ヒーロンド魔国
俺達が今通ってる道はおよそ数十年前ほどにこのあたりの住人と魔国が協力させて完成させた通り道らしい。
採掘には数年単位でかかり、硬い地盤をくりぬき、周りを固めながら作業をしたそうだ。
今ではそのおかげで、安全に長いトンネルを通ることが出来ている。
等間隔に炎で満たされたランタンのような物が置かれ道を照らしている。
魔物にも襲われる心配も無いし、雪解け水なのかたまに天井から水滴が垂れてきてトンネル内の気温湿度を保っていて、その構造に思わず感心した。
普通の人なら途中に設置してあるベンチや休憩所で休んでいくのであろうが、あいにく俺達は休みを感じないので休まず進み続けた。
何回か、うねうねとトンネル内を曲がり道なりに沿って歩くこと数日間、カーブを曲がったところで光が見えた。
ここが出口だろう。
長いトンネルを抜け眩しい光を耐えながら外に出ると、辺り一面赤や黄色の葉山で囲まれたヒーロンド魔国が見えた。
「おぉ!これは素晴らしい景色だなぁ。」
「はい、こちらがメギア地方ヒーロンド魔国でございます。
どうやら今は紅葉の季節らしいですな、ロンバーギが大雪だったのでてっきり真冬かと思いましたな。」
若干涼しい柔らかな風が吹き、葉がかすむような音と共に複数の枯れはが飛び交う。
「ここを真っすぐ下り、早速魔国にはいりましょうか。」
「そういや、ハデスさんが言ってたゲートはどこにあるのですか?」
「あぁ、ゲートは魔学園の実験室に置いてあったかと思います。」
「魔学園というと、ガキ共の...。」
「まぁ、そうですな。
私のことは後で構いませぬので、グレイス様の要件を優先してくださいな。」
「何から何まですまんな、じゃあ行くとするか。」
紅葉で綺麗な色に染まる樹々を抜け、魔国に到着すると検問所で受け取った証を提示した。
すんなり入ることが出来、無事に魔国へと入国することが出来た。
「エディ、魔国に着いたぞ...?」
エディからの反応はない。
「グレイス様、私はこのミニューをそこに預けてきますな。」
あぁ、すっかり忘れてた。
ハデスさんはどこからともなく、ミニューを引っ張り出し、衛兵に預けていた。
トレッド街とは大きく異なり、露店の数、賑わい、人の数など流石大国と言ったような感じだった。
観光案内版に描かれていた地図を頼りに魔国内を大きく分類すると、出入り口から真っすぐに見えるのがヒーロンド魔国城、出入り口の左手が魔学園、右側が城下町と言った感じだ。
城へと続く道には多くの露店が並び人でごった返している。
検問所前で見たガキ共の制服を着ている人達も見かける。
幅広い種族を受け入れているのか、種族で偏りが無いように見える。
道の真ん中には英雄を称える像なんかもあって、観光地としても人気らしい。
魔国に来て何かしたいわけでも無かったので、とりあえずその像とやらの場所に向かってみた。
城へと続く道のど真ん中に3体の石像が鎮座していた。
左から、白龍族マルガス、聖耳族ハーロット、魔小族ハーヴァー。
ん?マルガス、ハーロット、ハーヴァー?
「あぁ、あいつらか。」
「おや、グレイス様お知り合いでございますか?」
「旧友だ。
と言ってもそんなに面識は無いけどな。
どっちかと言うとこいつらの師のライムに用があるんだ。」
思い出しながら口ずさむと足元で子供が睨んできた。
「ん?なんだガキ。」
「今、ライム様のこと呼び捨てにしたな!
