【五宝鬼】
飛んだ先には顔を隠した女性が立っていた。
「お待ちしておりました。
《大賢者》アレフ・ライドーム様ですね?」
「んぁ?そうじゃ、そうじゃぁ。
ワシがそのアレフ・ライドーム様ご本人じゃぞぉ?」
顔を真っ赤にして、どこかフラフラとした足取りでライムが答える。
「こちらの部屋を出て右手の部屋にてご主人様とご客人二名がお待ちしております。」
「うむ、ご苦労!......なんちってな!ガハハ!!」
まだたっぷりと入っている酒瓶をその辺の棚に置き、大股で案内された部屋に向かう。
「ご主人様。」
「入れ。」
重々しい声が聞こえてくる。
「では、私はこちらで失礼します。」
「この話が終わったら、ワシと飲み行かんか?」
「まだ仕事が残っておりますので、失礼します。」
「真正面から断れてしまったわい。」
扉が開かれ、中へ入ると四隅には剣を携帯した騎士が配置されており真ん中の椅子にマルガスとハーヴァーが座っていた。
「おうおう、おぬしらぁちゃっぁんと、伝えたかのぅ?」
「師匠!どうして酔っぱらって...。」
「よいよい、我が許そう。」
と、口を開いた男こそがヒーロンド魔国王、ホープ・アズ・ヒーロンド本人だった。
「これはこれは、世界中でも有名な《叡者》ホープ王ではないですかぁ?」
「その名をあまり言うではない。
必要な時に必要なだけ使う、我の真髄ぞ?」
「失敬失敬!
して、マルガスとハーヴァーから事情は聞いたかのぅ?」
「勿論、未知の相手に敗走したとな。」
その言葉を聞きライムは眉を顰めた。
「我はこの魔国が安泰であることを第一に願い、常々行動をしている。
此度の”厄災”とでも言おうか。
その厄災の手を退けてくれたこと、魔国王として、一人のホープ・アズ・ヒーロンドとして感謝を述べる。
よってそなたらには、褒美を与えよう。
何を望む?」
その言葉はマルガスとハーヴァーを差し置いて、ライム一人に向けられた。
「マルガス、ハーヴァーよ。
ハーロットは知らんけど無事じゃ。
だが、天界にて己を鍛えるそうじゃぞ?
次の厄災が訪れたその時にハーロットは姿を見せると、言っていたそうじゃ。」
「ハーロット...。」
マルガスがハーヴァーの肩に手を置き、落ち込むハーヴァーをさすった。
「ワシはそうじゃな、老い先短い者として考えてみたのじゃ。
その玉座、ワシに譲ってもらえるかの?」
剣を抜く音が聞こえると同時に、ライムは一瞬で包囲された。
「よせ、我の前だぞ?」
「失礼な言葉が耳にお入りしたもので。」
「我は良い。」
「はっ!」
「我の騎士が失礼したな。
して、我をこの魔国王から引きずり下ろしたいと、そう願うのか?」
「王さんよぉ、いちいち言葉がきついぜぇ。
ちと、数十年単位で貸してほしいだけじゃ。
無論、王さんの国民を思う情熱やらを無下にはしないと約束しようぞ。
その間、王さんにはわりぃがワシの従者になってほしいなぁ?」
先ほど部屋に置いてきたであろう酒瓶を手に握り、魔国王に向ける。
「我を、我の城を陥落させる気か?
《大賢者》を名乗る賢明な者だと思っていたが、違ったようだな?」
「し、師匠!?」
「な、何を!」
「うるさいぞ、おぬしら。
ワシだって色々自由にやりたい時だってあるんだ。
束縛するではない!」
唐突な急展開に驚きを隠せないがそれよりも驚いたのが、ライムの行動だ。
「ワシの邪魔するっつうなら、こうするぞ?
