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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第63話 加速

「三回転まで回す」

 その一言で、全員の動きが変わった。

「聞いたな!」

 神谷が叫ぶ。

「時間ねえぞ!止めるな、全部回せ!」


 フロアが、一段ギアを上げる。

 電話の音。

 キーボードの連打。

 怒鳴り声。

 もう整ってはいない。

 だが——速い。


「第二ロット、別港入りました!」

「トラック回せ!遅らせるな!」

「第三ロット、通関準備!」

 情報が飛び交う。

 麻美は走っていた。

「この書類、先に回してください!」

「後だ!」

「先です!ここ止まると全部止まります!」

 言い切る。

 一瞬、相手が詰まる。

「……わかった、通せ!」


 道が開く。

(……判断してる)

 自分で。

 迷ってる時間はない。

 止めれば、終わる。

 それだけは、もうわかっている。


「麻美!」

「はい!」

「第四ロットの優先順位、組み直せ!」

 恒一の声。

「為替動いてる!利益薄いところ切る!」

「……はい!」

 即答する。

 もう、ためらわない。

 画面を開く。

 数字が並ぶ。

 利益率。

 回収スピード。

 リスク。

(……ここは落とす)

 昨日なら、できなかった判断。

 だが今は——

 指が動く。

 “除外”。

 一社、切る。

 胸が、わずかに痛む。

 だが——止めない。


「できました!」

「流せ!」

 即座に反映される。

 流れが、加速する。

「入金確認!」

「どこだ!」

「名鉄工業、全額!」

「よし、次回せ!」

 点が、線になる。

 線が、面になる。

 回る。

 確実に。

 そのとき。


「……恒一」

 神谷が低く呼ぶ。

「何ですか」

「上、動いてるぞ」

 一瞬だけ、手が止まる。

「どこまで」

「現場に人降ろす準備してる」

 予想通りだった。

「時間は」

「長くて半日」

 短い。

 だが——

 十分でもある。

「……回せます」

 恒一は言う。

「三回転、いけます」

「言い切るなよ」

「いけます」

 視線を上げる。

「ここで止めたら、意味がない」

 神谷が笑う。

「だな」

 一歩前に出る。

「じゃあやるか」

 その顔は——

 完全に乗っていた。


「全員聞け!」

 フロアに響く声。

「あと半日だ!」

 一瞬、静まる。

「それまでに全部回しきる!」

 ざわめき。

「できるかどうかじゃねえ!」

 拳を握る。

「やるんだよ!」

 空気が爆ぜる。

「おおっ!」

 誰かが応じる。

 連鎖する。

 もう、止まらない。


 恒一は、画面を見つめていた。

 数字が動く。

 流れが見える。

 読める。

 まだ——勝てる。

「第五ロット、いけるか」

「在庫あります!」

「押さえろ」

「はい!」

 迷いはない。

 全部、繋がっている。

 切ったもの。

 残したもの。

 今、動いているもの。

 全部が、この瞬間のためだった。


 麻美は、ふと顔を上げた。

 フロアが、別の場所のように見える。

 混乱じゃない。

 戦っている。

 一つの方向に。

(……すごい)

 思ってしまう。

 昨日、あれだけ否定したのに。

 それでも——

 目を逸らせない。

 この流れから。


「麻美!」

「はい!」

「次、行くぞ!」

「はい!」

 走る。

 もう、止まらない。

 止めない。

 半日。

 その中で、

 どこまで積み上げられるか。

 上が来る前に——

 すべてを、終わらせる。


 恒一は、静かに息を吐いた。

 そして——

 次の指示を出す。

 加速は、止まらない。

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