検問所
ハデスさんの案内もあって、順調に検問所付近に辿り着くことができた。
しばらく歩いてたうちに気温はぐっと下がり、息を吐くと白くなるぐらいまで寒くなっていた。
「この森を抜けますと、ザハール検問所が見えてくるはずです。
足元ご注意ください、グレイス様。」
ハデスさんはこのさり気ない気遣いをしてくれる所がとても親切な執事だ。
エディには勿体ない執事だなぁ、と思いつつ早速木の枝で転びかけたのは内緒にしておこう。
「おぉ、結構人がいますねぇ...、ん?なんか多くね。」
結構なというかなんか検問所前で大勢の子供?がたむろっていた。
「む?確かに、なんだか子供が多いように見えますなぁ。」
近くにあった看板にはこの先ザハール検問所と書かれており、とりあえず検問所には着くことが出来た。
「これは、何かあったのですか?」
椅子に座っていた獣族の冒険者らしき人物に話しかけてみた。
「んぁ?あぁ、遠足か何だか知らんが、ヒーロンド魔学園の生徒達がこの山脈を越えたいとか言い始めたらしくな。
この季節で、この山だ。
危ないからやめてくれよな、全く。」
「あんな大勢で山登りしたいとか言ってんのか...。」
「魔物に食われて、死ぬ未来しか見えないのだがな。」
「もしかして、こいつらが邪魔で検問所が使えない...とか?」
「あぁ、その通りだ。
こいつらが先に居たんだが、かれこれこの寒い中3時間は足止めをくらっているんだ。
勘弁してくれよ。」
男はがっかりした様子で下を向いてしまった。
「ハデスさん、どう思いますか?」
「こちらの方が言う通り、今の季節、気温でこの山を登るには不死身族じゃなきゃ厳しいでしょうなぁ。」
ちらりと山の頂上を見てみると、猛吹雪が吹き荒れ、視界不良どころか何も見えないほどの状態だった。
同時に生徒達の方もちらっと見てみると、相当揉めているのか喧嘩声が聞こえてきた。
「何が悪いんだ!退屈なんだよ、冒険しようぜ!」
「リーダーがこの状態なのがなぁ。」
「確かに、今までの授業じゃ冒険らしくなく物足りなかったけどさぁ。」
「でも、この山はやめた方がいいわ!毎月死者がでてるのよ!」
「うるせぇ!ごちゃごちゃ言ってないではよ、決めろ!寒いんだよ!」
「お家帰りたいよぉ......。」
などど、様々だった。
なんというか、呆れるな。
このまま呆れていても検問所が通れないのはまずい。
山を登るか、こいつらを無理やり引き離すかの二択になってしまう。
「ちなみに、ハデスさん。
俺なら山登れると思うか?」
「どうでしょうなぁ...。
グレイス様なら可能なことは可能でしょうが、山を直線距離で移動したとしても3年はかかってしまいます。
そこの検問所を抜け、道なりに進むと5日程度で魔国に到着するでしょう。」
「ひっでえ魔境という訳か...。」
いっそ、この山を消滅させてもいいが魔国はこの山のおかげで気候やら災害やらから護れているらしいので、消滅させてしまうのはちょっと気が引けるな。
となると、生徒達をどうにかするしかないか。
「なぁ、あのガキ共に先生とかそういうのはいないのか?」
「いるんじゃないか?
流石に検問所は成人の許可証が無いと通れないわけだし。」
辺りを見回していると、木の陰でどんよりとしたオーラを放っているローブの男がいた。
その男に近寄ってみる。
「なぁ、あんたこのガキ共の保護者か?」
「えぇ、まぁはい、一応は。」
疲れ切った声が返ってきた。
「俺ら子の検問所を抜けて早く魔国に行きたいのだが、こいつらの指導はどうなってるんだ?」
「私の手には負えません。
この件が片付いたら魔学園を辞任させていただこうかと...。」
顔をあげた男の頬は痩せこけ、目の下には酷い隈が、目は虚ろだし思わずギョッとしてしまった。
「私だって、好きでこの子達の面倒を見てるわけではないのです。
前任の教師が辞め、運悪く私にまわってきたのが来たのが運の尽きでした。」
「そこまで言うのか...。」
「そこまで!?言いつけは護らない!宿は壊す!弁償は私!?
