02
ら、ラッキー一週間経過してもあの幼馴染同士らしい男女が突撃してくることはなかった。
あの子も自分の力で龍生に近づけているし、いいことばかりだ。
「蓮介、今日の放課後に蓮介の家にいくわ」
「お、それはどうして?」
「この前、夏音さんとそういう約束をしたんだ」
「そうなのか」
早い時間に帰ってくるようになってから家の色々なところで休んでいたり、帰ってくるなりすぐに散歩にいったりと自由なところがあるからありえないこともないか。
「分かった」
「二人きりだから安心しろ」
「え、別にあの子とかがいても問題ないよ」
「はは、じゃあ連れてくるか」
一緒にいたいならそうした方がいい。
もっとも、目的地が俺の家となれば参加するかどうかは二十パーセントぐらいか。
「他の誰にも邪魔されないこの時間、最高だな」
「残念でした、ここには先客がいるのでした」
なっ!? とはならない。
この場所が最高だということを他の子も知っているというだけのことだ。
「誘ってくれたから喜んで『はい!』って答えたらなんかあなたの家にいくことになっていたんですけど……」
「なんか俺の母さんと約束をしていたみたいでな」
「一応聞いておくとどんな人なの?」
「俺の母さんは……」
なんて答えたらいいのか。
歳は三十六歳で明るい人ではある。
買うまでいくことは少ないものの、服を見にいくことが好きな人だ。
でも、コロコロ変わる人だから難しいところがあったんだ。
「話しづらい感じ……?」
「いや、全くそんなことはない」
「なら大丈夫か。せっかく辰巳先輩が誘ってくれたんだから今日は我慢をして付いていくよ」
なんか申し訳ない気持ちになった。
龍生ももっと他のところにいくときに誘ってやればいいのに。
「そんなに見てきてなに?」
「いや」
俺を驚かせたい、慌てさせたいという気持ちから誘っているだけの可能性も高いのが怖いところだった。
だから自分がしたわけでもないのに微妙な気持ちになって、今日はなにかあったわけじゃないのにお気に入りの場所から離れることになった。
「あっ」
「ん? あ……」
男子君じゃなかっただけマシか……?
というか、あの酷い状態を見てよく近づこうと思ったなこの子。
「あの、この前はありがとうございました!」
「い、いやいや、だってあの子は幼馴染だったんだよな……? だったらあの子だって少し経過したら返していたはずだよな。いやもう余計なことをして悪い」
最近は上手くいかない。
これはもうあの猫に癒やしてもらうしかない。
「幼馴染……? あ、先輩の幼馴染さんということですか?」
「え、幼馴染じゃないのか?」
「は、はい、あの子は何故かいつもああしてなにか取ってくる子で、幼馴染というわけでは……はい」
マジか、あの子はなんでそんな嘘をついたのか。
またポイントを稼ぎそうだから近づかないようにするために? でも、それならこの子にもちゃんと言っておかなければ意味のないことになってしまう。
「あ、とにかくこれ、ありがとうございました」
「おう」
歩いていくところをなんとなく見ていたら「あの子ってすごいね」と。
「変な先輩相手でも一応は動いてくれたからちゃんとお礼を言えるんだね」
「無駄な嘘をつくのはやめてくれ」
「そのまま信じた先輩が悪い」
いやだからってなんにでも疑ってかかるような人間にはなりたくなかった。
「ま、嘘をついたことは悪かったよ」
「おう」
「あと、今日も辰巳先輩のところにいきたいから手伝って」
「それは任せろ!」
「はぁ、変な人だね」
いやいや、この子といられて龍生の奴も楽しそうだから見ていて嬉しくなるんだ。
一ミリだけでも役に立てているということがいい、今回も頼まれて動いていることがいい方向に働いている。
ただ、この時間はもう余裕がなかったから放課後に動くことにした。
先に龍生に言っておけば問題も、
「あの子を連れてきてほしいんだ」
