03
「謝ってくれました」
「そうなのか」
あの男子君もあのままじゃ不味いと冷静になれたのかもしれない。
あれからはなくなっていて、それどころか助けてくれたということも教えてくれた。
「嫌いなわけではなかったんですかね……?」
「そうかもしれないな。岩佐的にはどうだ?」
「私的にはあれから意地悪をしてくることもなくなって普通のお友達みたいにできているのでいなくなってほしくないですね」
はは、これを直接聞くことができたらあの男子君は嬉しいだろうな。
「大賀先輩はあれからも上地さんといられているみたいですね」
「ああ、なんだかんだで付き合ってくれる子なんだ」
「でも、上地さんはお友達の辰巳先輩が気になっているんですよね?」
「多分な」
「なのに大賀先輩との時間が多いのはなんででしょう?」
それはやっぱりまだ一人でいくのは勇気がいるからだろう。
ゆっくりしているときに大体頼まれるから勝手な想像とはならないはずだ。
「素直になれないだけ、とかありませんかね?」
「いつでも真っすぐに、は難しいだろうから仕方がないよ」
「あ、そうではなくて、本当は大賀先輩のことが気になっているとか……」
「ないだろうな、事あるごとに『この人とは嫌』って言っているぐらいだし」
それに近くに龍生がいる状態で俺を選ぶような子がいたら心配になるというものだ。
龍生が無理なら他に、それでいいと思う。
「とにかく、あれからはなにもなくてよかったよ」
「これも大賀先輩のおかげですよね」
「いや違う、あのときに大活躍したのはカサカサ君だ」
「え?」
見えていなかったのか、それはラッキーだな。
強い子なら男子だろうが女子だろうが平気で触れてしまうんだろうが彼女もそうとは限らないから知らなかったままの方がいいということもある。
「だから気にしないでくれ」
「そうですか、分かりました」
三時間目の休み時間にわざわざ来てくれたわけじゃなくて歩いていたら遭遇して話しかけてきたというのが本当のところだった。
昼休みまで残り一時間、多分今日はもうこんなこともないだろう。
あとは勇気が出ないだなんだと考えた俺なものの、最近は昼休みに上地が近づいてきて龍生のところまで連れていくというイベントもなくなっていたから少し寂しくもあった。
「おかえり」
「おう」
彼が言っていたように俺は上地のことを気に入っていたんだなあ。
「今日は体育もないのにそんな顔をしてどうしたんだ?」
「いや、腹が減ってな」
「もうすぐ昼休みになる、もう少しの我慢だな」
「だな」
気になるというかもはや好きな相手がいる子を変に気に入っても危険だよな。
これぐらいの距離感でいい、そういう風に求める自分というやつを見たくない。
周りがどんどん仲を深めて付き合って、結婚とかまでいっても俺はいつまでも見ているぐらいがよかった。
四時間目は正直に言うと集中できていなかった。
なんというかもう弁当に意識がいっていて駄目だったんだ。
今日は外にいきたい気分じゃなかったから迷惑にならなそうな空き教室なんかを探して歩いているといいところが見つかってそこで広げた。
「はあ~美味しいな」
自作の弁当でもこれは毎回言いたくなる。
俺ぐらいの調理能力でもここまでのレベルにしてくれる食材達の能力の高さがすごいと思った。
「もう……こんなところにいたの?」
「か、上地っ?」
驚いているこちらを他所に冷たい顔で「そんなに驚くこと? というか、なんで急に変えたの」と不満をぶつけてきているだけだった。
「あ、今日は外にいきたい気分じゃなかったんだ」
「ふーん、そうなんだ」
いやまあ、大体は食べ終わってから龍生のところにいっていたわけだからこうなっても違和感は――ある。
