【狂人王】
ガクはライムから一本の刀、棘刀スパインを与えられどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「借り物の力故に、通常の半分程度の力しか発揮できないが、十分じゃろぅ。
ガク、ワシに忠義を誓え。
まずはそこの女、ニーナと言ったかのぅ。
ニーナから何かもかも奪い去ってしまえ。」
ライムの指示を受け、ニーナに刀を振るう。
「っ!」
すぐさま顔を上げ身体を捻らし避け、反撃の隙を伺おうとするニーナであったが反撃には至れなかった。
凄まじい力で刀を降りまわす敵は、ヨハネスの顔で悲しそうな表情をしていたのだから。
「卑怯者!」
「...。」
何を言われても動じない、主のために忠義を尽くす男こそ、ガク。
斬撃は段々と早くなっていき、ニーナも避けるのに精一杯で所々出血をしていた。
奥で隕石の対処に当たっていた二人が、素早い動きでこちらに駆け寄ってくる。
「すまない遅くなった!」
「隕石は打ち壊しておきましたぞ!」
全身ボロボロの姿になりながらも、木っ端微塵になった隕石だった物を片付けてきた二人が手を振る。
「ヨハネス!トーカを!!」
「うむ!」
一瞬でニーナの言葉に気付いたヨハネスは顔に手を当て蹲っているトーカを引き離した。
「ほうほう、あの隕石をこうも早く片付けてしまうとはのぅ。
まぁまぁなサイズじゃったんだがなぁ。」
「万策尽きたのでは?」
「っるせえな!」
ガーフォに向かってライムが吠える。
「《ホルトゥス・カキミダス者》が逆にカキミダサれては本末転倒じゃわぃ。
じゃが、ちと序盤から大盤振る舞いしすぎたのは事実。
”駒”を崩すしかないかのぅ?」
ライムが見る先には【狂人王】。
【狂人王】はここに来る前からおぼろげな目つきをしていた。
【狂人王】を見て、”駒”と呼んだという事は...。
「こういうのもまた面白いと思わんかねぇ?
【狂人王】、ニーナを刺せ!」
これまで何が起きようがうんともすんとも言わなかった【狂人王】は、その目に意志を宿した。
ガクとの戦闘中で忙しいニーナのもとに一直線上に走る。
「させませんぞ!」
それに気づいたガーフォが横から【狂人王】を止めようと魔法を放つ。
「きゃはっ!!」
【狂人王】にはとても似つかわしくない声を発し、魔法を正面から受け止める。
まさか直撃するとは思わなかったガーフォは面を喰らっていた。
煙の中から現れた【狂人王】はなおもスピードを落とさずニーナのもとに向かう。
「きゃっきゃっきゃ。」
ニーナが後ろに飛び退いた瞬間、腹部目掛けて手刀が振りかぶさる。
鈍い音をたてながら、横方向にニーナは吹っ飛んで行った。
「よくやったぞ【狂人王】。
ガク、奪ってしまいなさい。」
「ぅううん!」
ガクが両手を広げて【狂人王】を見つめるが、トーカの時とは違いすぐには襲わなかった。
「ガク?」
その様子を見て不審に思ったライムが尋ねた。
「【狂人王】を奪えないのか?」
「...?」
「それとも、既に奪われていた...とでも言うのか?」
「きゃきゃは!?」
「うぁ?」
【狂人王】の手刀はガクの首に当てられていて、ミシミシと音をたて肉を引きちぎっている。
ザシュッと音をたて、ガクの首から上が吹き飛ぶ。
おびただしい量の血を吹き出しながらガクは後ろに倒れ、【狂人王】は血を浴びながら笑い狂う。
「ギャハハ!」
ガクは身体を立て直し、【狂人王】に向けてない顔を向ける。
「ギャハッハッハッハ!」
首の中、真ん中目掛けて手刀が振り下ろされてガクの身体は激しく痙攣する。
血が四方八方に飛び散り、人体から聞こえてはならない鈍音が支配した。
異様な、狂気的な光景にライム含め誰もが手を止める。
やがて、ピクリとも動かなくなりただの物と化した。
ガクだったものはそこら辺に投げ捨てられる。
「きゃっきゃっきゃ!」
第一声の時の声色に戻った【狂人王】は再び目的を、意志を見失かったかのように俯き微動だにしなくなった。
「おいおい、こんな展開聞いてないぜぇ。
”自我有り”なんて言ってなかったじゃろうにぃ。
おかげでワシの戦力大幅ダウンじゃぞ。」
「う、うちの【狂人王】の異常さ、な、舐めるんじゃないわよ!」
いつの間にか回復したニーナがらしくない謎の発言をする。
「さて、ライム殿?
不毛な争い、止めにしていただけますでしょうか?」
「うぐぐ、ワシの【御伽噺】もあまりの衝撃に気を失ってしもうたわぃ。
ワシは何ともないが、二対の刀もメンテナンスが必要になってしまった。
しかたがないのぅ、”ワシ”はもうお手上げじゃ、これでいいかのぅ?」
不本意な結末にライムは呆れて降伏した。
「お、おいトーカ!」
「わ、わたしは...、私の顔!」
「大丈夫だぜ!しっかり付いてるぞ!」
ガクを倒し、トーカは己の顔を取り戻すことが出来た。
その光景にニーナも呼吸を整え、スッと胸を撫で下ろした。
「ライム!言っとくが、あんたの結末については我が主が判断なさる。」
「あいぁい、でかい声で言わんとも分かっとるわぃ。」
「ヨハネス、転移を。」
「あぁ、【狂人王】は問題有りだからここに置いていくぜ、転移!」
眩い光りに包まれる中、【狂人王】は笑みを浮かべていた。