【回帰・恐怖心】」
「ハーヴァー避けろ!!」
マルガスの悲痛な叫びが部屋に響く。
が、時すでに遅し。
ハーヴァーは頭を抱える様にしてうずくまった。
呻き、苦しみ、痛み、辛み、形容し難い何かがハーヴァーを襲う。
「ほぉれ、言わんこっちゃない。」
「師匠!ハーヴァーに一体何を!」
「んぁ?ハーロットがおぬしらを逃がした記憶を無限ループさせてるんじゃ。
抜けれないループで溺れてしまえ。
お前も、こうなりたいかの?」
狂気に満ちた真っすぐな目でマルガスの心を砕いた。
「ハッハッハ、やっぱり最初っからこうしておけば良かったわぃ!
あのクソ野郎に子供の子守を任されたときは心底腹が立った!
ワシには向いておらぬと言うのに!
あぁ思い出しただけでもむしゃくしゃするわっ!」
ゴクゴクと浴びる様に酒を飲む。
「見たところ、貴様の弟子と見られる者にも手を出しているな。
その者たちを保護せよ!」
「もう、ワシの子ではないから、好きにせぇや!」
傍から見ると癇癪もちの厄介老害にしか見えない、ライムを見つめる。
その隙に騎士たちがマルガスとハーヴァーを抱え部屋から去っていく。
「王さんが、ワシと一騎打ちするのかぁ?」
「残念だが、我とてそう武術には長けておらぬのだ。
だが我には優れた配下が居る、貴様と違ってな。
来たれ我が配下!《叡者》ホープ・アズ・ヒーロンドが問う!
【五宝鬼】ここへ集え!」
「「「「「はっ!」」」」」
転移魔法で飛んできた者達は、膝を付き主である魔国王に頭を垂れる。
「ぬぅ?どこかで見たことある顔じゃなぁ......、どこだったかのぅ?」
「我と同じく世界中で名を轟かせている優秀な配下だ。
【戦慄王】ガーフォ・アロノルドの名に聞き覚えは?」
「あぁ、おぬしら、この王さんの配下じゃったのか!?
数年前に世話になったのぅ!」
「ここに他の者も呼ばれたというのなら、貴方が我が主の敵でございますな?」
「そうじゃ!そうじゃぁ、ガーフォ・アロノルドッ!!
貴様!あの時横取りしやがったなクソが!!」
持っていた空き瓶を壁に向かって投げ、爆音とともに壁にヒビが入る。
「相変わらずの急変様、お弟子さん方も大変でございましただろうに。」
「ガーフォ?ライムを知っておるのか?」
「はい、我が主。
数年前に冒険者達と仲良く旅をしていた際に仲間として共に強敵を倒しました。」
「ふざけるな!あそこでお前が横取りしたからワシの獲物を奪われたんじゃ!」
「横取りとは、酷い良いようですな。
私の異名にライム殿が勝手に喰らった、ただそれだけでは?」
「ぐぬぬぬぬっ!」
「あっしらの役目は?」
綺麗な優しい声が黒い集団から聞こえてくる。
「素晴らしいぞ、チヌ。
【五宝鬼】が全員そろっているという事はそういう事だ。
魔国未曽有の危機を救ったこの男は、魔国を狙う、我を狙う怪物へと変化を遂げた。
狙うはこの男の首、願うは我らの明日。
【戦慄王】、【輝針王】、【十冠王】、【狂人王】、《息災者》よ、
《大賢者》及び多数の名を冠する者をうち滅ぼせ!」
「こりゃぁ、ちとワシだけじゃきついかの...?」
「【十冠王】ヨハネス・ダーフが扱う、転移!」
黒い煙が部屋を満たし、徐々に霧散していく。
「こりゃ見事じゃの!?
ここまでの転移魔法を操る者なぞ、見たことがないぞぉ?」
周りを見回しても端と言う端が見えない、おぞましい空間へと移り変わっていた。
「連戦はこの老体にはきついんじゃが、殺らなきゃ殺られるだけかのぅ!」
ライム対【五宝鬼】という圧倒的不利な状況にも関わらず、ライムは笑みを浮かべていた。
「ここでは、何をしても壊れない。
暴れ放題ってこと。」
「ほぅ、つまり逆に言えば何をしてもいいっつぅことだよなぁ?」
「来るぞ、各々構えろ。」
「久しぶりに全力を出してみるかの?
