天使達
俺の問いかけに天使達は顔を見合わせる。
すると、カマエルが口を開いた。
「こたびの責任は私が全うする。
この戦は私が使命を受け、私が実行に移した。
ただ、ミカエル様、ルヒエルには"協力"をしてもらっただけだ。」
覚悟を決め目だ。
揺るぎない真っすぐな視線が俺に向けられた。
「そ、そんな...。」
横にいたミカエルがうなだれていた。
「め、女神ヘカテ・エノディア様。
レ、レミエルをお返しいただけないでしょうか...。」
隣で虚ろな目で横たわっているレミエルを見ながらカマエルは尋ねた。
それに対しエディは困った様子で俺の方を見てきた。
「ん?なんだ?」
「いや...、えっとねぇ。」
こちらに近づいてきて耳のそばで話し始めてきた。
「レミエルっていうそこの天使の魂をハデスが持ち帰っちゃったじゃない?
その時点で魂の形が崩壊してて、うまく戻せるか分からないのよ。」
「神なんだからなんとかしろよ。」
「流石に崩れた魂の修復は手を貸し過ぎかなぁ...って。」
「それもそうか。」
俺達がコソコソと話し合っている様子を見ていたカマエルがこちらに歩いてきた。
「わ、私の意思は固いです。
ここにいる天使達は私の命令に従います。
自決しろ、と言われても従います。」
よし、考えが決まった。
「俺の提案に対し、よく名乗り出てくれた。
たいてい、この選択肢を提示するとどちらかに罪を擦り付け、それはそれは醜い争いが始まるんだ。
だが、カマエルお前はこの一連の事態の首謀者と自ら名乗り上げ、この天使達の行く末、後始末までもを提示した。
そこでだ、ここまで潔いのは久しぶりで、今回は大目に見てやろうと思う。
エディもそれでいいな?」
「私はグレイス、貴方の言うとおりにするわ。」
「まぁ、俺達もここの住人を見殺しにしてから出たからなぁ。」
頭を搔きながら周りを見回す。
「【鎖縄】」
「えっ。」
カマエルに手足を拘束する鎖を取り付けた。
カマエルは手足の自由が利かなくなりすっころんだ。
「エディ、掃除を頼む。」
「はいはい、いつも通りね。」
「あぁ。」
何が何だかという表情をしているカマエルを横に、穢れに満ちた大地を踏みしめる。
「我が名は冥神、この地に住み着く無数の魂よ、郷土に返そう。」
エディが両手をそれに向けると、この街の外側が薄青く光りなんともいえない色をした魂が浮き上がってきた。
最初はひょこひょこと少なかったが、次第に数が増えていき宙に舞っていく。
「いただきます。」
膨大な量の魂がエディに向かって一斉に飛んでいく。
魂はエディの身体の中に全て入っていき、やがて全ての魂を吸収した。
「うん、まぁまぁね。」
「じゃぁ、こっちも進めるか。」
俺はカマエルではなくミカエルに近寄る。
「ミカエル、俺は二度聞くのが嫌いだ。
それを踏まえて問おう。
どの神がこれを命令した?」
ミカエルは一瞬、はぁ?とでも言いたそうな顔をしたがすぐに血相を変え真面目な顔になった。
我ながら、理不尽な質問をしてい。
さきほどカマエルが使命を受けたと言っていた。
つまりカマエル以外誰から使命を受けたのかは不明なはずだ。
「お、恐らく...、ここ最近神界で噂になっていたアポピス様...だと思います。」
カマエルの方を見る。
驚いた顔をしていた。
「ミカエル、お前は賭けに勝ったようだな。」
「アポピスねぇ。」
エディが少しめんどくさそうにこちらを見てきた。
「知り合いか?」
「えぇ、仲が良いという訳でもないのだけどねぇ。
いっつも機嫌が悪くて、八つ当たりが多くて嫌いなのよね。」
ため息をつきながら話してくれた。
昔エディが、神界に遊びに出かけていた頃アポピスと喧嘩をしている神を見たことがあるそうだ。
その喧嘩でアポピスは敗北し、突然周りの壁や物に八つ当たりをし、主神に注意を受けていたそうだ。
なんだか、神界も変わらないんだなぁって思った。
「周りにいた蛇もかわいそうだったわぁ。
またか、みたいな顔していたに違いないわ。」
「蛇を司っているのか?」
「えぇ、蛇神アポピス。
確か、フェドルド砂漠とリャクナード密林の維持管理を任せられていたはず。」
なんか、神界の機密情報がだだ洩れな気がするが、今は一旦置いておこう。
「それでカマエル、そのアポピス?ってやつの命令か?」
「冥神様、ミカエル様のおっしゃる通り、私に使命を授けてくださったのは大蛇神アポピス様です。」
「蛇神と大蛇神の違いはなんだ?」
「神にも位があるのよ、ただの蛇が大蛇になっているのなら神界で何かしらの事をしたのでしょうね。」
「ふむ。、なるほどな。
じゃぁこの土地の浄化も終わったし、結界も解除するわ。」
指をパチンと鳴らし街にかけていた結界を解く。
「それで我々の処遇はどうなるのだ...。」
うつむきながらミカエルが聞いてきた。
「レミエルはもうこの有様だし、私もこの状態だ...。
カマエルについては...。」
「じゃぁ、俺が罰を与えよう。
俺には肩書がたくさんある。
古い肩書だが効果は永続だ。
《選択する者》もそうだが、昔よく呼ばれていた名称がある。
《代行者》グレイスが命ずる。
ミカエル、カマエル、レミエルの三者を天界及び神界から追放する。」
片手を差し出し宣言した。
すると三者手に刻まれていた模様が薄れ消えていく。
ありえないとでも言いたそうな目つきで手の甲を見つめていた。
「それに加え、《提唱者》が提唱する。
地に身を置き、欲を捨てろ。
さすれば、真の光がみえてくるであろう。」
今度は宣教師みたく言い放った。
「これで宣告を終了とする。
お前らは今から”人間”として生きよ。」
天使達にとって最も残酷な事を宣告した。
天界からも神界からも追放され、これからはただ一人の人間として、身に着けた知識をもとに暮らしていくのだ。
「おまえらの真の心が生まれ変わった時、また俺が宣告してやろう。
それまで生きよ、それが罰だ。
エディ、次の国に行くぞ、ここにはアレはなさそうだ。
もっと文明が発達していそうな、そんな国に行こう。」
「グレイスと、共にどこまでも。」
太陽が昇り始め、眩い光がこの土地を照らし始めたころ、俺達は次の国へと歩き始めた。




