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夢世  作者: 花 圭介
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夢世30

 俺は今、初めて来た時と同様に、相も変わらず、目的もなく、アナザーワールド内を歩いている……。

 だが当初とは異なり、自分の意思でそうしている。これはとても大きな変化だ。

 街並みが鮮やかに変貌を遂げ、行き交う人々は目的を持って行動している。

 今や現実世界よりも活気に満ちたこの世界は、楽園と呼ぶに相応しいのかもしれない……。

 だが、今が心地良いからといって、この世界を分からずに彷徨き歩く事は、とても危険だ。淡水魚が川の続きだと思い込み、海へと流れ出てしまえばどうなるか、考えるまでもない。

 塔矢は、この世界で今やるべき事は、警戒心を留めながら、情報収集する事と言っていた。うまくバランスをとりながら、逸らず恐れず、行動していく事が大切なのだ。

 とにかく、まずはドリームコインの収集が最優先だ。コインが無ければ何もできない。

 ユッキーのように働き口があれば良いのだが、今のところそんなあてもない。

「……とりあえずは『質問屋』しかないかな……」

 俺はゆっくりとした歩調で歩きながら、目的の店を探索していく。


 すると、サポートソフトが1番近い質問屋の位置を右上の地図に反映させた。どうやら50mほど先にあるらしい。

 そのまま歩いて行くと、電話BOXほどの大きさで『問』と書かれた看板を掲げたガラス張りの建物があった。そこへ次々と人が入って行く……。

 その建物は、ガラス張りのため透明な筈なのに、入った人々の姿は確認できず、建物を越えた先の木々が透けて見えている。

 多くの人が利用するため、きっとこれも観覧車の入口と同様、入った先が別空間となっているのだろう。

 早速扉を開け中に入ると、やはり異空間へ飛ばされたのだろう、外目から見えていた面積とは明らかに違う広々とした空間に俺はいた。

 だが、辺りをぐるりと見渡しても、果てしなく広がる白いタイルの床があるだけで、出入り口の扉以外は何も見当たらない。

「いらっしゃいませ、『質問屋』へようこそ。お客様は、こちらの利用は初めてでいらっしゃいますね。ではまず、こちらをお受取りください」

 どこからともなく声が響くと、俺の目の前に浮遊する1枚のカードが現れた。塔矢が持っていたドリームコインが表示される、あのカードだ。

「このカードは、アナザーワールドにおける通貨、ドリームコインの残量がわかるカードです。1人に1枚割り当てられ、持っているだけで自動で課金、支払いが行えます。また、このカードはお客様の意思が伴わなければ使用することができません。つまり、他人がお客様の許可なく、盗用する心配はございません。安心してご利用下さい」

 一通りの説明が終わると、足元から音もたてずに、クイズ番組で見るような○×のボタンのついた台が、ニョキニョキと生えてきた。

「うわっ!」

 俺は驚き一歩退いたが、先程カードの説明をした声が、何事も無かったように話を続けた。

「ここ質問屋では、ランダムに出題される質問にお答えいただくと、その対価としてドリームコインが支払われます。支払われるドリームコインの枚数は、質問内容により変動致します。答えていただける質問には○ボタン、そうではない質問には×ボタンを押して下さい。×ボタンが押された場合、その質問はスキップされます。なお、質問途中であっても、後ろの出入り口から退出は可能です。お客様のご都合に合わせてご自由にご退出ください。では質問に移らさせていただきます。準備ができましたら○ボタンを押して下さい」

 俺は言われた通りに○ボタンを押した。

「では質問です……」


✳︎✳︎✳︎


 小一時間後、選びながらもかなりの数の質問に答えたお陰で、俺のドリームコイン数は1万枚を超えていた。これが多いのか少ないのかは、ショップやアトラクションを利用していけば判断できるだろう。

 俺は質問屋を出て、早速どこか店に入ろうと、歩みを進めながら周囲の店から物色していく。

 そんなとき、前方から見慣れぬ鳥が、真っ直ぐ俺に向かって飛んできた。

 その姿は、錦鶏のように赤系統の色で、上手に組み合わされている。

 そして、俺のすぐ近くにある街路樹の上に止まった。

 俺は美希の伝書鳩と似た敵意を感じ、その鳥から目を逸らしたが、それでも視線を感じたため、再びゆっくりと鳥を見上げた。

 すると、その鳥が俺に淡々とこう告げた。

「ユッキーが呼んでいる。ミルキィウェイへ今すぐ来い!」

 その声は、雌であることを打ち消すほど、ドスの利いた低く怒りの籠もったものだった。

 その鳥は言うだけ言うと、踵を返してすぐに飛び立って行った。

 俺は、その鳥の後ろ姿を幾ばくか眺めた後、すぐにミルキィウェイへと足を向けた。

 半時間後、俺はミルキィウェイの店内、従業員の休憩室のそのさらに奥の部屋にいた。

 機械部品や道工具が散乱するその部屋で、ユッキーと共に修理台を見下ろしている。

 修理台の上には、爆撃を受けたかのように全身黒焦げとなり、所々機械部分が見えてしまっている変わり果てたシュンマオがいた……。

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