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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第57話 逆張り

「やるぞ、じゃないですよ」

 すぐに声が上がった。

 別部署の課長だった。

「在庫抱えるって、今の状況わかってます?」

「わかってます」

 恒一は答える。

「じゃあなんで——」

「今しかできないからです」

 被せた。


 ざわめきが広がる。

「こんな時に攻めるってのか!?」

「売れなかったら終わりだぞ!」

「もう十分終わりに近いだろ!」

 声が飛ぶ。

 誰もが、正しい。

 だからこそ、前に進めない。


「……金はどうする」

 低い声。

 部長だった。

「残ってる分、全部使います」

「は?」

「選別で残したキャッシュ、全部です」

 一瞬、静まり返る。

「正気か」

「正気です」

「それ失敗したらどうなるかわかってるか?」

「わかってます」


 間を置かない。

「終わりです」

 言い切った。

 空気が凍る。

「だからやるんです」

 誰も、言葉を返せない。

「今は、守っても終わる」

 視線を上げる。

「だったら、取りに行くしかない」


 静かだった。

 だが、押し返せない重さがあった。

「……根拠は」

 部長。

「あります」

 恒一は資料を開いた。

「海外在庫、積み上がってます」

「価格、崩れてます」

「物流、完全には止まってません」

 指で示す。

「つまり——」

 一拍。

「現金を出せば、動きます」


 誰も動かない。

「そして——」

 もう一枚、資料を出す。

「こっちは、払える先です」

 選別済みのリスト。

「ここにだけ流す」

 繋がった。

「……一点突破か」

 神谷が呟く。

「はい」

「他は全部捨てる気か」

「もう捨ててます」

 淡々と言う。


 誰も、否定できない。

「……リスクがでかすぎる」

 別の声。

「でかいです」

「だったら——」

「でも、勝てます」

 初めて、その言葉を口にした。

 勝つ。

 その一言で、空気が揺れる。


「……なんで言い切れる」

 一瞬だけ、間があった。

 恒一は、答えを飲み込む。

 本当の理由は、言えない。

 未来を知っているから、とは。

「構造です」

 代わりに言った。

「今は、物が余ってる」

「でも、流せるやつがいない」

 視線を巡らせる。

「だったら、流せる側が勝つ」

 シンプルだった。

 だが、それが一番強い。


 沈黙。

 長い沈黙。

 そのとき。

「……やらせてみろ」

 部長だった。

 全員の視線が集まる。

「ただし条件がある」

「何ですか」

「期間は短い」

 指を立てる。

「三日だ」

 三日。

「三日で結果が出なければ——」

 一瞬、言葉を切る。

「全面停止だ」

 重い条件だった。

 だが——

「十分です」

 即答だった。

 ざわめき。


「おい、簡単に言うなよ!」

「三日で何ができる!」

「できます」

 静かに言う。

「最初の一回転なら」

 その言葉に、

 神谷が小さく笑った。

「……一回転、か」

「ああ」

「なら——」

 一歩、前に出る。

「俺も乗る」


 フロアの空気が変わる。

「神谷さんまで……」

「どうせこのままでも沈む」

 肩をすくめる。

「だったら、賭ける方がマシだ」

 その一言で、

 何かが決まった。

「……やります」

 誰かが言う。

「俺も」

「……やるしかねえか」


 小さな声が、少しずつ広がる。

 さっきまでの空気とは違う。

 怖い。

 でも——

 動く。

 恒一は、深く息を吐いた。

 ここからだ。

「まず、仕入れを押さえます」

 キーボードに手を置く。

「現金即決で交渉入ります」

 指が動く。

 カタ、カタ、カタ。


 止まっていた歯車が、ゆっくりと回り始める。

 三日。

 その中で、回せるかどうか。

 すべては——

 ここにかかっていた。

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