08
「よかったな」
「やっぱり実物はいいね、なんだかんだで空を見上げちゃうもん」
デートをしていたらしい岩佐と石上ペアを発見することができなかったことが気になっていた。
やっぱりあれは彼女を煽りたかっただけで実際はお互い別々に過ごしているとかそういうのだろうか。
「桃音? 桃音なら並んでいるときに見つけたよ」
「そうかっ」
「あの子は無駄な嘘をつかないよ、だからデートするって口にしたらちゃんとデートをするの。いまからは抑えられなくなった桃音が影響して石上君の家でふふって感じになるんじゃないかな」
「まあ、お互い好き同士だからな」
寧ろ家まで送って「じゃあまたな」は寂しすぎる。
石上は勇気を出せないかもしれないから岩佐が「もう少し一緒にいたいです」とぶつけてやってほしい。
「あ、私も帰るつもりないから」
「お、やっと泊まってくれるのか!」
「うん、今日だからこそよかったよね」
ああなるほど、土産もそれなりにあって俺の両親とも話せるきっかけができるからか。
あれから家に来る度に両親と盛り上がっていたから無理もない。
「それとも、私の家に泊まっちゃう?」
「あれ、両親と話さなくていいのか?」
「私は二人のこと好きだけど今日は蓮君とだけでいいかな」
「それなら一旦家に寄らせて――どうした?」
借りたくないとかそういうことじゃないが着替えを取りにいかなければならないことには変わらないからそこは許してほしい。
「ねえ、ちゃんと分かっているの?」
「おう、こっちにとっても初めての泊まりだ!」
「はぁ……なんかお喋りしていつまで経っても来なさそうだから私も付いていく」
「おう」
あ、これを渡したいのもあったからでもあるな。
とにかく、気分が変わってしまう前にさっさと着替えなんかを取ってきた。
両親は意外にも「いってらっしゃい」とだけしか言ってこなかった。
「ちゃんと挨拶をしないとな」
「え、いいよそんなの」
「そういうわけにもいかないだろ? 説明もなしに野郎が泊まりに来たらビビるだろ」
なーに、ずっと話そうってわけじゃないんだ。
その最低限のことをちゃんとしておけば今後もやりやすくなるというものなんだ。
「着いたけど余計なことをしないでよね」
「いやだから――」
上がらせてもらってからも腕を掴まれたままで別行動はできなさそうだった。
あと、リビングなんかにいてくれなかったから挨拶することができなかった。
スマホをポチポチ弄っていたのはそういうことだったらしい。
「さ、早くお風呂に入ってきてよ」
「借りるよ」
シャワーを使ってくれればいいとのことだったから遠慮せずに使わせてもらってさっさと出てきた。
出た後にどこにいけばいいのかは分かっているから移動すると電気を点けずに寝転がっている雛がいた。
「寝ているのか?」
「ううん、寝転ぶときに電気を点けていると眩しいから消していただけ。私もいってくる、寝ないでよね」
「この時間なら大丈夫だ」
とはいえ、結構食べ物を食べて油断していると危なそうだったから壁に背を預けて座っておくことにした。
これまでのことを考えたらなんかすごいことになった。
冷静になるとあれはもう……。
「ただいま」
「は、早かったな」
「まあね、待たせるのも違うし」
わざわざ隣まで来て同じように座った彼女。
「蓮君、足貸して」
「使ってくれ」
はいいが何故オレンジ色にするのか……。
俺からすれば積極的すぎるように見えてしまう。
「ん? なんか落ち着かない感じ?」
「そ、そりゃあな」
「なんで、ただ私がいるだけじゃん」
「でも、あんなやり取りがあった後にこんなことをしているからさ」
「ほほーつまり意識してしまっているということだね?」
彼女は意地が悪かった。
薄暗くて助かったかもしれない、いまはなるべく顔を見られたくない。
「というか、私はもう告白をしたようなものじゃない? ほらほら、返事をしろー」
「い、いいのか……?」
「はいそれ禁止」
そうだな、この曖昧な状態が続くと俺の精神状態が悪くなっていくばかりだ。
結局抵抗しようとしたところで俺は最初の方から彼女のことを求めていたで終わってしまう話だった。
「雛のことが好きだ」
「好きは言いすぎでしょ」
「い、いや、好きだよ」
「へー」
彼女の気持ちが好きに変わるのはいつだろうか。
でも、一緒にいてくれるならそれでいい。
「気に入っている状態から好きになってもらえるように――痛い痛い……」
攻撃をしたうえに彼女の方が顔を見られないようにうつ伏せになってしまった。
「気に入らない、気に入っているだけであんなことを言うわけがないじゃん」
「でもさ、やっぱり龍生とは――」
「もう辰巳先輩のことはいいの」
あ、そういえば待っている間に龍生からは連絡がきて今日は普通に解散にするみたいだった。
もう完璧な両想い状態だからこその余裕なんだろうか、そのような感想になった。
「顔が痛いだろ? とりあえず戻してくれよ」
「もう言わない?」
「ああ、そもそもいってほしくないからな」
「なら戻す――へへ、自信を持ってよ」
な、なんだこの笑顔は……。
滅茶苦茶触れたくなる類のそれ、でも、なんとか抑えた。
「おう、ありがとな雛」
「どういたしまして」
関係が変わった日ぐらいは健全にやろう。
それに時間が経過すればこのよくない考えも消えてくれるはずだった。