だってこれは確実に探したことになるわけだし、別にゆっくり一緒にいられるのは放課後だけなんだから焦らなくてもそこで近づけばいいはずなんだ。
「はは、もしかして岩佐さんに仲良くなるかもしれない男の子がいて気になっているとか?」
「いや、そこは普通に仲良くしてくれればいいよ」
最初はそんなんでもその後に上手くできれば前進することだってある。
大事なのは焦らないことだ、あとは悪いことをして構ってもらおうとするのも駄目だ。
「じゃあなんで、別に辰巳先輩と喧嘩をしたとかでもないんでしょ?」
「た、たまには変えたいときがあるだろ? 人間なんてそんなものだろ」
「そうかな、あれだけ気に入っていたのに急すぎるから言っているだけなんだけど」
「はは、俺がいつからあそこで過ごしているのかは分からない――」
「四月からでしょ」
正解のようで正解じゃなかった。
俺は去年の夏頃からあそこで過ごしていた。
「もっというと去年の夏頃からだ」
「だから怪しいってことじゃん」
「そうか?」
あれもこれもそれもと上手くできなければ引っかかってしまうのかもしれない。
自分に自信があるのはいいことだ、が、ここで頑張られても他のことに時間を使った方がいいのでは? と言いたくなってしまう。
「はぁ……使われたくないからってこと?」
「え、そんなのどんどん使ってくれればいいよ」
「でも、これだと私から逃げているみたいじゃん」
おいおい、こういうときにこそいつもの冷たさを見せてくれよ……。
「俺はあそこが好きだからな、次はまた戻っているよ」
「探したくないから変えるとしてもちゃんと言ってからにして」
「分かった、約束だ」
手を差し出したらちゃんと握り返してくれた。
無駄な時間をなるべく作らせないためにも昼休みはあそこで過ごそうと決めた。
「あちーな」
梅雨も終わりとなればこんなもんか。
というか、梅雨らしくなかったと言う方が正しいのかもしれない。
「蓮介、雛を見なかったか?」
「分からん」
「そうか、なら探すかな」
七月に入ってからは上地よりも彼の方がその気になっている気がした。
「あっ、大賀先輩っ」
「どうした?」
ただ、岩佐も龍生に対して一生懸命になってしまっていることが気になる。
三角関係になったときってどういう風に片付けるのか。
「辰巳先輩を知りませんか? いま二人で探しているところなんです」
「龍生ならいま上地を探すために出ていったぞ」
「そ、そうですか……あっ、大賀先輩は辰巳先輩が戻ってきたら私達が探していることを話してください」
「おーう」
まあ、微妙な反応をしていた上地が岩佐と一緒にいるようになったからいいか。
そこからに関して動かないといけないのはあくまで龍生だ。
「あっ」
「ん? おお」
あのときの男子君だ、久しぶりな感じがする。
「……先輩、岩佐の場所とかって……」
「いま俺の友達を探しているところなんだ」
「やっぱり岩佐は……」
「そんなの分からないぞ? いまは上地に頼まれただけかもしれないぞ」
とりあえず岩佐が歩いていった方を教えて出よう――とするのは不味いよな、一応はここで待っておかないといけない。
しかしなんだ、みんな恋をしたいお年頃なのかね。
「先輩っ、辰巳先輩は!?」
「あれ、会えなかったか?」
「会えなかったっ、もう疲れた!」
動き出すタイミングが悪かったか。
でも、ここから動けばまた会えなくなる可能性が高いからここで待ってもらうことにした。
彼女は何故かこちらをどかしてから俺の椅子に座って「本当に疲れた……」と。
「岩佐さんが変に協力的なのも悪いんだよね、なんでかあの子の前では動きたくなるの」
「気に入られたいとか?」
「いや全く、ただなんか本能がそうしろって感じでさ」
肉食獣と草食動物みたいな関係だと?
