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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第65話 既視

「あと三十分です」

 その声で、すべてが動き出した。

 限界は、とっくに超えている。

 だが——止まらない。


「第六ロット、間に合うか!?」

「積み込み終わってます!」

「回せ!」

 怒号が飛ぶ。

 麻美は、端末を叩いていた。

(……速い)

 さっきまでと違う。

 迷いがない。

 全員が、“終わり”を見ている。


「為替、また動いてます!」

 誰かの声。

「どっちだ!」

「円安に振れてます!」

 ざわめき。

 さっきとは逆。

 利益が——伸びる。


「……読んでたのか?」

 神谷が小さく呟く。

 恒一は、答えない。

 ただ、画面を見ている。

(……違う)

 麻美は気づく。

 “当てた”顔じゃない。

 もっと——

(……知ってる?)

 背筋に、冷たいものが走る。


「第七ロット、どうする!」

「行く」

 即答だった。

「全部拾え」

「在庫、薄いです!」

「知ってる」

 一瞬の間。


「ここで消える」

 誰かが顔を上げる。

「……え?」

 恒一は、画面を見たまま言う。

「次の波で、消える」

 静かな声。

 だが——

 断定だった。

「だから、今取る」

 その言葉に、

 誰も反論できない。

 理屈じゃない。

 だが——

 外していない。


「……動け!」

 神谷が叫ぶ。

 また、流れが加速する。

 麻美は、手を止めていた。

(この人……)

 怖い。

 そう思った。

 判断が早いとか、そういう次元じゃない。

(未来を——)

 言葉にしかけて、止める。

 そんなはずはない。

 でも——

 そうとしか思えない瞬間が、ある。


「残り十五分!」

 声が飛ぶ。

 時間が、削られていく。

 そのとき。

「そこまでだ」

 低い声。

 本部の男が、前に出る。

「引き継ぐ」

 空気が止まる。


「……まだです」

 恒一。

「時間だ」

「あと——」

「終わりだ」

 遮られる。

 完全な支配。

 その瞬間。

 恒一は、画面を見た。

 一つの数字。

 入金ステータス。

 “保留”。


 だが——

(……来る)

 確信があった。

 なぜかは、わからない。

 いや——

 わかっている。

 このタイミングで来る。

 知っている。

 体が、覚えている。

「……十秒だけください」

 静かに言った。

「は?」

「十秒でいい」

 視線を逸らさない。

「それで終わります」

 本部の男が、眉をひそめる。

「ふざけているのか」

「いいえ」

 その瞬間。

 画面が、切り替わる。

 “入金確認”

 誰かが息を呑む。

「……入った」

 小さな声。

 だが——全員に聞こえた。

 空気が、変わる。

 完全に。

「第七ロット、成立!」

 誰かが叫ぶ。

 それで——すべてが、繋がった。

 

 沈黙。

 本部の男たちが、画面を見る。

 数字。

 積み上がった結果。

 完成した流れ。

「……三回転」

 誰かが呟く。

 恒一は、ゆっくりと顔を上げた。

「完了しました」

 静かな声。

 だが——揺るがない。

 誰も、何も言えない。

 否定できない。

 止められない。

 すでに—— 終わっているからだ。


 神谷が、小さく笑った。

「……やりやがったな」

 フロアの空気が、一気に抜ける。

 張り詰めていたものが、ほどける。

 だが—— 恒一だけは、動かなかった。

 画面を見ている。

 まだ、終わっていない顔。

(……違う)

 麻美は思う。

(この人は)

 今を見ていない。

 その先を——見ている。


 ほんの一瞬だけ、

 恒一の視線が揺れた。

 誰にも気づかれないくらい、小さく。

 だが——そこにあったのは、

 “懐かしさ”だった。

 まるで——

 一度、ここを通ったことがあるような。

 そんな、目だった。

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