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落ちこぼれ治療師は傷ついた騎士の剣を取り戻す  作者: 月森しおり
第一章 旅の治療師と傷ついた騎士
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鉱山道の灰色 4

 集会所には、すでに数人の村人が集まっていた。

 石切りをしているらしい中年の男。

 炭焼きの青年。

 年配の女性。

 そして、十代半ばほどの少女。

 皆、咳をしている。

 高熱ではないが、顔色が悪い。

 ミラは順番に診た。

 喉の炎症。

 微熱。

 胸の奥の重さ。

 手足の冷え。

 ただの粉塵による咳ではない。

 魔力の流れが、胸のあたりで細かく乱れている。

 ミラは魔力結晶を取り出し、最初の患者の胸元へ近づけた。

 黒い筋が、薄く走る。

 エリオットが低く言った。

「胸の奥じゃない。背中側だ」

 ミラは顔を上げる。

「どのあたりですか」

「右肩甲骨の下。小さい棘が刺さっているように見える」

 患者の男が不安そうに二人を見る。

「棘?」

 ミラはすぐに穏やかな声を作った。

「魔力の流れが少し乱れています。深呼吸をしすぎると咳が出るので、ゆっくり呼吸してください」

 彼女は背中に手を当てた。

 確かに、そこに黒い棘のような気配がある。

 前の村の少年よりも薄い。

 だが、数が多い。

 ミラ一人では全員をすぐに治すのは難しい。

「エリオットさん」

「ああ」

「位置を教えてください。私は一人ずつ流れを戻します」

「分かった」

「ただし、右腕に力を入れないでください」

「分かっている」

 エリオットは患者から距離を取り、壁際に立った。

 彼の護符が薄く光る。

 ミラのペンダントも温かい。

 黒い棘。

 咳。

 坑道からの風。

 全てが繋がっていく。

 ミラは手をかざし、白花の光を細く流した。

「少し温かくなります。痛ければすぐ言ってください」

 患者が頷く。

 ミラは黒い棘を包む。

 身体から無理に引き抜くのではなく、異物として外へ押し出す。

 エリオットの声が落ちる。

「今、上へ逃げた」

「上ですね」

「違う。戻った。背中の中央へ」

「分かりました」

 白い光が、棘を追う。

 患者が激しく咳き込んだ。

 黒い靄が、ほんの少し口元から漏れる。

 ミラはすぐに浄化布をかざした。

 靄は布に吸われ、薄く消えた。

 患者の呼吸が少し楽になる。

「……胸が、軽い」

 男が驚いたように呟いた。

 村人たちがざわめく。

 ミラはすぐに言った。

「完全に治ったわけではありません。今日は安静にしてください。水を少しずつ。坑道には近づかないでください」

 だが、その時だった。

 集会所の床の隙間から、黒い気配が細く伸びた。

 ミラは気づかなかった。

 彼女の意識は患者の呼吸に向いていた。

 エリオットが鋭く声を上げる。

「ミラ、足元だ!」

 ミラは反射的に一歩下がった。

 黒い気配が、彼女の靴先をかすめるように伸び、すぐに消える。

 ほんの一瞬。

 だが、確かにミラを狙ったように見えた。

 エリオットの護符が強く光る。

 右手の指がわずかに動いた。

 ミラはすぐに叫んだ。

「右腕は使わないで!」

 エリオットは歯を食いしばり、右腕の動きを止めた。

 左手で護符を押さえる。

「……止めた」

「痛みは?」

「三」

「熱は?」

「上がっている」

「診ます。ですが、まず床から離れてください」

 ミラは患者たちを椅子ごと集会所の入口側へ移動させた。村長が慌てて手伝う。

「何が起きたんですか」

「床下に、魔力の乱れがあります。ここではこれ以上治療しません。風通しのよい別の場所を使います」

 ミラは冷静に言った。

 だが、心臓は強く打っていた。

 今の黒い気配は、患者の体内にあったものとは違う。

 反応した。

 ミラの治癒に。

 それはまるで、こちらを見ていたものが、初めて手を伸ばしてきたようだった。


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