《狂人者》と【狂人王】
戻ってきた、あの部屋に。
最初と違うのは、ヒーロンド魔国王の首に先ほどの女性がナイフを押し当てている点だ。
「我が主!」
真っ先に異変に気付いたのは、ヨハネス。
それに続き他の物も同様の表情を見せる。
「よせ、ヨハネス。
我は無事だ。
ライムと話がしたい。」
殺意のこもった目をライムに向ける。
手を振り、やれやれと言いたげな表情で【五宝鬼】を見る。
「貴様!図ったな!!」
「あの場で言ったであろぉう?
”ワシ”は何もしないってな、ガハハ!
にしても、ワシも驚いたわい女よ。」
ライムも殺意のこもった目になる。
その先には不気味な笑みを浮かべ、ナイフを持つ女性。
「ワシの事をわざわざ《大賢者》アレフ・ライドーム様なんて言うやつはさほど多くない。
その時点で気付くべきじゃった。
おぬし、誰の差し金じゃ?」
「ふむ?
ライムとこの女は知り合いではないのか?」
「知らんぞ、ホープ王よ。」
「ナイフで首を切り裂かれようとしているのに、動かないでさい。
切ってしまいますわ、ご主人様?」
「我はお主のご主人様ではない。」
「うふふっ。」
口に手を当て自然な笑みを浮かべる。
「《大賢者》アレフ・ライドーム様、《叡者》ホープ・アズ・ヒーロンド様、《息災者》トーカ様、並びに【五宝鬼】の皆さま、我が主が【虚実の円卓】にてお待ちしております。
次に招待が届くその時こそ、我が主は名を名乗るでしょう。」
「【虚実の円卓】...、あぁ、あやつか。」
ライムには思い当たる節があるそうで、額に手を当て上を向いていた。
「知り合いか?」
「あぁ、まぁ...そのなんだ、知り合いと言えば知り合いだが、ワシとは気が合わんくてなぁ。」
「ライムにも苦手とする者がいるのだな。」
「ワシも人間じゃ、そこのガーフォもそのうちの一人じゃ。」
「あまり我の従者をいじめないでくれ。」
「元はと言えば...!」
「コホン。
失礼いたしました。
我が主より、言葉を授かっております。
この言葉を無視した場合、この場で抹殺を行いますのでご注意ください。」
「ホープ王、この女には従っといた方が良いぞ。
あ奴の事じゃ、無視した日には何をされるか分からん。」
「あのライムがここまで弱音を見せるとは...、従っておいた方が賢明だろう。」
【五宝鬼】に目を配らせ、今にも飛び出しそうな者達を鎮める。
女性は胸元からペンダントを取り出し、ボタンを押す。
「えぇでは、『やっほー元気にしてるかな?僕だよ、僕!!覚えてないなら仕方が無いけど、忘れるって相当悲しいんだからね!今度から忘れちゃだめだよ?あ、今日の天気は快晴でここの空には雲一つないんだ!動物たちも日向ぼっこしていて気持ちよさそうに眠っているよ!昨日は忙しくて、あまり眠れなかったから今日はぐっすり眠れるといいな!そうだそうだ!眠ると言えば...ん?早く本題に入れって...?それもそうだね!!えぇっと、なんだっけ?あぁ、これか!んーっと、血が混じりあう時茶会が開かれる!だってさ!みんなでお茶会するのかな?楽しみで楽しみで今日眠れなさそうだよ!最近不眠で不眠で苦しいってのに、また眠れなくなっちゃうなんて、僕は働き者だね!!え?何?いちいち話題を逸らすなって?あぁごめんごめん!ついつい話したくなっちゃうんだ!それでね、お茶会の時に招待状を送るからそれを持ってきてね!あと、なんだっけなぁ...。...ん?...あぁ。それそれ!!!名を冠する者は全員集合だってさ!一体何人が集まるか楽しみだね!この部屋が埋まるぐらい?それともこのお城が埋まっちゃうぐらいかな!わぁっ!人がいっぱい来るの楽しみでしょうがないなぁ!え?容量おーばー?そろそろ時間?
あ、えーっと!!僕の招待状忘れないで持ってきてね!この招待を断ったら僕怒っちゃうぞ!なんてね!
じゃ、その時が来たらまた会おう!じゃあね、ばいばい!!!!』、です。」
言葉攻めを受けたかのような、謎の疲れが部屋にいた者達を支配した。
「ワシが嫌がるのも分かるじゃろ?」
「こ、これはなかなかの者だな。」
あまりの衝撃にライムは頭を抱え、王はたじろいでいた。
「あぁ、後我が主より伝え忘れた伝言も預かっております。
魔国王は軟禁に、【五宝鬼】は魔国の政治を務め、ライム様は王になれ、とのことです。
勿論、この伝言は先ほどの抹殺にも含まれますので、従っていただけると余分な事をしなくて済みます。
さて、いかがしますか?」
「【五宝鬼】、我の国を預けよう。
我が解放されるその時まで、各々心に刻み我を支えよ。」
「「「「はっ!!」」」」
「随分と呑み込みが早いんじゃな、ホープ王?」
「《叡者》ホープ・アズ・ヒーロンドとしての選択をしたまでだ。」
「面白い、そう言われてしまえば言い返せまい。」
「ではここにいる方々の合意を得ましたので、我が主にもそのように伝えておきます。
最後に、我が主の友より、皆さまにお伝えしたいことが。」
その言葉にライムを含め部屋にいたものが、ん?とした顔をする。
女性は口角を上げ、喉を鳴らす。
「あ、あぁぁぁああああ。
てめえら、騙されてやんの!
女性?俺は男だぜ!?
《狂人者》アゲイン、【狂人王】は俺の弟、レイティスだ!
ギャハハ!じゃあな。」
突然の宣告に全員が驚愕する。
女性じゃなく男...、《狂人者》アゲインは窓をぶち破り、かなりの高さから落ちていった。
「では、今日この時を持ってワシこそがヒーロンド魔国王、アレフ・ライドーム・ヒーロンドとでも名乗るとするかの?
まずは【五宝鬼】よ、そこの元国王、ホープ・アズ・ヒーロンドを軟禁せよ!」




