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夢世  作者: 花 圭介
31/119

夢世31

 まるで手術室の無影灯のように四方からの光を受け、シュンマオの体は、修理台の上で浮かび上がって見える。

 影が飛びハッキリと見える姿態は、損傷の激しさが際立ち、目を覆いたくなる。

「……なぜこんなことに」

 理解が追いつかず、俺は頭を抱えた。

「私が……念のため、シュンマオを探してくれるようジュノーにお願いしたの……。そうしたら3階層で倒れているシュンマオが見つかって……」

 ユッキーは目を伏せ、俺の呟きに悲しげに答えた。

「ジュノーって?」

「あっ……ごめん、私のポッポのこと」

 ユッキーはハンガーラックに澄まし顔で止まり、器用に羽の手入れをしている赤い鳥を指差した。

「……シュンマオは治せる?」

 俺は赤い鳥を一瞥しただけでユッキーに視線を戻すと、恐る恐るユッキーに尋ねた。

「大丈夫。頭部は無事みたいだから、きっと記憶も性格もそのままに治せるはずだよ。ただ、ちょっと時間がかかるかも知れない……」

「……性格はむしろ変わっても良かったんだけど。……まあ、元どおりになるならそれで良いか」

 俺は、内心ホッとしている自分をユッキーに悟らせないように、あえて少し棘のある言い方をした。

「ハハ……」

 それに対してユッキーは、乾いた笑い声をあげるにとどめた。

「でも何故時間がかかるの? 夢の中なんだからパッと治せそうな気がするけど……」

 ユッキーの反応が気になりつつも、解せない点の質問を重ねた。

「私もはっきりとはわからないけど……。1度アイテムとして存在したものは、そのあと手を加える場合は『修理する』とか『改良する』だとかを強く意識できる人でないと作業が進まないみたいなの。そうなると、その構造を理解した人、特に作成者が適任で……。私のように機械に疎いと自覚がある人では、手に負えないのよ」

 ユッキーが申し訳なさそうに肩を竦める。

「そっか、そう簡単にはいかないのか……」

「ごめんね。シュンマオを作ったのは店長だから、店長にお願いしないと……0から作るのと違って手間がかかるから、修理代も余計にかかるけど大丈夫?」

「幾らくらいかかるのかな?」

「んー……多分2千コインくらいはかかると思う……。どうする? その金額なら新しいポッポを買ってもお釣りが出るけど……」

「いやいや! ほら、記憶も残ったままになるなら、壊れた理由も聞けるし……。それくらいなら出せるから修理してもらうよ」

 俺は慌てて答えた。

「ふーん、分かったわ。じゃあ、店長に言っておくね。治ったとき、テレフォンで連絡するから」

 ユッキーは心なしか嬉しそうだ。

「……それにしてもシュンマオは、何故わざわざ危険な3階層になんか行ったのかしら? ……それに、高速で飛ぶシュンマオに攻撃を加えることができる人がいるなんて……。信じられない」

 ユッキーは感想をこぼすと、口をへの字に強く結んだ。

「3階層には何があるの?」

「んー、またネタばれになっちゃうけど……。3階層は、主に『バトルエリア』になってるの。様々な形式で戦うのだけれど、中にはなんでもありのバトルもあって、爆弾やミサイルだって使えちゃう。シュンマオが見つかったのは、その中でも最後の1人になるまで戦い続けるゲーム『Dead or Alive』のエリア内だったみたい」

 ユッキーは未だに釈然としていない様子だ。

「そっか……そこに行けば何か手がかりがあるかな?」

 俺はシュンマオに目をやる。あれだけ騒がしかった奴が、今はただ沈黙し、似つかわしくない場所で横たわっている。

「危険だよ! 準備だってしなくちゃならないし……」

 ユッキーの顔色が変わる。

「準備ならすればいい……。どうすればいい?」

 かまわず俺は、淡々とした調子で返答を求めた。

「……まず3階層に行くには、ドリームコインを5千枚持っていることが条件なんだけど……」

 俺の態度に気圧されたようにユッキーは渋々条件を説明する。

「大丈夫、今1万枚持ってる」

 俺はユッキーの目を真っ直ぐ見つめ続けた。

「……そう、それなら装備も整えられるわね。隣の『ウェポン』に行って、店長の永井さんに何が自分に合うか選んでもらうと良いわ」

 ユッキーは数秒の沈黙のあと、深いため息をつきつつもアドバイスをくれた。(どうして男はみんなこうなのかしら……)との小さな呟きが耳に届いたが、聞こえないふりをした。

「色々と有難うユッキー。助かった」

 俺はユッキーの苛立ちが膨らみ爆発する前に、そそくさとミルキィウェイをあとにした。

 そしてすぐさま隣にある店、『ウェポン』に向かった。


 右手の形をした店は、その指をうねうねと奇妙に動かし、注意を惹きつけていたが、俺が店前に立つと手招きを始めた。

 俺は暗示にかけられたように店の中へと入っていった。

 店の中は意外に明るく整理されており、心癒されるBGMまで流れているため、とても危険な武器を売っているようなお店には思えない。だが、いざ陳列されている物に目をやると、銃や刀が血を望むかのように鈍い光を放っていた。

 商品を物色しながら店の奥へと入っていくと、その先から1人の男が、ゆったりとした歩調で、こちらへと向かって来た。

 その男は、その方面で力を発揮してきた人なのだろう、佇まいからして、常人の雰囲気とはどこか違った。

 切り傷が複数入った厳つい顔に、金髪のモヒカン。そして太く浮き出た血管が、絡み付いたゴツゴツした腕は、蔓が巻かれた頑丈な巨木を連想させる。

「やあ、お前さんがタケさんかな? 俺はこの店の店長、永井だ。宜しく」

 きっと俺の緊張を解そうと、気を遣って微笑んでくれたのだろうが、見た目とのギャップが酷く、1歩退いてしまった。

「よ、宜しくお願いします」

 俺は、慌てて退がった分と同じ分だけ前に進み、頭を下げた。

「……今さっきユッキーから話は聞いた。お前さんに合いそうな武器を選定してほしいとのことだが……。そうだな、先ずはこの店の中から好きな武器を手に取って、気に入った分だけ俺の所まで持って来てくれ」

永井さんはファーストコンタクトが失敗だったことを自覚し、少し困った顔を見せたが、気を取り直して話を進めた。

「分かりました」

 俺は大きく1つ深呼吸をして、心を整えてから永井さんに答えた。

「俺は店の奥にいる……時間はいくらかかっても構わない、自分に合ったものを選ぶのが大切だからな。じゃあとでな」

 永井さんはくるりと背を向け、店の奥へと消えていった。

 俺は永井さんの隙のない後ろ姿を見送った後、自分探しをするような感覚で武器を探し始めた。

「さて、どれにするかな」

 無数にありそうな武器の山を改めて目にし、込み上げてくる愉悦を抑えきれず、思わず俺は不敵な笑みを浮かべていた……。

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