《息災者》トーカ
どこからともなく地響きが鳴り響く。
この異空間を創り出したであろうヨハネスは、ありえないといった顔をしていた。
次第に揺れは大きくなり、地に足をつけなくなるほどの規模となった。
「な、なぁによ!」
「慌てるな!奴から目を離すな!」
ライムは神妙な顔で辺りを見回す。
「っち、ここでは呼び出せぬのか。
揺れるということは、干渉自体はできているのじゃな。」
「おっと、作戦失敗かなっ!?
でも、ずっと揺れているのは辛いね!」
酷く揺れる中、互いに身動きが取れず膠着状態となった。
「何を呼ぼうとしたのだ...?」
「ヨハネスと言ったかの?
おぬしのこの空間、素晴らしい物じゃの。
”ほしのきんか”と言っても伝わらんじゃろう?」
【五宝鬼】は互いに顔を見合わせるが、皆心当たりのない様子だった。
「ワシのとっておきだったんじゃがな。
でもなぁ、おぬしらもただならぬ者、このぐらいじゃ戦った気ぃしんよなぁ?」
「私達は主の命令を遂行するのみ。」
「トーカの言う通りだ。」
「あっしは少し楽しんでるけどー?」
「冗談はよせ、ニーナ。」
「えっへへぇ~。」
場が和む、そのような空気を感じた。
が、感じたのは一瞬。
「なぁ、ワシさぁ、ホルトゥスの民と言ったじゃのぉう?
この言葉の意味、分からぬのかぁ?」
「知っている。
ホルトゥスの民とは、大昔ホルトゥス大国がこの世を支配していた。
そこの出身の者ということだ。
ただ、それだけ。
とっくに滅んだ、滅んだ理由は分からず。
生き残りは貴重。」
「辛辣じゃの。
理由を教えてやろうか、トーカ?」
ライムの顔が真剣になる。
「世界に抗った、それだけじゃ。
ワシはホルトゥス大国、元王じゃ。
ワシの通名は”カキミダス者”。
この名を知る者はホルトゥスの民以外はいない。
ワシが直々に手を下したからじゃ。
この空間にワシを閉じ込めたと思っているのじゃろ?
ワシは理不尽が好きなんじゃよ、老いぼれの手のひらで溺れてくれぬか?
《ホルトゥス・カキミダス者》」
ライムの身からこれまで以上にないほどの濃密な殺気があふれ出てくる。
今までのが遊びだったかのような、まるで手加減をしていたかのように。
その殺気はどす黒い靄を漂わせ、ライムの手には名刀ダグラスと棘刀スパインが握られていた。
目を闇に沈ませ、殺意に身を任せ、感情を捨てた”化け者”として目の前に立ちふさがる獲物を捕らえていた。
二つの刀はそれに呼応するかのように刀身を輝かせ、血を欲していた。
「これは、本気でということ。」
「トーカの言う通り、これはガチだ。」
「各々手加減止め!」
ライムの異常な様子を感じ取った【五宝鬼】も真剣になる。
「ほれ、受けてみぃや?」
ライムの口からその言葉が発せられたと同時に再び揺れが走る。
今度の揺れは今までより小さく、どこか拍子抜けしていた。
「上だ!気をつけろ!」
「ヨハネス!今度から天井を設定しておくことを推奨しますぞ!」
ガーフォの落ち着いた佇まいを切り崩したその正体は、今にも【五宝鬼】目掛けて墜落しようとしている隕石だった。
どこからともなく出現した巨大な隕石は、徐々に加速している。
いち早く気付いたヨハネスとガーフォが無数の魔法と斬撃で隕石に対応していた。
「【御伽噺・シンデレラ】」
ライムの背後から突如数羽の鳥が羽ばたく。
身を黒に、目を赤に染めた鳥は空高く飛び上がる。
空中で鳥達は膨張していき、破裂した。
中から現れたのは一体の頭部が無い人の形をした何か。
頭は無いのに、呻くような声が聞こえてくる。
「よこせ...、よこ...せ......。」
両手を前に突き出し、震える足で地を蹴る。
おぼついた足取りでトーカに向かって襲い掛かる。
「《息災者》トーカが告げる。
かの異形に救済を。」
祈るように願うその言葉は、異形には通用しなかった。
その様子にトーカは酷く動揺する。
「な、なぜ私の言葉が!」
「こせ...よこせ...。」
「《息災者》トーカが告げる!
この化け者に、神聖な息吹を!」
己を象徴する名が、絶対的な力が、呼応しない。
他の者達もその現象に眉を顰めていた。
「く、来るな!
