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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第68話 再接続

 夜だった。

 フロアには、もうほとんど人がいない。

 残っているのは、わずかな灯りと——

 静かな空気だけだった。


 恒一は、一人で資料を見ていた。

 もう、急ぐ必要はない。

 数字も、流れも、

 すべて——終わっている。

 それでも、手を止めなかった。

 癖みたいなものだった。


「……まだやってるんですか」

 声がした。

 振り向く。

 麻美だった。

「少しだけな」

「……もう終わってますよ」

「知ってる」

 短いやり取り。

 でも、その間に——

 少しだけ、間があった。

 前とは違う、距離。


 麻美が、ゆっくり近づいてくる。

「……宗一郎さんに会いました」

 不意に言う。

「そうか」

「全部、聞いてるみたいでした」

「だろうな」

 驚きはない。

 むしろ——

 来ると思っていた。

「……話したいって言ってました」

「……ああ」

 短く頷く。

 それ以上は言わない。

 逃げない。

 その姿に、麻美は少しだけ息を吐いた。

「……やっぱり、すごいです」

 ぽつりと漏れる。

「何がだ」

「逃げないところです」

 まっすぐ見る。

 前よりも、はっきりと。

「正しいかどうか、わからないのに」

「……」

「それでも、決めて進んでる」

 言葉を選びながら、続ける。

「私には……できませんでした」

 静かな告白だった。

 否定じゃない。

 認める言葉。

 恒一は、少しだけ考えた。

 そして——

「できるかどうかじゃない」

 ゆっくり言う。

「やるしかなかっただけだ」

 事実だった。

 選択肢なんて、なかった。

「でも」

 麻美が言葉を重ねる。

「その“やる”を選んだのは、恒一さんです」

 その一言に、少しだけ、空気が変わる。


 責任。

 逃げない言葉。

 恒一は、目を逸らさなかった。

「……そうだな」

 認める。

 それでいい。

「……正しいとは、まだ思えません」

 麻美が言う。

 はっきりと。

「うん」

「でも——」

 一歩、近づく。

「間違ってるとも、言い切れません」

 その言葉は、

 あの時とは、違っていた。

 否定じゃない。

 揺れた先の、答え。


「……」

 恒一は、少しだけ息を吐いた。

 そして——

「それでいいと思う」

 静かに言う。

「全部納得する必要はない」

 麻美は、少しだけ笑った。

「そう言うと思いました」

「だろうな」

 ほんの少しだけ、空気が軽くなる。


 だが——

 それだけじゃない。

「……一つ、聞いてもいいですか」

「何だ」

 少しだけ、間を置く。

「どうして、あそこまで見えてたんですか」

 また、その問い。

 でも——

 前とは違う。

 責める声じゃない。

 知りたい、という声。

 恒一は、少しだけ考えた。

 そして——

「見えてたわけじゃない」

 静かに言う。

「ただ——」

 一瞬、言葉を選ぶ。

「こうなる気がしただけだ」


 嘘ではない。

 でも、本当でもない。

 その曖昧さを、麻美は、受け取った。

「……そうですか」

 それ以上は、聞かない。

 聞かない、という選択。

 それが——信じる、ということに近いと、少しだけ、わかっていた。

「……私、手伝います」

 改めて言う。

「これからも」

 一拍。

「全部納得してるわけじゃないですけど」

 少しだけ笑う。

「逃げないって決めたので」

 その言葉に、恒一も、少しだけ笑った。

「助かる」

 短く。

 でも——十分だった。

 それ以上の言葉はいらない。


 二人の間にあった距離は、

 完全には消えていない。

 でも——同じ方向を向いている。

 それで、十分だった。

 窓の外に、夜の街が広がる。

 静かだ。

 だが——どこかで、まだ動いている。

 世界は、止まらない。

 そして——二人も、止まらない。

 ここで終わりじゃない。

 でも——確かに、繋がった。

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