魔法は好き勝手場所問わず使うし、街では弁償、謝罪の繰り返し。
教師でなければ今ごろこの手で!殺してしまっていたかもしれませぬ!!!」
開けてはならない箱を開けてしまった時みたいに、今までの鬱憤が解き放たれた。
「貴方には分からないでしょうねぇ!?
魔学園の教師として給料はそこそこもらっているはずなのに、湯水の如くなくなっていく私の財布!
精神的にも身体的にも!!!あぁ...........。」
途中で天を仰ぎながら泣いてしまった。
一方、大人の事情も知らないガキ共は我慢の限界が近づいてきたのか、魔法まで飛び交っていた。
検問所の門番兵も中へ避難してるし、さっきの獣族の男もさっさと逃げていた。
ガキの喧嘩にしては可愛くない魔法が宙を舞う。
何人かは負傷したり、魔力切れを起こしていたりと段々収集が付かなくなってきてしまった。
突然、山の方で魔物の気配がした。
魔力のぶつかり合いを察知したのか複数の魔物が近づいてくる気配がする。
「ハデスさん。」
「はい、これはちとまずいですな。
恐らく気配的に、魔石獣アゼオス、紅魔龍ジャックの二体かと思われますな。」
「どっちも聞いたことが無いんだが、どのくらいの強さだ?」
「アゼオスは鳥型の魔物でジャックは地を這う土竜、両方とも人間界でいう超級冒険者に相当するでしょうな。」
「超級がどの程度かは知らんけど、少なくともこのガキには到底敵わないレベルか。」
「山に入りたてで遭遇する魔物ですが、グレイス様なら余裕でしょう。」
ガキ共はまだ争ってるし、負傷者も増えている。
恐らくこの状況に気付いているのは俺とハデスさんのみ。
まぁガキ共を助ける筋合いもないし、俺らは検問所が通れれば何でもいいのだがな。
「GYAAAAA!!!」
「うわっ!」
とか思ってたら、かなり近くまで来ていたようでガキ一人が襲われた。
「なんだ!?」
「ま、魔物!!」
「きゃああぁぁぁ!!!」
検問所前は地獄と化した。
樹陰で見守っていた所、空から急速に近づいてくる気配を感じた。
そいつは凄まじい勢いで落下し、ジャックの巨体を貫き衝撃波が飛んできた。
「我は守護神、アテナ。
魔国の条約に基づき汝らを助けに参った。」
まぁた、神様ですかぁ。
左手に大きな盾、右手に細く鋭い槍、翡翠色の服装。
「魔国に害する、民に危険を及ぼす害獣よ、我の名において滅却してみせようぞ!」
アゼオスがアテナに襲い掛かるが、その前にアゼオスの額には穴が開きとびかかったまま絶命をし転がっていった。
「民よ!無事であるか?」
「アテナ様!助けてくださりありがとうございます!」
「負傷者は...いや、まとめてそなた達を魔国へと送ろう。」
そう言うとガキ共を集めアテナの背に大きな羽が現れ包み込んだ。
「そこのお前たち、顔は覚えたぞ。」
去り際に俺たちの方を見て言われた。
アテナの身体が白く光り出し、次の瞬間には光の粒子となって消えていた。
「奴は守護神ですので、魔国に対し攻撃をしなければ我々には危害は加えられないはずです。
邪魔者もいなくなりましたので、検問所を通りましょう。」
検問所の人を呼び、衰弱しきった教師を預け、手続きを済ませ通り抜けた。
にしてもあのハデスさんが、少し顔を悪くさせていたなぁ。
アテナっていう神とうちのエディと昔なにかあったのだろうか。
まぁ俺には関係ないな、と思い魔国領へと足を運んだ。




