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営業成績最下位の俺がバブル時代の商社にタイムスリップしたら、昭和の気合営業に現代マーケティングを持ち込んだら出世してしまった  作者: かーすけ


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第52話 逆回転

 電話が、また鳴る。

 さっきと同じ番号だった。


「……はい、恒一です」

『止めました』

 短い報告。

「……どこまでですか」

『全部です。第一ラインから第四ラインまで』

 一瞬、意味が掴めない。

「……全部?」

『はい。樹脂が来ないので、回せません』


 その言葉の裏にある光景が、はっきり浮かぶ。

 動いていたはずの機械が、止まる。

 ベルトコンベアが、ゆっくりと減速する。

 熱を持った設備が、行き場を失う。


「……再開の目処は」

『立ってません』

 間髪入れずに返ってくる。

『このままだと、今日の分だけで数千万の損失です』

 数字が、重くのしかかる。

『明日以降も止まれば……』

 言葉を濁す。

「……わかりました」

『わかってもらっても困るんですよ』

 声が、少しだけ強くなる。

『契約、どうなってるんですか』

 答えられない。

『御社の責任ですよね』

 はっきりと言われた。

「……はい」

 認めるしかない。

『正式に請求、出します』

 それだけ言って、電話は切れた。

 受話器を置く。


 指先の感覚が、少し鈍い。

「……止まったか」

 神谷の声。

 振り向かなくてもわかる。

「ああ」

「どこだ」

「北辰工業。ライン全部」

 短い沈黙。

「来るな」

 神谷が言う。

「何が」

「請求だ」


 そのタイミングで、別の電話が鳴る。

 誰も出ない。

 三コール、四コール。

「出ろ」

 神谷が低く言う。

 恒一が取る。

「……はい」

『山本製作所ですが』

 また、同じ流れ。

『そちらの樹脂、入ってません』

「現在——」

『止めました』

 被せられる。

『うちもライン止めてます』

 二社目。

『これ、損害どうするんですか』

 同じ言葉。

 同じ温度。

 違うのは——数だけ。

 電話を切る。

 すぐにまた鳴る。


 三社目。

 四社目。

 同じ報告。

 同じ怒り。

 同じ要求。

 止まる。

 止まる。

 止まる。


 頭の中で、歯車が逆に回り始める。

 今まで積み上げてきたものが、

 一つずつ、音を立てて外れていく。

「恒一」

 神谷の声。

「計算しろ」

「何を」

「全部だ。止まった分、違約、遅延、在庫」

 無茶だった。

「……出せるか」

「出せ」


 その言い方に、迷いはなかった。

 恒一は、パソコンに向き直る。

 数字を入れる。

 一つ目。

 数千万。

 二つ目。

 億に近づく。

 三つ目。

 桁が、現実味を失う。

「……嘘だろ」

 思わず漏れる。


「嘘じゃない」

 神谷が言う。

「これが現実だ」

 そのとき。

「課長!」

 別の部署の社員が飛び込んでくる。

「どうした」

「銀行からです!」

 フロアの空気が、一瞬で変わる。

「融資枠、一時凍結って……」

 言葉が、途中で途切れる。

「……理由は」

「総合的判断、って……」

 また、それだ。

 誰も責任を取らない言葉。

 でも、結果だけははっきりしている。

 金が、止まる。

「……終わりだな」

 誰かが小さく呟いた。

 その言葉に、誰も反論しない。


 フロアのざわめきが、一段低くなる。

 さっきまでの“焦り”が、“現実”に変わる。

「……まだだ」

 恒一が言う。

 自分でも、どこまで本気かわからない。

「まだ、手はある」

 誰もすぐには反応しない。

「何があるんですか」

 誰かが聞く。

 答えられない。

 それでも——

「探す」

 それしか言えなかった。


 そのとき。

 ガラス越しに、上層部の部屋が見えた。

 数人が集まっている。

 こちらを見ている。

 目が合う。

 すぐに逸らされる。

 空気が変わる。

「……来るな」

 神谷が低く言う。

「何が」

「責任の話だ」

 その一言で、すべてが繋がる。


 誰がやったのか。

 誰が決めたのか。

 そして——

 誰が、切られるのか。

 フロアの音が、遠くなる。


 歯車は、完全に逆回転していた。

 止める手段は、もうない。

 ただ——

 巻き込まれるしかなかった。

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