蹂躙
横に広く展開した冒険者達は前衛に槍、盾持ちを配置し、後衛に魔法使いと治癒士を待機させていた。
思った以上に天使の突破力は弱いのか前衛の者だけで対処出来ていると感じた瞬間、奥から眩い光を纏った炎球が飛んできて前衛が爆ぜた。
複数の冒険者が丸焦げになりながら、後衛の元へと吹き飛んできた。
「ぁぁあががが、に...。」
何かを伝えようと必死に手を伸ばすが、治癒士の回復も空しく力尽きてしまった。
初の死傷者が出たのを皮切りに各部隊で負傷者が続出し始めた。
「人間よ!脆く弱い生き物だなぁ!!」
カマエルは挑発するかのように、煽りを入れてきた。
それに釣られて何人かの盾持ちがカマエルの方に歩きだす。
「何をしている!勝手に行くな!」
他の冒険者が彼らを止めようとするが制止を振り切り、歩みを止めない。
まるで操られているのか様な、そんな動きだった。
無防備となった彼らは待ち構えていた天使達によって焼き滅ぼされてしまった。
装備していた防具や盾ごと溶かす熱さだった。
「あの天使に気をつけろ!恐らく挑発か魅了の類いだ!魔法耐性を付与せよ!」
事の重大さに気付いた団長が的確な指示を出す。
「「「「「魔法防御展開!!!」」」」」
半数の魔法使いが魔法に対する防御魔法を前線にいる者達に付与した。
「カマエル、お遊びは程々に。
次は央翼の陣だ、直ちに展開せよ。」
「はっ!」
その命令に天使達の行動が変化した。
バラバラに散っていた状態から、洗練された動きで瞬く間に隊を成した。
カマエル率いる隊、ミカエル率いる隊、名を知らぬ天使が率いる隊の3隊にわかれた。
明らかな行動に冒険者達は息を呑む。
「大天使ミカエルの名に置いて、殲滅の号令をかける!
カマエル、レミエル、共に踊ろうぞ!」
人間には理解できぬ声が天使達から湧き上がる。
天使達の士気が上がったということだけ伝わった。
それに負けずと冒険者達もお互いを支えつつ士気を高める。
「対策を怠るな!俺たちはこの土地の守護神だ!
護り抜いて明日を手に入れようぞ!!!」
「「「うぉおおおお!!!!!」」」
ミカエルはそれを待っていたかのように口角を上げ号令を発す。
「一匹残らず、焼き殺せ!【焦土作戦】」
ミカエル筆頭に、ものすごい勢いで前線部隊に突っ込んできた。
その速さに砂ぼこりが立ち、剣が交じる音と、悲鳴が聞こえてきた。
「魔法も打ち込め!!!」
紫色の細い楕円形の魔法が無数に飛び交う。
「我々も続くぞ、レミエル。」
「もちろん。」
左右挟み込むように2つの隊が戦場に入り込んでくる。
「右から来るぞ!いや、左からもだ!!!」
「今、魔法を...!」
「負傷者は下がれ!!!」
「早く来い!」
戦場は混乱を極めていた。
その間にも天使達による蹂躙で仲間達が肉片へと化していた。
宙に舞う肉片は地に落ちることもなく、その場で燃やされ塵と化す。
鼻を刺激する嫌な臭いと、飛び散った血や溶けた防具がその辺にこびりついている。
天使を想定した訓練をしてきた冒険者達だが、敵の強さや数は想定外だったらしく、戦況は見る見るうちに押されていった。
「うぐぐぐ...、やむを得ん!アレを使え!」
「で、でも!」
「非常事態だ、責任は俺が取る!」
団長からの指示により、補給部隊が小さなカプセルのような物を持ってきた。
「とっておきだ!くらえ!!!」
団長はそのカプセルを大きな剣で打ち上げた。
カプセルは空中で砕け散り、中から液体が飛び散り、辺りに散布された。
天使、冒険者構わずその液体を浴び、両者共に一瞬足が止まった。
その瞬間、天使達が呻くように身体を震わせながらその場に倒れこみ始めた。
冒険者達もフラフラと、剣や槍にしがみつきなんとかして身体を支えていた。
「ぐっ!酷い酔いだ。
帝国の奴らめ、もっとましなのを作れ!」
「何をした!人間!」
他の天使達と違って、大天使のミカエルは若干ふらつきながらもその場にとどまっていた。
「帝国が開発した、実験段階の薬ですよ。
天使のみなら、人間にも副作用があるから、使うのを躊躇ってはいたが、ここまでくるなら話は別だ。
あんたら天使は死ぬと、腐敗し毒となる。
その毒はありとあらゆる生物の身体を蝕む代物になるんだろ?
その毒を天使用に開発したのがこのカプセルさ。」
そう言って、団長はあまりの酔いの酷さに思わず片足をつく。
「レミエル!行使できぬか!?」
ミカエルは大きな声で叫んだ。
「はい、今やります。
【創生の導き】」
レミエルと呼ばれた天使は、口から血を垂れ流しながらも祈りを捧げる。
その祈りに応えるかのように痙攣を起こし身体を震わせえていた天使達が起き上がる。
その光景に団長は、ありえないといった表情をしていた。
祈りが終わると同時に怪我をしていた天使も含め全天使が復活した。
「レミエル、ご苦労。
これで形勢逆転だ人間、姑息な手を使いやがって。
この男を残せ、それ以外は全滅だ。」
団長の手に力が入り、片手剣を振るったが、ミカエルの素早い反撃により握っていた手諸共バラバラに砕け散ってしまった。
その間にも復活した天使達により、冒険者達は皆殺しされてしまった。
「ミカエル様、終わりました。」
「うむ、まだまだ時間がかかりすぎている。
精進せよ、カマエル。」
「ありがたきお言葉。」
その言葉に団長は四方を見渡す。
そこには無残にも四肢をもがれ、おびただしい量の出血をしている亡骸となった冒険者達が転がっていた。
団長はその光景を見て思わず嘔吐してしまった。
「汚らわしい、大天使の前だぞ、恥を知れ!」
左腕が吹き飛ぶ。
「ぐぅああああああ!!!」
吹き飛ぶと同時に焼かれ出血は止まる。
「我が同族の死を弄ぶなど、やはり人間は滅さなければならぬ。」
「同感ですね、ミカエル。」
「私もそう思います!」
「最後に問おう、ルヒエルの所在は?」
「...んとに!知らない!!」
左足が吹き飛んだ。
声にならない叫び声をあげる団長。
「最後の一本だぞ?慎重に答えよ、ルヒエルという天使に心当たりは?」
本当に何も知らない団長に、鋭い刃が向けられる。
街に密かに張っていた結界を、一瞬だけ解き、俺は戦場に出る。
気配に気づいたのか、天使達は俺に一斉に視線を向ける。
「...何者だ!」
魔法で隠されて見えないだろうが、俺は笑いながらこう言った。
「俺、知ってるぞ?その天使。」




