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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第66話 確定

 静寂が、落ちた。

 さっきまでの喧騒が嘘みたいに、

 フロアが止まっている。


「……三回転、完了」

 誰かが、確認するように呟いた。

 数字は、そこにあった。

 確定した利益。

 回収済みの資金。

 消化された在庫。

 誰が見ても——

 “成功”だった。

「……」

 本部の男が、何も言わない。

 ただ、画面を見ている。

 その沈黙が、

 すべてを物語っていた。


「引き継ぐ」

 やがて、短く言った。

 だが、その声は——

 さっきとは違っていた。

 強制ではない。

 確認に近い。

「……はい」

 恒一は、頷いた。

 もう、奪われるものはない。

 終わっているからだ。

「……見事だな」

 小さく、漏れる。

 それが評価だった。

 最大限の。


 本部の人間たちは、資料を回収し始める。

 だが——もう意味は薄い。

 勝負は、終わっている。

 彼らが去ると同時に、

 空気が崩れた。

「……終わった」

 誰かが椅子に崩れ落ちる。

「マジで……やったのか……」

 笑いとも、泣きともつかない声。

 張り詰めていたものが、一気にほどける。


 神谷が、大きく息を吐いた。

「……はは」

 乾いた笑い。

「バカだな、俺ら」

 そう言いながら——

 顔は、笑っていた。

「でもよ」

 恒一を見る。

「勝ったな」

 短く。

 その一言で、すべてが報われる。

「……はい」

 恒一も、初めて小さく息を吐いた。

 長かった。

 だが——終わった。

 確かに、終わった。


 そのとき。

「……恒一さん」

 麻美の声。

 振り向く。

 そこに立っている。

 少しだけ、疲れた顔。

 でも——

 まっすぐ見ている。

「すごいですね」

 その言葉に、

 少しだけ間があった。

「……でも」

 続く。

「やっぱり、全部は納得できません」

 正直な言葉だった。

 そのままの。

 恒一は、少しだけ笑った。

「いいと思う」

 それだけ言う。

「俺も、全部は納得してない」

 同じ答え。

 でも——

 その先にあるものが、違う。

「でも、やるしかなかった」

 静かに言う。

 麻美は、少しだけ俯く。

「……はい」

 否定はしない。

 できない。

 見てしまったから。

 この結果を。


「……一つだけ」

 顔を上げる。

「聞いてもいいですか」

「何だ」

「なんで、わかったんですか」

 一瞬、空気が止まる。

「為替も、在庫も、タイミングも……」

 言葉を選ぶ。

「全部、当たりすぎてます」

 まっすぐな目。

 逃がさない視線。

 恒一は、少しだけ沈黙した。

 答えは、ある。

 でも——

 言えない。


「……運が良かった」

 短く言う。

 だが——

 麻美は、納得しない。

 わかっている。

「……そうですか」

 それでも、それ以上は聞かない。

 ただ一つだけ、確信が残る。

(この人は——)

 知っている。

 何かを。

 それが何かは、わからない。

 でも——

 確かに、見えている。

 自分たちとは違う景色が。


 そのとき。

 フロアの窓の外に、光が差し込んだ。

 夕方だった。

 長い一日が、終わる。

 恒一は、その光を見ていた。

 どこか遠くを見るような目で。

(……ここまでか)

 小さく、思う。

 この流れ。

 この勝負。

 そして——

 この時代。

 すべてが、少しずつ終わりに近づいている。

 それを、知っている。

 自分だけが。

 だから——ここで終わりじゃない。

 まだ先がある。

 だが、それは——もうすぐだ。


 恒一は、静かに目を閉じた。

 勝った。

 確かに。

 だが——

 すべてを手に入れたわけじゃない。

 そのことも、ちゃんと、わかっていた。

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