少し関わったことで岩佐に強いところがあることも分かったが……。
「灯台下暗しだったな」
「お疲れさん」
「蓮介もありがとな」
これでやっと動ける。
彼女も岩佐も彼といたいから探し回っていたわけだし、これ以上は必要ないだろう。
今日は校舎内も暑いからなるべく留まっていたくないんだ。
それなら早く帰れよと言われそうだがもう放課後になっているのにすぐに帰ろうとしないところが俺達の変なところだった。
「あ、岩佐、龍生なら教室にいるぞ」
「そ、そうですか、あのまま待っていた方がよかったですね……」
「早くいかないと上地に独占されるぞ」
「ふぅ、いえ、それはいいんです」
友達のために頑張った彼女が偉いと感じたので飲み物でも受け取ってもらうことにした。
「動いた後なら尚更こういうのが美味しく感じるよな」
「あのこれ……いいんですか?」
「おう、お疲れさんだ」
「ありがとうございます」
いまので余計に帰りたくなくなった。
完全下校時刻は早いのか遅いのか知らないが十九時だ、教室で盛り上がっているであろうあの二人も流石にその時間まではいないだろうから戻って休みたい。
「あ、それとあの男子君が岩佐を探していたぞ」
「そ、そうですか、それならこれを飲んだ後に探してみます」
「おう」
積極的に一人でいたいわけじゃないが一人の方がいいこともある。
ちゃんとやり方を変えているならあの男子君のためにも動きたくなっただけだ。
「今日も暑いわね」
「え、はい」
知らない女の先輩だ。
龍生には年上の友達もいるからもしかしたらそこ繋がりかもしれない。
「それ、美味しいわよね」
「そうですね、これはお気に入りです」
上地は……大変だな。
そもそも龍生を振り向かせようとすること自体が大変なのにライバルが多すぎる。
「あの、龍生――あ、辰巳龍生の友達ですか?」
「ええ、辰巳龍生君の友達ね」
ああ……。
「そうですか、教えてくれてありがとうございました。じゃ、これで失礼します」
岩佐がそういうつもりで龍生を見ていないならあの男子君とか他の男子に対して頑張ってくれることを願う。
あとは上地だが……いまのところは一番優先してもらえていると見てもいいだろうからここで頑張るしかない。
時間をかければかけるほど難しくなる状態、本来なら時間をかけてなんとかしていくことなのに……。
「あちー」
っと、いくら上地のことを気に入っているからってここまで偏った思考をするのは危険か。
あとは俺が気に入っているということ自体も知られてはいけないことだった。
「ていてい」
「どうした?」
「いや、この前勝手に離れたからそれの不満をぶつけているだけ」
近所の猫もたまに不機嫌なときはこうして攻撃してくることがあった。
その度に足を優しく掴んで「攻撃するな」と注意してきたが相手が彼女の場合だとそれもできないから微妙だ。
「卵焼きちょうだい」
「おう」
そう考えるとやっぱりあの猫もタイミング次第によってはツンツン子、はは、彼女みたいだ。
「というか、龍生と食べないのはなんでなんだ?」
「この前、友達もいるところに参加したことがあったんだけど……そのときにしつこく質問攻めをされて疲れちゃったの」
「だったら二人きりになれたところで龍生に頼んでみればいい、そうすれば他の場所で一緒に食べようとしてくれるぞ」
無理やり離れるよりはその方が精神的にもいいだろう。
「それだと友達に申し訳ないじゃん、なにも私だけの辰巳先輩ってわけじゃないんだからさ」
そういう考えて動けるところを高く評価してくれると思うが。
こうして俺が二人きりでいるのもそろそろアレだった。
いまは喜びよりも不安な気持ちが勝って気持ちよくいられない。
「ほら、龍生に頼みにいこうぜ?」
別にそういうつもりで見ているわけじゃないのにその対象と一緒にいたせいで冷たい言葉を吐かれるのは嫌なんだ。
「いまはいい、暑いからなるべく動きたくないんだよ」
「それなら尚更戻っておいた方がいい」
「今日はなに? またなんか変な状態になったの?」
「これは龍生的に面白くないことだろうからだ」
正直なところをぶつけていくしかない。
が、彼女は分かってくれなかった、それどころかこちらの背中を叩きながら「気にしなくていいって」と笑って言ってきただけだ。
「こんな程度で怒る判定をするのはよくないと思うよ」
「……意識されたいなら余計なことはやめるべきだ」
「ちょ、なにそのガチ顔」
「上地のためを思って言っているんだ」
残念ながら運動能力が微妙なようにメンタルの方も同じようなものなんだ。
なるべく自分が悪く言われないように動くのは当たり前のことだ。
「もう戻るよ」
「あっ、それなら私もっ」
すまんな上地よ……。
「また外で食べていたのか」
おいおい、昇降口まで下りてくるとかガチですやん?