そう、こうして先に動いておけばもっと楽になることもある。
「一応聞いておくが理由は?」
「連れていきたいところがあってな」
「分かったよ」
まあ? 俺としたら自分からいった方が一発だとは思うがこうして受け入れたからにはちゃんと守るさ。
放課後が楽しみになった。
「ただなあ」
昼休みや放課後になる度に教室に突撃することは俺だけで考えればなにも気にせずにできる、が、あの子からしたら嫌だろうからせめて名字だけでも教えてもらいたい。
「なに腕を組んで難しい顔をしているの?」
「ああいや」
こうして出てこられてしまうとそれはそれでな。
この状態で名字でも必死に知ろうとしたら変な勘違いをされてしまうかもしれない。
そうしたら協力することもできなくなってしまうから龍生よりも難しい状態だった。
「早くいこうよ」
「おう――おう?」
「ま、待ってください」
いやこの子すごいな、中々できることじゃないぞこれは。
「私達はいかなければいけないところがあるの、だから用があるなら早くしてくれない?」
おいおい、なんで同性の子に対してそんなに冷たい声音を出せるのか……。
やってきたこの子だって怯えて――はいなさそうだ、未だにこちらの腕を掴んだままだ。
「わ、私も付いていっていいですか?」
「ふん、邪魔しないならいいよ」
「邪魔なんてしませんっ」
「ならいいよ、付いてきて」
同じ教室から出てきたぐらいでクラスメイトなんだからさあ……。
俺に対してよりも厳しく感じるぞ。
「お、友達か?」
「全く友達じゃありません」
彼の前でも同じままって同性関連のことで嫌なことでもあったんだろうか?
「なら蓮介の友達か、はは、女の子の友達がいるとか蓮介らしくないな」
「その人の友達でもないですよ」
「じゃあ……なんだ?」
「知りません、付いてきたがったので連れてきました」
みんなで見ることになって慌てた感じのその子は「い、岩佐桃音です」と自己紹介をしていた。
彼はこちらの腕を軽く肘で突いてから「ちゃんと自己紹介をしてくれる子でよかったな」と笑う。
「ちょ、それだと私になんか問題があるかのような……」
「実際、なんで蓮介には知られたくないんだ?」
「それは友達だと勘違いをして余計なことをしてきそうだからです」
うっ、友達だからと過度に世話を焼こうとして嫌われた過去が……。
そしてこの前出てきた三年生の先輩がその子の前で格好いいところを見せて二人は恋仲になった。
いい笑みを浮かべながら「余計なことはしなくていいからな」と言われたときのことを思い出すと……体が震えてくる。
「でも、本当のところは協力してくれているだけだよな? 流石に友達を悪く言う子とは仲良くできる自信がないな」
「うっ……」
あれ、なんか俺が睨まれている。
だが彼はこういう存在だからどうにかしたいなら表面上だけでも合わせるしかない。
「な、仲良くしましょう」
「は? 急になに?」
ひぇ。
「大賀先輩は優しいですよ?」
「ハンカチを取り返してもらったぐらいでその評価はどうなの?」
うーん、同性の友達が欲しいのに上手くいかないからこその冷たさなのかもしれない。
怖いんだ、だから強く出ないと不安になってしまうんだ。
幸い、岩佐の方は拒絶モードじゃないから協力してもらえば、うん、一人だけでも友達ができれば変わるはずだった。
「でも、実際に私はそれで困っていたわけですからね。そういうときに大賀先輩は躊躇しないで動いてくれたんです」
「だって、みんながこの子みたいな感じだったら先輩にとってはいいかもね」
「それはあなたがおかしいだけです」
お、け、結構言うなあ――あ、やばい。
「なんなのあなたは!」
「待て待て待て、髪を掴もうとするのは流石に駄目だろ」
「邪魔っ、どいて!」
いてっ!? よ、容赦がない。
岩佐の方は最初のときと違って真剣な顔で彼女を見ているだけだった。
それがまた気に入らなかったのかまたやろうとしたから間に入ろうとしてたときのこと、
