天気な答えにソヨは思わず怪訝そうな声で反論した。天界への転移など、魔力も才能も豊富に備えたソヨだからできた偉業であって、そのどちらも少し足りない首謀者の男がこの天界を訪れるのは不可能だと考えたからだ。
「うん、そりゃあソヨちゃんみたいなやり方では無理だよ。自分の力だけで天界に来られちゃう人間が二人もいたらコッチが困るし」
天界は本来下界の住人が干渉できる空間ではないので、ソヨのようなイレギュラーが同じ世界で二度も発生されては流石の命も困るのだ。
「ただ、今の天界はインフェスタの人間が多くいる。もし首謀者がアイツらに何らかの印をつけていたら、それを辿ってここに来ることも可能だよ。もちろんいろんな人に魔力を借りてね」
「なるほどなのじゃ……確かにそれなら彼奴でも天界に転移できるかもしれないのじゃ」
ソヨのように自分の魔力と魔法を行使する才能だけで天界を訪れようとしても、それは無理な話なのだ。だが今牢に囚われているインフェスタの人々に、首謀者が何か仕掛けを施していれば、それを辿って天界を訪れるという方法がある。
こうすれば、足りていない二つのうち、魔法を行使する才能はカバーすることができるのだ。
そしてもう一つの魔力の場合はこれよりもシンプルだ。足りない魔力は他の人々から奪うないし借りれば十分に補うことができる。
命の推測にソヨが納得していると、命が何かを察知した様に突如空を見つめた。命の変化に瞬時に気づいた神々も念のため警戒を始める。
「命?どうしたのじゃ」
「今から一〇秒後に多分来るよ……一〇、九、八……」
「な、なんじゃと!?今からなのじゃ?」
残り一〇秒のカウントを唐突に始めた命に、ソヨは今までで一番の慌て様子を見せた。まぁ、つい先刻まで話題に出ていた人間があと数秒で現れると告知されれば誰だって驚くだろう。
「五、四、三、二、一……ほら来た」
命の微笑と共に現れた男は、ソヨの言っていた当に蛇顔の男だった。命の予測通りに現れた男に、全員の視線が集中する。
牢の中の人々を除いて、唯一首謀者に何の注目もしていなかったのは、命の膝で爆睡中の静由だけだった。
やっぱり命くん書いている時が一番楽しいですね。流石は主人公。
次は明後日更新予定です。
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