ワシに流れるのはホルトゥスの血、
《超越者》アレフ・ライドームが扱う真の太刀、棘刀スパインと共に参るぞぃ?」
「来るぞ!構えろ!!!!」
五人はそれぞれが誇る最強の守りの構えを取る。
ライムから凄まじい気を感じ取り、目に見えるはずのない魔力が気化し、異様な気配を漂わせていた。
「棘刀スパイン解放!
神器、【御伽噺・茨の王】!」
刀を鞘から抜くとともに無数の茨が湧き出てくる。
無限に広がる空間を覆いかぶさろうと植え付けられた種から何十、何百、何全の植物が生きているかのように意思を持っていた。
「あっしが右から、戦ちゃんは左を!」
「承った!《息災者》は準備を!
ヨハネスは連続転移を、ニーナは適当に!」
”厄災”と化したライムに【五宝鬼】が襲い掛かる。
「【御伽噺・裸の王】」
解き放たれた力は薄い透明なヴェールとなってライムを包み込む。
「【絶技・棘王】」
うごめいていた茨は洗練された動きで五人の足元にとびかかる。
「《息災者》!」
「《息災者》トーカが告げる。
全域に祝福を。」
「なにっ!?」
ライムが驚くのも無理はない。
なぜならば、意思を持った茨はトーカを中心に力を失い、塵と化していくのだから。
他の茨にも感染させないよう、ライムは慌てて断ち切るが、断ち切った断面から塵と化していく。
「私の祝福には何人たりとも拒ませない。」
「つまり、ワシと相性最悪というわけじゃな?」
「トーカばかり気にしていていいのかい?
ニーナの相手をしてよ?【絶技・模倣の仮面】」
「《断罪者》...えぇい、略式じゃ!ライムが望む、トーカを切れ!」
淀んだ天から、巨大な透明な大剣がトーカ目掛けて振り下ろされる。
避ける間もなく、トーカに直撃した。
「トーカ!!」
「へっ、これで一人...!?」
直撃したと思われるトーカは、直立にして微動だにしていなかった。
片手で大剣を掴み、力を込めて割っていた。
「おぬしには、罪が無いのか!?」
「生まれてこの方、私は潔白の身である。」
これには俺も驚かされた。
ライムの持つ《断罪者》という名は、その身に宿る些細な罪でさえも何万倍にして制裁を下すという、
とんでもなく恐ろしい物だというのに、トーカと言う者はそれを受けて立っている。
つまり、彼が言う様にまっさらなんだろう。
コレを受けて立っている者を見るのは初めての事であり、流石に驚愕した。
「ぐ!?」
口からガバッと血をぶちまけたライムは何が起きたのか分からないという様子だった。
横には棘刀を手のひらで押し当てて横腹を刺しているニーナの姿があった。
「な、なぜその刀を、おぬしが!?」
「余所見厳禁!ニーナの技を目をかっぽじてとくとご覧あれ!
【絶技・過去の異物】」
「馬鹿な!?ゴフッ!!??」
ニーナの身体二倍ぐらいの大きさの大きな槌で横から叩かれたライムは棘刀がより深く突き刺さり、
身体をくの字にして横に吹っ飛んで行った。
「おぉー!よく吹っ飛びましたなぁ!!
ホールインワンってやつですかぁっ!?」
「転移。」
ヨハネスがそう口ずさむと、くの字にして吹っ飛んで行ったライムが壁に当たり逆くの字になって落ちてきた。
「やっぱ、あたしとヨっちゃんの技、相性良いね!!」
「ですな。」
ピクピクと身体を痙攣させながら、巨大な血だまりを作るライムは次の一手を打とうと手を動かしていた。
「《来訪者》、ライムのペットここへ来たれ...。」




