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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第53話 決壊

 電話が鳴り止まない。

 だが、誰もすぐには取らなかった。

 さっきまでとは違う。

 “出れば終わり”だと、全員がわかっている。


「……出ろ」

 神谷の一言で、恒一が受話器を取る。

「……はい」

『フロンティア銀行です』

 一瞬で、背中に汗が流れる。

『先ほどの件ですが』

 来た。

「……はい」

『本部で正式に決まりました』

 間がない。

 逃げ道もない。

『御社への追加融資は——見送ります』

 頭の中で、何かが弾けた。


「……見送り、ですか」

 かろうじて声を出す。

『はい。現状のリスクを鑑みて、これ以上の与信は難しいと判断しました』

 丁寧な言葉。

 だが中身は単純だ。

 ――貸さない。

「既存枠は」

『凍結です』

 即答だった。


 終わった。

 今度は、はっきりと。

 言葉として理解した。


「……わかりました」

 そう言うしかなかった。

 電話を切る。

 指先が、白くなっている。


「来たか」

 神谷。

「ああ」

「……どうだった」

 一瞬、迷う。

 だが隠しても意味はない。

「追加なし。既存も凍結」

 フロアの空気が、止まった。


「……マジかよ」

 誰かが呟く。

「嘘だろ……」

「終わりじゃねえか……」

 ざわめきが広がる。

 だが、それはすぐに消える。

 代わりに残ったのは——沈黙だった。


 そのとき。

「恒一さん!」

 麻美が駆け込んでくる。

「為替、見ましたか!?」

「……今見る」

 画面を開く。

 レートが表示される。

 次の瞬間——

「……ふざけんな」

 思わず声が漏れる。

 さらに振れている。

 さっきの数字ですら、甘かった。


「どの前提でも、赤です」

 麻美の声が震えている。

「ヘッジ、間に合ってません……!」

「……だろうな」

 短く返す。

 もう驚きはなかった。


 電卓を叩く。

 カタカタカタ。

 速くなる。

 乱れる。

 だが、結果は同じだ。


「……足りない」

 小さく呟く。

「いくらだ」

 神谷。

「……桁が合わない」

「言え」

「……億、飛びます」


 誰かが椅子に崩れ落ちた。

「おい……それ、払えんのか……?」

 答える者はいない。

 そのとき、また電話が鳴る。

 今度は、すぐに誰もが視線を逸らした。

「……出ます」

 麻美が言う。

「待て」

 恒一が止める。

 一瞬、目が合う。

 麻美の目は、怯えていた。


「俺が出る」

 受話器を取る。

「……はい」

『御社、支払いの件ですが』

 来た。

『本日中の入金、確認できてません』

「……現在調整中で——」

『本日中に確認できない場合、今後の取引は見直します』

 静かな声。

 だが、それが一番重い。


「……猶予は」

『ありません』

 即答だった。

 信用が、切られる。

 音もなく。

「……わかりました」

 電話を切る。


 もう、誤魔化しは効かない。

 止まるとか、遅れるとか、そういう段階じゃない。

 ――切られる。


「恒一」

 神谷の声。

「どうする」

 その一言。

 フロアの全員が、こちらを見た。


 責任。

 判断。

 全部が、ここに集まる。


 恒一は、ゆっくりと息を吐いた。

 頭は、不思議なほど冷えていた。

 もう、理解している。

 このままでは——全員沈む。


「……切るしかない」

 口に出した瞬間、

 空気が変わった。

「何を」

 神谷。

「海外ラインだ」


 ざわめきが、一気に爆発する。

「正気か!?」

「今切ったら違約——」

「全部飛ぶぞ!?」

「もう飛んでる」

 低く言う。

「見えてないだけだ」

 誰も、言い返せない。


 そのとき。

 ガラス越しの上層部の部屋。

 扉が開いた。

 数人が、こちらに向かってくる。

「……来たな」

 神谷。

 責任を決める者たちが。


 恒一は、ゆっくりと前を向いた。

 逃げる気はなかった。

 もう、崩壊は止まらない。

 なら——

 どこで切るかだけだ。

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