「……朝か」
時計があるから確認してみると六時だった。
隣には雛、それでも人二人分ぐらいは距離があるから大丈夫だ。
それにしても寝相がいいんだなあ、しかも仰向けのまま寝られるなんてな。
「うわあ!?」
彼女の頭上に置かれていた彼女のスマホに叩き起こされることになったみたいだ。
起こしてもらうためのものだから仕方がないとしても初期状態から大きい音だよな、と。
「おはよう」
「お、おはよう――ふぅ……これって自分で仕掛けた罠に自分からはまっているようなものだよね。蓮君がいるんだから目覚ましを設定せずに起こしてもらえばよかった」
「スタートは最悪かもしれないが早起きした分、いいことがあると思う」
「そうかなー……まあ、もう寝たい気持ちにはならないから洗面所にでもいくかー」
そうだな、顔を洗って歯も磨いてスッキリさせたい。
だからここらで帰るのが一番だ。
彼女の両親だって彼女とゆっくりしたいだろうからだ。
「じゃ、またな」
「え、帰っちゃうの?」
「ご両親のためにな」
朝から走りたい気分になって走っていたらあっという間に家に着いた。
扉を開けようとしたところでガチャリと中から開けられて「どうだった?」と。
「雛と付き合い始めたんだ」
「そっか、だから雛ちゃんも離れたくなかったんだね」
「え? あ」
やっぱり俺の走力はポンコツということか……。
それにしても音も立てずに付いてくるとは恐ろしい子だ。
「普通、あそこで帰るとかありえないから」
「昨日の夜は蓮、すぐに寝ちゃったの?」
「そうですね、この人は『早寝早起きは大事だから』とか言って聞いてくれませんでした」
一つ言い訳をさせてもらうとそれでも二十三時まで付き合ったんだ。
でも、祭りなんかにいっていたのもあってそれ以上は無理になった、まず眠気に耐えられなかった。
「タイミングが悪かったね、いつもなら偉いと褒めたいところだけど……」
「でも、夜更かしをしなかったことでこうして朝早くから雛と話せているわけだからな」
「すぐに帰った人がよく言うよ」
「あれは雛のご両親のためだったんだ、昨日は俺に独占されていたせいで寂しい思いをしてしまっていたかもしれないからさ」
俺が親の立場だったら大事な娘が大して知らない野郎と一緒にいたら不安になる。
だからせめて二人きりで過ごそうとする前に挨拶だけでもしてほしいところだ。
なので、昨日の夜にちゃんと動いておくべきだった。
「仲が悪いわけじゃないけどそこまでじゃないよ」
「まあまあ、結局こうして集まってしまっているんだから中に入ってみんなでゆっくりしよう?」
「そうですね、夏音さん本当にありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ蓮の相手をしてくれてありがとう」
まあ、いつもは「彼女ができたらいいんだけどね」みたいなことを言ってこない母でもこんな結果になって嬉しかっただろう。
ただ? 彼女と話しているときの顔についてどうしても悪い方に考えてしまう。
「母さんさ、雛が娘だったらよかったのにとか思っていないか?」
「そんなことは思っていないから不安にならなくていいよ。蓮のことは大好きだよ、これはお父さんだって同じだよ」
「そ、そうか」
じゃあ、娘みたいな年齢の女子と話せることが純粋に嬉しいということか?
中々そういう機会ってないもんなあ、働いてたまにスーパーなんかにいくぐらいじゃ尚更そういうことになる。
「そ・れ・に、雛ちゃんともっと仲を深めて結婚までしてくれればそれはもう家族みたいなものだからー」
「結婚ってまた飛びすぎな発言だな……」
「どうなるのかは分からないけどそれぐらいのつもりでいてもらわないとーねえ?」
「そうですね、別れたくはないですね」
彼女も母のことを気に入っているのは分かるが味方をしてやらなくていいのに。
二人きりなら「ま、どうなるのかは分からないけど飽きるまでは一緒にいようよ」ぐらいで終わらせると思う。
「ほら、雛ちゃんもこれぐらいの気持ちでいてくれているんだから蓮も自信を持って」
「わ、分かったよ」
「よしっ。さて、私は朝ご飯作りでも頑張ろうかな」
「俺も手伝うよ」
「あ、いいです」
いやもう本当に言動なんかは彼女と同じぐらいなんだが……。
何故かリビングからも追い出されてしまったから最初に決めていた通り、必要なことを済ませて客間に移動することになった。
「ま、緩くやろうぜ?」
「夏音さんじゃないけどこの先どうなるのかなんて分からない、でも、なるべく長く続くように動くからね」
「そ、そうか」
ここで見せてきたへにゃっとした笑みが朝から強すぎた。
「あ……」
「わ、悪い」
「ううん、ちょっと驚いただけで蓮君の方からしてくれるとは思っていなかったから嬉しいよ」
こ、ここは「蓮君ってもしかして変態……?」と最初の頃みたいなテンションでよかったところだ。
「大きいのにいつも優しい触れ方だよね」
「それはあれだ、痛い思いをしてほしくないからだ」
「はは、そっか」
勢いで抱きしめたのはいいが離れられなくなった馬鹿がいる。
あと、何故かどんどんとこちらを抱きしめる力が強くなってきて、
「痛い痛い痛いっ」
「はははっ、面白い!」
S属性なところを見せてくれた彼女だった。




