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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第61話 歪み

 最初の一回転は、確かに回った。


 だが——

「……止まりました」

 その一言で、空気が凍る。


「どこだ」

 神谷の声。

「第二ロット、通関で止まってます」

「なんでだ!」

「書類不備って……」

「そんなわけあるか!」

 怒声が飛ぶ。

 さっきまでの熱が、一気に冷える。

 麻美が画面を見つめる。

「……違います」

「何がだ」

「これ……意図的です」


 全員の視線が集まる。

「同じ書類、第一ロットで通ってます」

 確かにそうだ。

「じゃあなんで止める!」

「……圧力です」

 静かに言った。

 その一言で、誰もが理解する。

 ただのトラブルじゃない。

 “止められている”。


「誰がだ」

 誰も答えない。

 だが、答えは一つしかない。

「……上だな」

 神谷が吐き捨てる。

 上層部。

「利益出るってわかった途端にこれかよ……」

 空気が歪む。

 さっきまでの“希望”が、

 別の形で圧し掛かってくる。


「どうする」

 誰かが呟く。

 止まれば——終わる。

 一回転で終わりだ。

 恒一は、画面を見ていた。

 止まった数字。

 動かないステータス。

 だが、その目は——

 変わらない。


「別ルートに回す」

 一言だった。

「は?」

「港、変える」

「そんな簡単に——」

「押さえてます」

 神谷がニヤリと笑う。

「……お前、まさか」

「念のためです」

 淡々と答える。

「こうなる可能性はあった」


 空気が変わる。

「最初からかよ……」

「完全には読めませんでしたけど」

 視線を上げる。

「止められる前提で動いてます」

 その言葉に、

 誰も反論できない。

 “止まること”すら、織り込み済み。


「トラック回せ」

 神谷が叫ぶ。

「別港に振る!」

「距離ありますよ!」

「知るか、動かせ!」

 再び、フロアが動き出す。

 だが——

「為替、動いてます!」

 別の声。

「円が……」

「どっちだ」

「円高です!」

 空気がまた揺れる。


 輸入は有利。

 だが——

「契約、ドル建てだろ!」

「はい!」

「じゃあ——」

「利益、削られます!」

 さっきまで見えていた数字が、

 一気に歪む。

「……くそ」

 誰かが呟く。

 甘くない。

 当然だ。

 一度回ったからといって、

 世界が味方するわけじゃない。

 むしろ——

 試されている。


「……どうする」

 また、その言葉。

 だが今回は、

 少し違う。

 誰もが、

 恒一を見る。

 判断を。

 次の一手を。

 求めている。

 恒一は、ゆっくり息を吐いた。

「続ける」

 短く言う。

「利益は削れる」

 認める。

「でも——回る」

 一拍。

「回し続ければ、取り返せる」

 その言葉に、

 誰も動かない。

 だが——

 目は、逸らさない。

「ここで止めたら」

 静かに続ける。

「全部、無駄になる」

 それは、事実だった。

 一回転の意味が消える。


「だから——」

 キーボードに手を置く。

「回す」

 カタ、カタ、と音が響く。

 止まりかけた歯車に、

 無理やり力をかける。

 軋む。

 歪む。

 それでも——

 回す。


 麻美は、その背中を見ていた。

(……この人)

 止まらない。

 止まれない、じゃない。

 止まらないと、決めている。

 だから——

 進む。

 どれだけ歪んでも。

 どれだけ削られても。

 前に。


 フロアの音が、また大きくなる。

 乱れた流れが、

 無理やり繋ぎ直されていく。

 一回転は終わった。


 だが——

 本当の勝負は、

 ここからだった。

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