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夢世  作者: 花 圭介
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夢世31 武器の選定

 四方から伸びる光が、あたかも手術室の無影灯のように、修理台上のシュンマオを浮かび上がらせる。

 影が飛んだその姿態は、損傷の激しさが際立ち、目を覆いたくなる。


「……なぜこんなことに」

 理解が追いつかず、俺は頭を抱えた。


「……念のため、シュンマオを探してくれるようジュノーにお願いしていたの……。そうしたら3階層でシュンマオが見つかって……」

 ユッキーは目を伏せ、俺の呟きに悲しげに答えた。


「ジュノーって?」


「あっ……ごめん、私のポッポのこと」

 ユッキーはハンガーラックに澄まし顔で止まり、嘴で羽の手入れをしている赤い鳥を指差した。


「……シュンマオを治せる?」

 赤い鳥は一瞥しただけで、俺はユッキーに視線を戻した。


「大丈夫。頭部は無事みたいだから、きっと記憶も性格もそのままに治せるはずだよ。ただ……ちょっと時間はかかるかもしれない」


「……性格はむしろ変わっても良かったんだけど。……まあ、元どおりになるならそれで良いか」

 内心ホッとしている自分を拒むように、俺はあえて少し棘のある言い方をした。


「ハハ……」

 それに対してユッキーは、乾いた笑い声をあげるにとどめた。


「でも……何故時間がかかるの? 夢の中なんだからパッと治せそうな気がするけど……」

 ユッキーの反応が気になったが、それには触れず、解せない点を質問する。


「私も、はっきりとはわからないんだけど……。1度アイテムとして存在したものは、そのあとに手を加える場合、『修理する』とか『改良する』だとかに変化するみたいなの。そうなってくると、その分野に長けた人やその構造を理解した人、特に作成者が適任で……。私のように機械に疎いと自覚がある人では、手に負えないのよ」

 ユッキーが申し訳なさそうに肩を竦める。


「そっか、そう簡単にはいかないのか……」


「ごめんね。シュンマオを作ったのは店長だから、店長にお願いしないと……。0から作るのと違って手間がかかるから、修理代も余計にかかるけど大丈夫?」


「……幾らくらいかかるのかな?」


「んー、……多分2千コインくらいはかかると思う……。どうする? その金額なら新しいポッポを買ってもお釣りが出るけど……」


「いやいや! ほら、あれ、記憶も残ったままになるなら、壊れた理由も聞けるし……。それくらいなら出せるから修理してもらうよ」


「ふーん、分かったわ。じゃあ、店長に言っておくね! 治ったとき、テレフォンで連絡するから!」

 ユッキーは心なしか嬉しそうだ。


「それにしても……シュンマオは、何故わざわざ危険な3階層になんか行ったのかしら? ……それに、高速で飛ぶシュンマオに攻撃を加えることができる人がいるなんて……。信じられない」

 ユッキーが口をへの字に強く結ぶ。


「3階層には何があるの?」


「んー、またネタばれになっちゃうけど……。3階層は、『バトルエリア』になってるの。様々な形式で戦うのだけれど、中にはなんでもありのバトルもあって……爆弾やミサイルだって使えちゃう。シュンマオが見つかったのは、その中でも最後の1人になるまで戦い続けるゲーム『Dead or Alive』のエリア内だったみたい」

 ユッキーは未だに釈然としていない様子だ。


「そっか……そこに行けば何か手がかりがあるかな?」

 俺はシュンマオに目をやる。あれだけ騒がしかった奴が、今はただ沈黙し、似つかわしくない場所で横たわっている。


「危険だよ! 準備だってしなくちゃならないし……」

 ユッキーの顔色が変わる。


「準備ならすればいい……。どうすればいい?」

 かまわず俺は、淡々とした調子で返答を求めた。


「……まず3階層に行くには、ドリームコインを5千枚持っていることが条件なんだけど……」

 俺の態度に気圧されたようにユッキーは渋々条件を説明する。


「大丈夫、今1万枚持ってる」

 俺はユッキーの目を真っ直ぐ見つめ続けた。


「……そう、それなら装備も整えられるわね。隣の『ウェポン』に行って、店長の永井さんに何が自分に合うか選んでもらうと良いわ」

 ユッキーは数秒の沈黙のあと、深いため息をつきつつもアドバイスをくれた。

 (どうして男はみんなこうなのかしら……)との小さな呟きが耳に届いたが、聞こえないふりをした。


「色々と有難うユッキー。助かった」

 俺はユッキーの苛立ちが膨らみ、爆発する前に、そそくさとミルキィウェイをあとにした。

 そしてすぐさま隣にある店、『ウェポン』へと向かう。


 右手の形をしたウェポンは、その指先をうねうねと奇怪に動かし、人々の注意を惹きつけていたが、俺が店前に立つと途端に手招きを始めた。


 俺の体は暗示にかけられたように店の中へと吸い込まれていった。


 店内は意外に明るく、整理も行き届いており、心癒されるBGMまで流れていた。


 とても危険な武器を売っているようなお店には思えない。


 だが、いざ陳列されている物に目をやると、銃や刀が血を望むかのように鈍い光を放っていた。


 商品を品定めしつつ店の奥へと入っていくと、その先から男が悠然とした足取りでこちらへと向かって来た。


 その男は、その方面で力を発揮してきた人なのだろう、佇まいからして常人の雰囲気とは明らかに違っていた。


 切り傷が複数入った厳つい顔に、金髪のモヒカン。そして、絡みつくように太く浮き出た血管がゴツゴツした腕を這っている。それは蔓が巻かれた頑丈な巨木を連想させた。


「やあ、お前さんがタケさんかな? 俺はこの店の店長、永井だ。宜しく」

 きっと緊張を解そうと、気を遣って微笑んでくれたのだろうが、見た目とのギャップが余計に警戒心を煽り、俺を1歩退かせた。


「よ、宜しくお願いします」

 俺は慌てて退がった分と同じ分だけ前に戻り、頭を下げた。


「……今さっきユッキーから話は聞いた。お前さんに合いそうな武器を選定してほしいとのことだったんだが……。そうだな、先ずは自分で好きな武器を手に取って、気に入った分だけ俺の所まで持って来てくれ」

 永井さんはファーストコンタクトが失敗だったことを自覚し、少し困った顔になっていた。


「分かりました」

 俺は1つ深呼吸をして心を整え、永井さんに返答した。


「俺は店の奥にいる……時間はいくらかかっても構わない、自分に合ったものを選ぶことが大切だからな。じゃ、あとでな」

 永井さんはくるりと背を向け、店の奥へと消えていった。


 俺は永井さんの隙のない後ろ姿を見送った後、自分探しをするような感覚で武器を探し始めた。


「さて、どれにするかな」

 無数にありそうな武器の山を改めて目にし、込み上げてくる愉悦を抑えきれず、思わず俺は不敵な笑みを浮かべていた……。

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