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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第64話 接収

 フロアは、限界だった。

 誰も座っていない。

 誰も休んでいない。


「第五ロット、流しました!」

「入金確認、次回せます!」

「トラック遅れてます!」

 怒鳴り声すら、かすれている。

 だが——

 止まっていない。

 回っている。

 無理やりにでも、

 ねじ伏せるように。


「……何回目だ」

 神谷が呟く。

「二回転、超えてます」

「三回目は」

「入ってます」

 短いやり取り。

 だが、その意味は重い。

 三回転。

 最初に言った“壁”。

 そこに——届いている。


 恒一は、画面を見ていた。

 数字が積み上がっている。

 利益が、形になっている。

(……いける)

 確信があった。

 このまま——

 そのとき。


 フロアの入口が、開いた。

 音は、小さい。

 だが——

 全員が、気づいた。

 空気が、変わる。

 ざわめきが、一瞬で消える。

 入ってきたのは——

 スーツ姿の男たち。

 無駄のない動き。

 冷たい視線。

 現場の人間ではない。


「……来たな」

 神谷が低く言う。

 誰も動かない。

 ただ、見ている。

 一人が前に出る。

「本部だ」

 短く、告げる。

「この案件は、本部管理に移行する」

 静かな声。

 だが——絶対だった。

「以降の判断は、すべてこちらで行う」

 誰も、反論しない。

 できない。

 それが“ルール”だからだ。

 そのとき。


「……まだ終わってません」

 声がした。

 恒一だった。

 全員の視線が、集まる。

「何だ」

「三回転、完了していません」

 淡々と言う。

「現在進行中です」

「だから何だ」

「ここで止めれば、損失が出ます」

 一歩も引かない。

 空気が張り詰める。


「指示は理解しているな?」

「理解しています」

「なら従え」

 それで終わるはずだった。

 だが——

 恒一は、動かなかった。

「……あと一時間です」

 静かに言う。

「何だと」

「あと一時間で、三回転が完了します」


 視線を真っ直ぐ向ける。

「そこまでやらせてください」

 空気が凍る。

「許可できない」

 即答。

「リスクがある」

「今止める方がリスクです」

 間髪入れずに返す。

「すでに仕入れは走っています」

「物流も動いています」

「売り先も確定しています」

 一つ一つ、言葉を積み上げる。

「ここで止めれば——」

 一拍。

「全部、崩れます」


 沈黙。

 だが——

「それは管理の問題だ」

 切り捨てる。

「以降はこちらで引き取る」

 完全に、奪うつもりだった。

 その瞬間。

 神谷が一歩前に出た。

「……無理だな」

 全員が驚く。

「神谷、下がれ」

「いや、無理だ」

 はっきり言った。

「今の流れ、止めたら死ぬ」

「感情で話すな」

「感情じゃねえ」

 睨む。

「現場の事実だ」

 空気がぶつかる。

 本部と、現場。

 正しさと、現実。

 その真ん中で——

 恒一は、静かに口を開いた。

「数字、見てください」

 画面を回す。

 そこにあるのは——

 積み上がった結果。

「二回転で、これです」


 誰もが、息を呑む。

「三回転で、確定します」

 一歩、踏み出す。

「ここまでやったのは、現場です」

 声は静かだった。

 だが——

 重い。

「責任も、わかっています」

 逃げない。

 その姿勢が、空気を変える。

「……」

 本部の男が、黙る。

 一瞬の沈黙。

 その、わずかな隙。

「あと一時間です」

 もう一度、言う。

「それで終わります」

 全員が、息を止める。

 判断を待つ。

 その一時間が、

 すべてを決める。

 長い、沈黙のあと——

「……三十分だ」

 低い声。

「三十分で引き継ぐ」


 ざわめき。

 短い。

 だが——

 十分だった。

「……了解です」

 恒一は、すぐに答えた。

 振り返る。

「全員聞いてください」

 フロアが静まる。

「あと三十分です」

 一拍。

「全部、終わらせます」

 その一言で、空気が爆ぜた。


「やるぞ!!」

 神谷の声。

 全員が動く。

 最後の加速。

 限界を超えた先へ。

 三十分。

 その中で——

 すべてを、決める。

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