「もうやめろ!」
「「え」」
彼が物凄く怖い顔になりながらそう叫んだところで止まった。
「きみにはガッカリだ、もう帰る」
「あ、おい……」
えぇ、歩いていってしまったぞ……。
「むかつく!」
名字も知らない子も反対方向に走っていってここには俺と岩佐だけになった。
「あーなんか悪かったな」
「大賀先輩が悪いわけではないですよ」
帰るのもアレだから教室に戻るか。
まだあれからほとんど時間が経過していないのにクラスメイトはみんな消えていた。
まあ、いてもいなくても窓際だからそこはいい、窓の外を見ていたら落ち着くからだ。
「あの子はずっとあんな感じなんですか?」
「それでも龍生の前じゃ装えていたんだがな、今日は駄目だったな」
「教室でもなにかあったわけではありませんでした」
そうか、なら同性に対するなにかがやっぱり……。
「いつも挨拶をしたときはつまらなさそうな顔であっても挨拶をしてくれるぐらいだったんですけどね」
「岩佐――」
「分かっています、お友達になれるまで話しかけ続けます」
「頼む」
このまま残り続けても微妙だから探すか。
なによりも龍生にあんな反応をされてしまったことが気になっているはずだから。
俺も喧嘩をした後なんかは落ち着かなかったし、誰かがいた方がいいこともある。
「悪い、探しにいくわ」
「はい」
ポンコツスタミナが無くなる前に見つかってほしい。
一番いいのはこの状態でも家に帰ってくれていることだがな。
「あーやりづらい!」
名字すらも知らないから呼んでみて反応するかどうかを確かめることもできないなんて。
「がっ!?」
し、しまったっ、このままだと地面に!
うん、ここで上手く対応できるならサッカーなんかであそこまで友達に怒られることもないんだよな。
「はぁ……なにをしているんだ俺は」
「本当にね」
「おお……転んだ甲斐があったな」
「なにそれ」
見つかればそれで満足だ。
ただなんだろう、思ったよりも普通だ。
「んーさっきのは分かりやすく失敗しちゃったよ」
「龍生があんなに怒ったところは久しぶりに見たな」
「うーん……もう駄目かな?」
「その判断はまだ早い。きみさえ大丈夫なら龍生の家にいこう」
岩佐のことは聞かないでおこう。
せっかく悪くない感じなのにスイッチが入ってしまったら駄目になってしまう。
「はぁ……上地だよ」
「そ、そうか!」
なんだいなんだい、やっぱり可愛気のある子じゃないか!
だからこそ動きたくなるというものだ。
「だからって勘違いしないで……でも、あなたもいてよ」
「任せろ!」
メッセージを送ってみると龍生の方は真っすぐに家に帰ったみたいだった。
龍生の家にいくのなんて呼吸をすることぐらいには普通のことだから気にせずにいってチャイムを鳴らす、するとすぐに出てきてくれた。
「よう、連れてきたぞ」
「……その日によくやるよな」
「こういうのは早い方がいいからな!」
上地の方が気になりそうだったから腕を掴んで彼の家に上がる。
いつもなら「ジュースを頼む」と調子に乗っているところだが……今日は大人しくしていよう。
「いやこの空気どうしたらいいんだよ……」
「仲直りしてくれ」
「そうは言われてもな……」
「ごめんなさい」「いいよ」で終わる話だろう。
「あー……蓮介のことを悪く言うのはやめてほしい、それだけでいいんだ」
サッカーの時間の自分にも言ってもらいたいところだ。
初心者にはサッカー部にとって普通のことでも上手くやるのは無理だから。
「は、はい」
「あと、そろそろいい加減に名字ぐらいは教えてやってくれ」
「それはもう……はい」
「そうか、じゃあまあ……さっきは怒鳴って悪かったな」
「いえ、こちらこそすみませんでした」
めでたしめでたし。
少し走って喉が渇いていたから結局いつものようにジュースを求めておいた。
ここに上がったからにはこれを飲まなければやっていられない、甘さ全開のそれで疲れも癒える。