「雛は少し待っていてくれ、俺は少し蓮介と話したいことがあるから」
「分かりました」
ひぇ、もう手遅れですやん……。
「おい蓮介、明日から俺も同じところで食べていいか?」
「ど、どうしてだ? ――あっ、上地といたいだけなら校舎内の他のところで――」
「いや、頼む」
「べ、別にいいが……」
物凄く真剣な顔、嫌じゃないが仮に嫌でも「お、おう」と答えてしまうようなレベルのそれ。
いつも楽しく同性と食べていたのにいきなりどうした、上地が関係しているようにも見えない。
「なんか疲れてな、昼飯のときぐらいゆっくりしたいからさ」
「それだけか?」
「あと、変な遠慮をするのはやめろ」
遠慮? いまでも彼の家にいけばどうこう言われる前に「ジュースを頼む」と調子に乗っているところなのに。
「本当は雛と仲良くしたいんだろ?」
「え――あ、そりゃ仲良くできた方がいいが意識しているとかじゃないぞ? 俺が気になっていたのはそろそろ龍生に敵視されそうだったからだよ」
「敵視? それはまたどうして?」
「だって上地が好きならその上地が俺のところにいっていたら面白くないだろ?」
俺達はこういう大事なこともお互いに隠さずに教え合いながら過ごしてきた。
だから今回も同じだ、チャンスを貰えたら無駄にはしない。
「はははっ、そんなことを気にすると思っていたのか」
「お、おい、聞こえたらどうする」
彼はともかく上地はそのつもりでいるんだから気を付けてほしい。
「最近、またなんでか先輩が来るようになってな」
「それってもしかして髪が長い先輩か?」
外れであってくれ……って、なにもあの人と決まったわけじゃない。
髪が長い女の人なんて沢山いる、そう不安になる必要もないか。
「あれ、知っていたのか。多分その人だ、俺の友達と話したって言っていたからな。それで『仲良くしたいの』とも言われてさ」
「それで龍生はどう答えたんだ?」
「いまは保留中だ、だって半年ぐらい顔を合わせていなかったからな」
半年、半年ねえ、なにかがありましたよと教えてきているようなものだ。
んー友達としてなら何人とでも仲良くすればいいものの、そうじゃないならはっきりする必要がある。
早ければ早い方がいいのはここでも同じ、いや、これに関しては特に早くなければいけないはずだった。
「おい龍生」
「大丈夫だ」
それならいい、あとこれなら敵視もされなさそうだから安心だ。
ただあれだよな、きっとそうやって切り替えたら来なくなるんだろうな。
「話は終わりました?」
「おう」
応援したい、だが頑張れば頑張る程、駄目だったときのダメージは大きくなる。
時間が経過した後にそうなるぐらいならって先輩に対して動いてほしいとも考えかけてすぐ捨てるの繰り返しだ。
「それなら……って、今日はまだお昼休みで頑張らなければいけないのか……」
「はは、頑張ろうぜ」
「はーい……」
いやっ、少しずつ変えてきている彼ならきっと応えてくれるはずだ!
不安になるな、こういうのは無自覚に表に出してしまって迷惑をかけることになる。
駄目になったときばかりのことを考えるというのも最低だろう。
いまからしっかり切り替えるぞ俺。
「ぷっ、あははっ、確かに頑張らなければいけないけどいまからそんな顔をする必要あるっ?」
「え」
「しかも本人が分かっていないのが面白いよ!」
楽しそうだ。
よく分からずに彼の方を見てみたら何故か肩に触れてから歩いていってしまったのだった。