私に近寄るな!
浄化せよ!!!」
悲痛な叫びだけが響く。
慌ててニーナがトーカのもとに駆け寄る。
先が潰された短刀を異形に向かって振るう。
「あれ!?反応しないっ!」
短刀は異形の肩に当たったが、削れるような様子もなくただただ当たっただけだった。
ニーナの攻撃に目もくれず、トーカを求める。
ニーナは止まることのない異形からトーカを引き離すことに変え、ヨハネスを引っ張る。
「ど、どうしてっ!!」
トーカは何かに取りつかれたかのように、その異形を見つめ動かない。
そうしてるうちにトーカのもとに異形が辿り着く。
他の者に助けを求めようとするが隕石の対処をしている二人は厳しかった。
ダメもとでこの空間に転移してから微動だにしていない【狂人王】を見るが反応が無い。
「...よこせぇ...、よぉこせぇ......!」
異形の手はトーカに向かい手を伸ばし、首に手をかける。
左手で首を握り、右手を上昇させる。
「駄目!逃げて、トーカ!!」
ニーナの悲痛な叫びはトーカの耳をすり抜ける。
「くれよ...、その綺麗な目ぇ......。」
「イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!イヤダ!イイヨ!」
身体をガクガク震わせながら早口で拒絶と承諾の言葉を口にする。
どんなに身体を揺らしても力強く掴まれた異形の左手はびくともしない。
異形の右手はトーカの眼球の前で止まる。
「それじゃぁ...、貰うねぇ...。」
左手が強く握りこまれ、口からは嗚咽だけが出る。
トーカの身体が軽々しく横に吹き飛び、血しぶきが飛び散る。
異形の右手は膨らみ、何かを握っていた。
それを平らな、人間で言う首の中心に持っていき、己の身体の中に埋める。
ボコボコと形容し難い音をたてながら骨が、肉が、皮膚が形成されていく。
皮膚から髪が、眉が、産毛が生える。
下をうつ向いていたその顔を上げると、トーカの顔があった。
身体は相変わらずどす黒く、首の皮膚の色との境界線が出来ていた。
目を開くと、己の顔をペタペタと触りニーナの方を見て、口を開く。
「《息災者》トーカぁああぁあ?
ニィイナーぁあ、わらぃだぉよ?」
身体をわなわなと震わせ必死に目の前のソレを理解しようとも脳が拒む。
ニーナはそんな様子だった。
「そいつはなぁ、ガク。
ホルトゥス大国の鍛冶職人だった男だ。
ある日、武器を他国に受け渡し金銭及びこの国を破滅させようとした罪で目を抉られた。
だがこの罪自体、他国の卑劣な罠じゃったんじゃ。
ガクは必死に弁明したが当時の王は、ホルトゥスを良く思っていなかった。
ホルトゥスの民の遠い血筋であったガクは、ありもしない罪をかぶせられた可哀想な者。
目を失い、信じる者を、世界を視ることができなくなったガクは皮肉なことに名を授かった。
《簒奪者》ガク・ホルトゥス。
《息災者》には分かるまい、我らの苦痛が。」
言葉を吐き捨てる様にライムは言った。
「ガクの心は閉ざされ、何も視ることのできなくなったガクは唯一の友であった者を頼った。
だがその友人までもが他国のよって差し向けられた敵であることを知り、廃人となった。
ガクには欠けてしまったものが多すぎる。
ソレを知らぬままガクは彷徨い、多く持ってる者から奪うのじゃ。」
「トーカ以外にもあっしがいたじゃにゃいか!」
「ガクは一度決めた者は最後まで狙い続ける習性があるんじゃ。
奪い取った後は我がものにして次の獲物を品定めする。
おぬし、今こう思ったじゃろ?
次はあっしか、他の者、あるいはワシも狙われるんじゃないかと。
ワシと言うか、ホルトゥスの民は例外なんじゃよ。
何があっても破ることのできない一種の呪いと言うかのぉ、目に見えない何かでつながっておるんじゃ。
つまりホルトゥスの民同士では争えない、めんどくさい面もあるんじゃがな。
まぁ、何事にも例外はいるんじゃけどなぁ。
まぁ何が言いたいかと言うと、ワシ慈悲の心とか無いっちゅうことじゃ。
【御伽噺・忠臣ヨハネス】」
ヨハネスとトーカがごっちゃになってました!
修正済みです!
すみません m(_ _)m