「上地、あとは岩佐と仲良くできるようにしないとな」
岩佐がこれからも俺達と一緒にいようとするなら集まる可能性も高い、その度にあの冷たい声音を聞くことになるのが嫌だからなんとかしたい。
「それは嫌だよ」
「なんでだ?」
「だってあの子、表裏差が激しそうだし」
「ちゃんと一緒に過ごしたこともないのにその判断は駄目だろ」
「でも、実際にそうだったじゃん……」
だからそれは彼女が普通にやれていたら真っすぐに指摘されることもなく、みんなで仲良くというやつができていたと思う。
「龍生はどう思う?」
「んー二人で名字呼び捨てだと被るな」
「そこかよ、じゃあ俺は『上地ちゃん』って呼ぶか」
「え、気持ちが悪いからやめて……辰巳先輩は名前を知っているんだからそっちが名前呼びに変えてくれればそれで……」
「「いいのか?」」
名字だけ教えたのは名前はまだ知られたくなかったからじゃないのか? よく分からないところもある子だな。
「はい」
「なら雛って名前で呼ぶよ」
ただ上手いな、そしてどんどんと言うことを聞いていく彼の胸中はどんな感じなのか。
「そういえば上地をどこかに連れていきたかったんだろ? それっていまからでも間に合う場所なのか?」
「余裕で間に合うぞ、だって近所の公園だからな」
「あ、まさか……」
「そうだよ、普通に止められるぐらいには練習しようぜ?」
なんで彼はこうなんだろうか。
これはっ、と期待できそうなところで落としてくる天才だ。
彼のことを気にしている彼女からしたら残念な、
「早くいきましょうっ」
「おう、雛なら乗ってくれると思っていたぞ」
一緒にいられればなんでもいいのか……?
あと、直前まで危うい状態だったからこそ大きいのかもしれない?
「雛」
「はい」
「おいおい、雛だってああしてできるんだぞ? その巨体を活かせよ蓮介」
「そうは言われてもなあ」
うん、なんか体育の時間と違って優しさを感じられるから止めることはできた。
野郎ばかりで集まるとイライラしてしまうんだろうか、もしそうなら上地の存在が俺にとって滅茶苦茶ありがたいことになる。
「そんなに先輩は駄目なんですか?」
「駄目だな、失敗しすぎて涙目になっているぐらいだ」
「はははっ、見てみたいです!」
やめてくれよ……。
「分かった、雛がいてくれれば失敗しないかもな」
「でも、同じ学年じゃありませんからね」
「いやでかいって、雛にはもっと蓮介といてもらいたいな」
これ、俺を使って遠ざけようとしていないか?
やっぱりさっきのあれは悪い意味で大きすぎたのか。
まあ、最初から簡単に惚れたりする男子じゃないし、近づいてきた子にも大体はこんな感じだったから彼女だけがある意味で特別、というわけではないんだろうが……。
「それにこの人、さっき転んでいましたからね」
「ん? 走っていたのか?」
「ああ、なんとか上地を見つけようとしてな」
ただ? 今回もあのタイミングで本人が現れたということは実は近くにいたのかもしれない。
そういうのもあって追っているつもりが追われていたと、昼休みみたいな状態になっていた可能性が高かった。
「蓮介さ、雛のこと気に入っているだろ」
「俺は上地みたいな子の方が話しやすくていいな」
「えぇ……私は先輩みたいな人嫌だけど」
「はははっ、まあそういうこともあるよな」
合う合わないがあるから仕方がない。
あとは気になっている異性がいる前で合わせたくないときだってあるだろう。
これは彼が悪い、一緒にいたくないとしても周りを使ってなんとかしようとするのは駄目だ。
「さ、続きをやろう、俺だって下手くそすぎるままじゃいたくないからな」
「おう、頑張れ」
次は「おっ」といい反応になるようにしてやるよ。
それができるならというやつで結局は変わらないかもしれないが、なにもしないで最初から諦めているよりはマシだと思いたかった。




