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落ちこぼれ治療師は傷ついた騎士の剣を取り戻す  作者: 月森しおり
第一章 旅の治療師と傷ついた騎士
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工房便の小包 2

 朝食後、二人はまず魔道具屋へ向かった。

 リンドルの町は、朝から活気づいていた。広場には荷馬車が並び、商人たちが荷を積み替えている。野菜を積んだ荷車、布を運ぶ馬車、鉱石らしい袋を載せた荷台。

 その中に、昨日見た黒い幌の荷馬車はなかった。

 エリオットはさりげなく周囲を見たが、足は止めなかった。

 ミラも気づいていたが、何も言わなかった。

 今は、手紙を出すことが先だ。

 魔道具屋の店主は、二人が入るとすぐに顔を上げた。

「来たね。便に乗せるものは用意できたかい?」

「はい」

 ミラは手紙と小瓶を取り出した。

「父オリヴァー・コックスの工房宛てです。可能なら、直接工房へ届くようにお願いします」

「中身の名目は?」

「薬草処理に使う触媒片の標本と、工房での確認依頼。外側にはそう書いてください」

「なるほど」

 店主は小瓶を直接触らず、薄い手袋をはめて受け取った。

「反応は?」

「浄化済みで、かなり薄いです。ただし、念のため封印を二重にしてください」

「分かった」

 店主は手際よく小瓶を小さな金属筒に収め、さらに木箱へ入れた。隙間には乾いた白石の粉を詰め、蓋を閉じる。

「これなら工房便の部品箱に紛れ込ませられる。外から見れば、金具か小さな部品だ」

「ありがとうございます」

「ただし、絶対安全とは言わないよ」

「分かっています」

「王都に着くまで三日から五日。道の状態によってはもう少し。オリヴァー工房へ直接届くよう手配する」

 店主は封筒へ宛名を書きつけた。

 ――王都 オリヴァー・コックス工房宛。

 ミラはその文字を見て、少し胸が詰まった。

 父がこの手紙を読む。

 おそらく、すぐライヘルへ知らせる。

 父は心配するだろう。

 ライヘルは眉間に皺を寄せるだろう。

 それでも、今は知らせる必要がある。

 店主が木箱を奥へ運ぼうとした時、エリオットが声をかけた。

「工房便は誰が運ぶ」

「リンドルから王都へ向かう職人組合の馬車だ。途中で一度、金具職人の町に寄る。護衛は二人。荷の管理者は私の甥だ」

「信用できるのか」

「少なくとも、金を積まれて荷を開けるような子ではない」

 エリオットは店主をじっと見た。

 店主も逃げずに見返す。

 少しの沈黙の後、エリオットは頷いた。

「分かった」

 店主は小さく笑った。

「慎重な連れだね」

「元騎士なので」

 ミラが答えると、店主は納得したように目を細めた。

「なるほど。なら、いいことだ」

    

 手紙を預けた後、二人は買い物に回った。

 まずは薬種屋。

 ミラは止血草、熱冷まし用の乾燥葉、胃に優しい薬草、痛み止めの材料、浄化に使える白石粉を選んだ。店主と薬草の質を細かく確認し、葉の色や香りまで確かめる。

 エリオットはその横で、少し驚いたように見ていた。

「薬草を見る目が厳しいな」

「旅先では品質が命です。悪い薬草は効きませんし、時には毒になります」

「剣と同じだな」

「剣もですか?」

「ああ。刃の歪み、握りの傷み、重心のズレ。手入れが悪ければ命に関わる」

 ミラは薬草を包みながら頷いた。

「道具を信頼するには、状態を知る必要があるんですね」

「そうだな」

 エリオットは少しだけ自分の右手を見た。

「身体も同じか」

「はい」

 ミラは静かに答えた。

「だから毎日確認します」

「分かった」

 次に布屋へ向かった。

 清潔な晒し布、包帯に使える柔らかい布、固定用の幅広い布。ミラは必要な量を慎重に選ぶ。

 布屋の女主人は、エリオットの右腕を見るとすぐに言った。

「その腕、旅には揺れそうだね。今の布じゃ肩が痛むんじゃないかい?」

 ミラが目を輝かせる。

「そうなんです。身体に負担をかけずに固定できる帯を探していて」

 エリオットは嫌な予感がした顔をした。

「ミラ」

「必要です」

「まだ何も言っていない」

「言いそうでした」

 女主人は笑った。

「採寸してやろうか。腕に触る必要はないよ。肩幅と胸回り、帯の長さだけ見ればいい」

 エリオットはわずかに固まった。

 ミラがすぐに言う。

「女性の店主さんですし、私は少し離れています。必要な治療補助具です」

「……分かった」

 エリオットは渋々頷いた。

 女主人は手際よく採寸し、右腕を身体に沿わせて支えるための改良帯を提案した。肩だけに重さがかからず、背中と胸の布で分散する形だ。

「これなら馬車の揺れにも少し強い。外套の下につければ目立たないよ」

「とても良さそうです」

 ミラは真剣に見ている。

 エリオットは複雑そうだった。

「そこまで必要か」

「必要です」

「即答だな」

「旅を続けるなら必要です」

 女主人が笑いながら布を裁つ。

「いい治療師さんじゃないか。言うことを聞きな」

「皆それを言う」

「皆が正しいんだよ」

 エリオットは返す言葉を失った。

 改良帯は昼過ぎまでに仕上げてくれることになった。

  

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