ライム様はすごいんだぞ!英雄様だぞ!」
と、ポコポコ足を叩いてきた。
なんだ、なんだと周りに人が集まってきて俺がライムを呼び捨てにしたことが広まっていった。
「ライム様はこの国を守ってくださったんだぞ!尊敬してるんだぞ!」
「まぁまぁ、悪かったって。
ラ、ライム...様......ね。」
渋々様付けで言ったら、子供は満足したのか泣きやみ、周りの人も落ち着いた。
「ハデスさん、ライム...様ってそんな偉くなったのか?」
「グレイス様、こちらへ。」
像と少し離れた小道に来た。
「グレイス様、この魔国でライム殿の敬称を省くのは大罪でございます。
グレイス様が隠居なさってた頃、この土地で戦争がおきましてその戦争を鎮め魔国を勝利へと導いた方がライム殿なのです。」
「へぇ~、あのじじいがそんなことをしてたのか。
つぅか、まだ生きてんのか。」
周りに聞こえない程度の小声で言った。
「はい、ライム殿は現在魔国の英雄ということで王となっております。」
「お、王...。」
「しかし、年齢的にも政治関連にはどうもきついようでして、現在は継承を考えており、この国の王になるべく継承争いが勃発しております。
ライム殿が未だ王の座についておりますが、いつ代わるのかはライム殿を含め王族のみが知ることとなります。」
「なんでハデスさんはそんな詳しいんだ?」
「私は、しばらくの間エディ様に呼ばれることもなく、仕事も大して苦ではなかったので趣味で情報集めをしてた際に、いろいろ知りました。」
「ハデスさんなら、この国落とせそうだけどな...。」
「御冗談はほどほどに...。
して、グレイス様はどのようにしてライム殿にお会いするのでしょうか?」
「え?そのまま城に直行して会いに来たってのはだめなのか?」
「門前払いされるのがオチでしょうな。
なにせライム殿は王ですからなぁ、それなりの理由が無ければお会いできませぬと思いますぞ。」
うーむ、困ったなぁ。
あまり長居はしたくないしなぁ。
「手っ取り早いのは冒険者になって知名度を上げ王に謁見するというのが一番だと思いますぞ。」
「冒険者ねぇ...、あっ、そういえば俺昔冒険者やってたな。」
腰に付けていた袋の中を漁り、一枚の煤汚れた金属プレートを取り出した。
「これでいいか?」
「うーむ、今主流の冒険者プレートとは形が違いますなぁ。
こういうのは冒険者ギルドで聞くのが一番ですな。
まずはギルドに行きましょうか。」
ということでギルドへと向かう。
大きな扉を開け、食べ物や酒の匂いが充満された空気が漂ってくる。
何人かに見られた気がするが無視して、受付と書かれた看板の下に行く。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。
本日はどのようなご用件で?」
「冒険者登録をしたいんだが、昔登録したこれはもう無効か?」
さっきのプレートを見せてみた。
「んー?見たことが無いですねぇ、どちらの街で発行されましたか?」
「えぇっと...、確かアリシュの街だったか......な?」
「アリシュ、聞いたことが無い街名ですね。
念のためギルド長に伺ってきますので少しお待ちしていただけませんか?」
そんなたいした物でもないのでプレートを預け、椅子に座った。
「おいおい!どこの誰だこれを持ってきたのは!!」
奥からバカでかい声が聞こえてくる。
それと同時に足音も近づいてくる。
「こちらの方です...。」
「あん!?おまえは...!?」
「おぉ、白龍族のマルガスかぁ。
随分大きくなったもんだなぁ...。」
こちらを見るなり両膝をついて顔面をぐしゃぐしゃにしながらこちらに抱き着いてきた。
「おいおい、俺はこんな年老いた旧友に抱き着かれる趣味はねぇぞ、マルガス。」
「どこ行ってたんだ...、グレイス......。」
凄まじい力で抱き着いてくるので身体からミシミシと骨が折れる音が聞こえてきた。
「苦しいぞ、マルガス。
ここじゃ人目が多すぎる、どこか落ち着ける部屋を案内してくれ。」
「あ、あぁ、悪かったな...。
おい!お前ら、俺が泣いたこと口外するなよ!!
全部奢ってやるから口外禁止だ!!」
ギルド内で大きな歓声が響き渡った。
「客人を通すような部屋じゃないが俺の部屋に来てくれぇ...。」
「ギルド長こちらの方は...。」
「俺の、旧い旧い、知り合いだ...。」




